第四話 学院長と手合わせしちゃいます!?
「特訓が大事なのは分かりましたが、そこでなぜ学院長との手合わせになるのでしょうか。」
学院長との手合わせを必死に防ごうと終一は質問できるとこはしていた。
「魔力のコントロールは一朝一夕でできるものではない。
じゃが、地道な修練を重ねても自分の魔力の一割をコントロールするのに三年の月日が必要になってくる。そんな時間もないことじゃし、一気に技量を上げるために死線を越える事が必要不可欠なんじゃ。
誰でも死を間近に感じると自身の魔力を解き放つのじゃ。」
「言いたいことは分かりましたが、それはつまり学院長が僕を死の間際に追い詰めるってことですよね?」
またかきたくもない冷や汗をかき終一は尋ねる。
「そういうことじゃ。理解が早くて助かるのぉ。では行くぞ。」
そう言い切ると学院長はただ立っているだけでものすごい威圧感を発する。
「くっ。いきなりかよ。多少喧嘩はしたことあるけどこれは別格すぎだろ。」
突然の覇気に中学時代に多少喧嘩したことがある終一は
敬語も忘れ吹っ飛ばされるのをひたすら耐えていた。
(ほぅ。この威圧で倒れないか。
終一君は気付いていないが身体全体から微弱な魔力を出しバリアのように体を守っておるの。)
そう終一のことを観察しさらに学院長は動く。
「終一君。これは耐えられるかな?」
学院長は右手を開いてに終一に向け、その手には魔力が集まり赤い小さな球と形を変えていた。
「なっなんじゃそりゃー。」
初めて魔力というものを視認した終一にとっては驚愕していた。
「終一君にとっては初めての物じゃな。
これは魔力操作で始めに習う魔力球、通称マジックボールじゃ。
これは個人差があってな、高密度に小さな球にもでき、
膨張させ大きなエネルギーボールにもできる万能魔術じゃ。
終一君もこの特訓が終わればこれくらい出来るようになるはずじゃ。」
そう笑って言いながら、学院長は魔力球をさらに高密度に変えていく。
高密度になればなるほど漆黒のどす黒い赤色に変化していく。
「それを人間の俺にぶつけようだなんてどうかしてるぞ!!」
身動きの取れない状況の終一は学院長に言葉返すしかなかった。
「ほっほっほっ。では行くぞ。しっかり受け止めて死ぬんじゃないぞ。それ。」
学院長は超高密度の魔力球を終一に向かって投げた。
スピードこそないものの、確実に死を彷彿させる魔力球の存在に終一は死を覚悟した。
そして魔力球が終一に徐々に近づき触れた瞬間、
「うわあーーーーーーー。」
終一は悲鳴を上げ爆発した。
(爆発したじゃと。そこまで終一君の魔力潜在能力は計り知れないのか。)
学院長を終一の方を見つめ、人間には到底できない魔力破壊が行われたと考えを巡らせていた。
やがて煙が晴れていき、終一が姿を現してきた。
だが終一の姿に学院長は驚きを隠せないでいた。
終一は自身から出た魔力を操作しきれずに溢れ出た魔力で姿を変えていた。
その姿は人間とは思えず、アクマと言われても遜色がないほどだった。
髪の毛は逆立ち、全身オーラの様に魔力を纏い、角、牙、爪までもが魔力によって具現化されていた。
その姿はまるで人間を魔物にしたかのようだ。
「これ程までの魔力は終一君にはなかったはずじゃ。なぜこうなったんじゃ?考えるのは後回しじゃ。
このままでは終一君が危ない。ふん。」
終一の救出を一番に考え、魔力を消耗させるため魔力球を無数に繰り出し、
先程とは比べ物にならない速さで一斉に攻撃をする。
「フシャーー。」
終一はアクマにも魔物にもならない声で雄たけびを上げる。
その雄たけびだけで魔力球は次々に破壊されていく。
「なんという破壊力じゃ。じゃが、それでは防ぎきれん。」
残された魔力球が終一に当たる。
その衝撃で終一は吹っ飛ばされ、部屋の壁にめり込む。
「ぐはっ。」
人間の姿に戻り、そのまま床へと倒れた。
「ふう。なんとか生きておるな。しかし終一君に魔力を教えるのはもっと慎重にならなければいかんな。
わしじゃから何とかなったものの、学生の中に終一君を止められる者がはたしているんじゃろうか。」
終一の破壊は凄まじく、部屋の半分が壊れているのを見ながら学院長はつぶやいていた。
コンコンッ。
扉からノックの音が聞こえた。
「学院長。部屋の魔力防壁が破壊されましたが、いかがされました?」
隣でアリスの身体測定をしていたメリーが急いで駆けつけていた。
「心配いらん。終一君の魔力が予想以上じゃったんじゃ。」
そう答え、ボロボロになった終一を抱えて扉を開ける学院長。
「じゃが、終一君はすぐに保健室で手当てをしないといかんじゃろ。」
「学院長もお怪我をなさっていますよ。」
メリーが学院長のかすり傷見て言う。
「わしに傷か。やはり年はとりたくないものじゃ。」
含み笑いでいう学院長にすかさずメリーは言う。
「大魔王サタン様が何を仰っているのですか!」
「メリー。その名は言うなと忠告したじゃろ。」
ギロリと目を光らせてメリーを黙らせる。
「・・・・申し訳ございません。」
「うむ。では終一君を保健室に連れて行くとするかのぅ。」
また優しい笑顔でメリーにそう告げ、足早と保健室に向かう。
「サタン様・・・。」
ぼそりとメリーは呟き、悲しそうな目で学院長の背中を見つめていた。
「先生、私の測定まだですか?」
不意に部屋からアリスの呼ぶ声がし、メリーはいつもの顔に戻して部屋へと戻っていく。
「お待たせしました。では測っていきましょう。まずは身長から。」
「あっはい。」
「一五二センチ。では次はスリーサイズ。」
「えっあっはいぃ。」
淡々と測定するメリーと違い、同性とはいえ恥ずかしさがあるアリスは顔を赤くしていた。
「バスト九五、ウエスト五八、ヒップ九七ですね。」
サイズを口に出されるたびにアリスは赤くなっていった。
「では最後に魔力を測定します。」
そう言うとメリーはアリスに右手を開いて向けた。
「お願いします。」
衣服を整え、メリーの前で精神統一しアリスは魔力を高めていった。
「はい。よろしい。では今日はこれで終わりです。気を付けて下校してください。」
「ありがとうございました。失礼します。」
軽い会釈し、タタタっと軽やかにアリスは測定部屋を後にした。
(終一くんはまだ何処かにいるかな。一緒に帰りたいな。)
アリスは少し笑って終一を探しに行った。
「この魔力量はいったい。アリス・ゼファー一体何者なのでしょう。」
アリスが部屋を出てから一人でメリーは考え込んでいた。
一方終一はというと、学院長に保健室まで連れられ、保健室の先生の看病を受けながら未だに眠っていた。
「学院長。この学生は一体なにをしたんですか?
入学早々こんな酷い状態になるなんてよっぽどの事ですよ。」
終一の看病をしながら大きく胸元の空いたシャツに短いスカートで白衣着ている
色々際どい恰好の保健室の先生が言う。
「いやー。まぁわしと手合わせしたらこうなったんじゃ。すまん。それで終一君の容体はどうなんじゃ?」
少ししょぼくれてから真剣に終一の事を聞く学院長。
「今のところ命に別状はありません。でも体のあちこちから魔力痕が出ています。
この状態に何回もなると彼は自分の魔力に飲み込まれて消滅する危険もあります。」
彼女は正確に終一の容体を学院長に伝える。
「となるとやはり魔力のコントロールを一刻も早く身につけんといかんな。
オウカ君、引き続き看病を頼むぞ。わしはちょっと気になる事があるのでな。」
学院長はそう言うと真剣な眼差しで出ていき、オウカに終一を任せる。
「学院長~。もう、こうなった経緯も言わずにあたしに押し付けるだなんて。」
オウカは腕を組み頬を膨らませて椅子へ座った。
彼女オウカ・フェニックスは名前の通り不死鳥フェニックスの名を受け継ぐものだ。
見た目は小柄でピンク色のショートヘアにクリっとした目しているため学生とよく間違われる。
ゆるーい雰囲気で普段からだらしない恰好をしているだが、
同じ先生の間ではアイドルのように扱われている。
得意の魔術である治療術で学院にいる全員の身体を保健室でケアをしている。
終一の魔力痕に対しても治療術を行っているが、
自身の魔力による傷が多いため自己治癒能力を上げる事しか出来ていないのが現状である。
あとは終一が自ら回復するまで待つしかないというなんとも歯がゆい思いでオウカは終一を見ている。
「こんなかわいい顔して学院長に傷負わせるなんて恐ろしい子。でもそれがまた良いわね。」
終一の顔上からのぞき込むように見て妖艶な視線向けながらオウカは呟く。
「このまま終一君のこと襲っちゃおうかな~。」
子供が悪戯するような笑みを浮かべオウカは眠っている終一に言う。
「先生こんなにドキドキするの初めてかも。そろそろ起きないと終一君の唇ほんとに奪っちゃうよ?」
今にも唇が重なる距離でオウカは終一の答えを期待せず尋ねる。
そのままオウカが近づき終一と口づけをする瞬間、終一は目を覚ます。