17 話すか、キスか
「なっ!ここは……寝室!?姫の!?一体なんなんですか!!」
説明しよう!
これこそが長年貴族や役人のたぬきじじいどもとの付き合いによって培われた観察眼により、あ、こいつ口割らないな、ということがわかったので、狭い密室に二人きりというシチュエーションによって圧力をかけようという、ミーティア王族流圧迫交渉術なのだ!
「なぜ無表情で黙っているのですか!説明を!」
予定通り、エドガーは取り乱してる様子。
ここで追い打ちをかけるのが定石だ。
「客間では話せないと言っていたから、場所を変えたの。さあ、何がわかったのか話してちょうだい。」
「あの場所では話せないという意味ではないですよ!」
知ってる。
そうではないとわかった上で利用させてもらった。
「だからどうして黙ってしまうのですか!人の悪い顔で笑っていないで、ここから出してください!」
いい傾向だ。
エドガーはだいぶ慌てている。
慌てると人は口が軽くなるものだ。
落とすはたやすいぞ!
「だから、さっきから言っているように、かぼちゃ騎士についてなにがわかったのか話してくれたら出してあげる。」
「それは……今は言えません!」
プイッじゃない!
エドガーは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
絶対話さないという強い意志が感じられる。
一体何がそんなに話したくないのだろうか?
仕方がない、もうひと押しするか。
「どうしても、話さない?」
「どうしても、です。」
「キスするわよ。」
「はいい??」
「話さないと、キスするわよ。」
「なんでですか!」
「さあ、話すか、キスするか、選びなさい。」
「なんですかその逃げ場のない二択は!」
「さあさあさあ!!」
後ずさりするエドガーにじりじりと近づいていく。
ベッドまであと数歩というところまで追い詰めると、エドガーは観念したように言った。
「わかりました。あの首なしについては、わかったことはお話します。ですが、今はまだあくまで仮説の段階ですので、一度教会に戻って調べさせて下さい。この仮説が証明されたら、お話いたします。」
「いいわ。それじゃあ、キスしましょっか。」
「なんでですかぁっ!話すと言ったではないですかぁっ!それにプラトニックでいようねと約束したではありませんか!」
「やあねぇ、冗談よ。じょ・う・だ・ん!」
「からかうのはやめて下さい……。全く。たちの悪い……。」
エドガーは冷や汗をぬぐった後、ベッドがそばにあることに驚き、驚くべき跳躍力でその場から飛びのいた。
そして、乱れていた髪や服を整えた後、眼鏡もかけなおしてから、じろりとこちらを見つめてきた。
「なによ。」
「なぜ姫はそこまであの首なしにこだわるのですか?」
「なぜって……。」
「今まではやってきた悪魔や魔物はさっさと追い払っていらっしゃったのに、ずいぶんと興味をもたれた上に、護衛騎士にまでしようとされて。」
「べ、べつにいいじゃない。人外を護衛に採用しても!」
「人外ですが、立派な成人男性です。危険です。ただでさえ貴方の周りには四六時中騎士が張り付いているうえに、いろんなものがわらわらと引き寄せられているというのに。」
なぜエドガーから責めるように言われなくてはいけないのだろうか。
「私の周りには男性はおろか、なにも引き寄せられてなんかいないけど?」
「貴方はそういう認識なのですね……。なおさら危険です。そもそも、あの二人の護衛騎士も危険なんですよ、いろんな意味で。」
「アレクとコンラッドが?危険?まっさかあ~。何言ってるの?」
「……まあ、いいです。それよりも、あの首なしです。いいですか、あれは人の形をしていますが、神の理をはずれた、本来は存在していてはならないものなのです。即刻灰にでもして、地に返すべきです。」
「ずいぶんと冷たいこと言うのね、聖職者の癖に。」
私の反論に、エドガーは不機嫌そうに眉をひそめた。
エドガーがこんな態度をとるのは初めてだ。
「そんなの、かわいそうじゃない?」
「かわいそう?あれが?」
「そうよ、やりたくもない人殺しなんかさせられて。」
「悪魔も逃げ出すほどの邪悪な奴に、ずいぶんとお優しい。さすがは我らが姫君であらせられる。」
口を歪ませて皮肉気に言うエドガーに思わず腹を立ててしまった。
「エドガー!」
「なんでしょうか?」
「私はね、自分が王族だからって、私のそばにいてくれる人を人殺しになんかさせたくないの。そりゃあ、私がいなくなったら、権力のバランスが壊れて女王陛下の政治も危うくなるかもしれない。でも、それだけよ。たかがそんなことのために、王位継承権第二位を守るために、騎士が罪を追う必要なんかない。もしもそんな状況になったら、喜んでこの命をさしだすわよ!」
「またあなたはそのようなことを。」
「アレクもあの騎士も、自分を何だと思ってるの?あんなに簡単に人を殺そうとしたり、殺人の命令を平気で聞いたり。権力者の道具じゃないの。騎士だって、大切な、国の一員なのよ。それをあんな……。」
怒りで拳を握りしめていると、エドガーがそっとそばに寄って来た。
「貴方は、あの首なしに自身の護衛騎士達との関係を投影して、そして憐れんでおられる。ばかばかしい。」
「ばかばかしい?ちょっと、言っていい事と悪い事があるでしょ!」
「ええ、実にばかばかしい。おおかた、護衛騎士は嫌々貴方の護衛についているのだろうと思い込んでおられるのでしょうが、そんなことはありません。彼らは彼らの意志で、貴方をそばで貴方を守ろうとしているのです。……腹立たしいことに。」
「腹立たしい?」
「すみません、口が過ぎましたね。どうも最近は感情が抑えられなくていけません。とにかく、貴方があの首なしを憐れんで、自分のもとで働かせようとするのは権力者の傲慢というもの。それでは奴の生前の主や、邪法を使った契約者となんら変わりません。」
確かにエドガーの言う通りかもしれない。
あの首なしの騎士も、私の元にいれば嫌な思いをさせないなんて、そんなことを考えてはいた。
でもそれは、私の考えであって、必ずしも彼にとってはそうだとは限らない。
無理やり私の考えに従わせようとするのは、たしかに同じことだ。
自己嫌悪で思わずため息がもれる。
「言いすぎました。……お許しを。」
「いいえ、謝らないで。エドガーは正しいことを言ってるもの。言ってくれてありがとう。」
微笑んで礼を言うと、エドガーは咳払いをして目線をそらした。
「奴を……いえ、彼をもう他者から解放してあげましょう。おそらくは、彼は契約の報酬として自らの首を望んでいるはず。それを用意することができれば、契約は消滅します。まあ、首を探し出すのはなかなか難しそうですが。」
「そうね。ええ、そうだわ。」
「姫、それから、婚約者として言わせてください。あの首なしに深入りするのはやめてください。貴方が傷つくことは、私には耐えられない。」
「彼が私に剣を振るうようには思えないのだけど……。」
「いえ、そういう意味ではなく……。」
エドガーはまたあの気まずそうな表情をうかべて、それから何かを決心したようにこちらを見つめてきた。
「とにかく、早急に調査をいたします。それまでは、あの首なしを護衛騎士に見張らせておいてください。誰かに危害を加えないという保証はないのですから。姫の部屋から出さないほうがいいでしょう。」
「わかったわ。」
「そして、最後は教会できちんとした形で弔いましょう。」
「ありがとう、エドガー。」
きっとすぐにでもあの首なし騎士を消滅させる方法をエドガーは持っているんだろうけれど、私のわがままにエドガーが譲歩してくれた。
なんだかんだいって、この神父は優しい。
まあ、予算に対してはなぜか異常に厳しいけど。
「それと、コーデリアって人の。」
「ところで、この部屋、王族の寝室にしては質素過ぎませんか?」
エドガーが珍しく、私が言おうとしたことを遮って話してきた。
いつもはちゃんと、私の話をじっくりと聞いてくれるのに。
「そう?」
ぐるりと改めて寝室を見まわしてみたけれど、なるほど、たしかに質素というか、ベッド以外は何もない。
「はい、さながら修道士の部屋の様です。あのごちゃごちゃとわけのわからないものがあちらこちらに転がっている客間とは大違いですね。」
「悪かったわね、ごちゃごちゃとわけのわからないものを転がしてて。落ち着くのよ!」
「ここ最近は普段も質素なお姿でいらっしゃることが多いようですが、もしや予算の関係で?」
「もしやもなにも、誰かさんのおかげでね!」
「しかし、ここまで服飾の質を落とすほど予算を削った覚えはないのですが。」
「あのねえ、やれ舞踏会だの、やれ晩餐会だの、そのたびにけっこういいドレスを作らないといけないのよ。それに、公の場に出るのに毎日同じドレスを着るわけにはいかないし。服飾費以外からもかき集めてこないと、全然足りないの。寝室が質素なのは、身の回りの日用品用の予算も、ドレス代にあてているからよ。」
「ええっ!!そうだったんですか!!」
「そうなの。でもまあ、困ってないから別にいいんだけど。」
予算が無いから、いらなくなったものを再利用しようとして自分で手作りしたものが、エドガーが言う客間にごろごろ転がっているやつだ。
見た目は良くないけど、自分で作った分、愛着もわくというもの。
「そ、そうだったんですか……。」
エドガーは先ほどとは打って変わって、弱弱しく言った。
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