三十話 終一に婚約者!?
エリカは終一が部屋に戻り急いで学院に行く間ずっと後をつけていた。
これだけでは判断のしようがないので策を考える。
エリカはこれまで影に徹して決して表舞台に出てこようとはしてこなかった。
年齢的にはこの学院の生徒達と対して変わらない。
必要最低限の知識のみであとは暗殺に役立つ知識しか持っていない。
その事も学院長は気に掛けておりあわよくばこの学院の生徒になってほしいと思っていた。
その願いが唐突に叶えられるとは流石の学院長も驚愕する。
そう、エリカの考え策とは終一と同じクラスに転校生として入り近くで監視するというものだった。
その事をすぐに学院長に伝えるといつでも入れるよう用意してあった制服を学院長から渡され早速メリーに転校生として朝のホームルームで紹介をさせることとなった。
終一のクラス全員はなにも知らずにホームルームが始まる前に登校をしていた。
終一も急いで支度をして学院にギリギリ間に合った。
「はぁっはぁっ何とか、間に合った。」
終一は汗をかきながらゆっくり自分の席へと向かう。
「おう、終一。今日はやけにギリギリだな。」
イクタが終一に笑顔で話しかける。
「まぁ、色々あってな。」
ふうっと一息つきながら終一はイクタの隣の席に座る。
「そういえば今日転校生が来るらしいぜ。」
誰も知らないはずの情報をイクタは知っていた。
「ふーん。学院が始まってすぐだってのに転校とはね。」
終一は大して気にせずにイクタの言葉を聞き流していた。
程なくしてからチャイムが鳴り、それと同時にメリーが一人の女生徒と共に教室へと入ってきた。
あれが転校生か。ん?どこかであった気が・・。
と、終一は彼女の姿を見て考えていた。
「皆さんおはようございます。急ですが、今日からあなた達と一緒に学ぶことになった転校生を紹介します。」
メリーが言い終わるとエリカはその場で
「エリカ・シャドーバックです。よろしく。」
何とも無表情で簡潔にエリカは自己紹介する。
これにクラスの男子生徒達は喜んでいる。
「エリカさんクールビューティーだ。」
「可憐だ。」
「あの冷ややかな目で睨まれたい。」
まるで氷の女王のように冷たい視線に一部の男子生徒から熱烈に好意を持たれ始めた。
その行動でさらに他の女生徒からも冷たい視線を注がれる彼ら達だった。
「エリカさん。空いてる席に座ってください。」
メリーが静粛に、と言わんばかりに手を叩きエリカに席に着くよう言う。
「はい。」
エリカはすぐに答え真っ直ぐ歩き出す。
そう終一の隣の席へとまっすぐに。
途中女生徒達が隣の席はどう?っと言ってくれているのを無視して終一の席へと向かう。
やがて終一の席に着き、すとんとすぐ横に寄り添うように座った。
終一は心の中で、他の生徒は思いっきり声を出して、
「「ええーー!!」」
叫んでしまった。
騒ぎを好まない終一にとってはとても良くない状況だ。
「あのーエリカ、さん?他にも空いてる席いっぱいあるよ?」
終一はピッタリとくっついていふエリカを見て言う。
それに対してエリカはくるっと終一を見て唇が触れそうな場所で答える。
「旦那様の隣がいいの。」
全く感情が読めない目でそんなことを口走る。
今度は終一も声に出して皆んなが、
「「ええーー!!」」
「終一君の婚約者?」
「婚約者を追ってこの学院まで?」
「「素敵だわー。」」
「エリカ様ー。」
「エリカ様があんな奴の毒牙に。」
「許せんぞ。我らがエリカ様親衛隊は全力でエリカ様をお守りするぞ!」
「「おーー!」」
女生徒は健気に婚約者を追ってきた恋人見るように、
男子生徒はせっかくできた女王様に悪い虫がついたかのように、終一とエリカを見る目が分かれていた。
「おい終一。お前婚約者なんかいたのかよ。」
「いねーよ。エリカさんが勝手に言ってるだけだよ。」
イクタの問いに終一は即答する。
「旦那様。今朝のことをもうお忘れですか?」
「今朝?」
終一が考え込んで思い出した。
「あ、あの時の。」
「ええ。外であんな事をするのは旦那様にとって普通、なのですか?」
その言葉にその場が凍りつく。
エリカは狙って言葉を選んでいるようにしか思えないほどだ。
だか彼女にはその自覚がない。
今も頬を赤くしモジモジしているので周りは男女の愛ある行為しか想像できない。
「いやいや、その言葉だと誤解するから。てか事故でしょ?」
終一は周りに誤解がないようにエリカに今朝ぶつかっただけと言ってもらおうとしたが、
「そうですね。事故とはいえあんな辱め、生まれて初めてでした。」
さらに顔を赤くしてしまうエリカ。
そして終一の悪評は鰻上りになった。
「あんな綺麗な子を終一君最低だわ!」
「しかも外でなんてデリカシーがないよ!」
「事故って言い訳は男としてあり得ないよ!」
まだ覚えていないクラスの女生徒から終一は集中放火を浴びている。
「イクタ、助けてくれ。」
小声でイクタに助けを求めたがイクタも終一に引いた目で見ていた。
「さすがの俺もそれは助けられないわ。」
「イクター。」
そしてさらに終一の周りに女生徒が集まりワンヤワンヤと説教が始まった。
エリカの親衛隊は出来てすぐにこの始末、全員が涙を流して倒れていた。
しばらく収集がつかなくメリーも困っていた。
一限目はそのまま授業にならずに終わってしまった。
その後もエリカはずっと終一の腕に抱き着き片時も離れないようにしていた。
トイレにも一緒に入ろうとする始末で終一が何とか説得してトイレの中に入るのだけはやめてもらえたのだ。
そして授業が終わる頃には終一はげっそりとやつれていた。
「大丈夫か?」
イクタは見ていられず声をかける。
「今日はなんとかな。」
今にも消え入りそうな声で終一は答える。
こんな会話が出来るのもエリカが授業が終わると同時にメリーに連れていかれたからだ。
そのためイクタと二人で寮に帰っていた。
「でもまさかあんな婚約者がいるとは隅に置けないな。」
イクタは冗談のつもりで終一に言った。
「冗談じゃない。あれがこれから毎日あると思うとゾッとするよ。」
終一の耳には入らずこれからの事を考え身震いしている。
四六時中べったりと腕に掴まれていたのだから誰でも疲れるのは事実だ。
その事にイクタも姉のセリと重なる部分がありなんとも言えない顔をして乾いた笑いをしていた。
その頃エリカは学院長と話をしていた。
「エリカ君にしては大胆なこうどうじゃの。」
学院長は嬉しそうに話しかける。
エリカは普段と変わらない無表情な顔をしているが心なしか笑っている気がする。
「私の中で最善な手だと思っています。」
「影に徹する。と、言っていた君の最善なんじゃな。」
含みを込めた笑いの学院長がエリカに確認する。
「・・・はい。」
エリカは自分が軽率な行動をしたのじゃないかと少し不安に掻き立てられる。
「わしはただ嬉しいんじゃ。あのエリカ君が同じ年頃の生徒達と任務とはいえ触れ合ってくれたことが。」
学院長は孫と話すのようにエリカに話した。
学院長はエリカのことが本当の孫と思えるほどだった。
そのためエリカの事は自分の事ように嬉しくなってしまう。
「それから終一君と婚約者になりました。」
そのエリカの言葉は学院長は心を砕かれた。
「終一君、殺す。」
あの温厚な学院長とは思えないほど殺気のこもった目をしていた。
かわいい孫を取られたような気分を学院長は味わっていた。
「学院長、なぜそうなるのですか?」
エリカは不思議そうに学院長を見ている。
本当になぜ怒っているのかわからないと言わんばかりに。
それを見て学院長は心を落ち着かせる。
「これはすまん。少し熱くなってしまったのじゃ。」
「はあ。」
納得していないが学院長が言うならとエリカは返事をした。
「それでなぜ婚約者なのじゃ?」
「最上終一を知るために一番近い関係になるのが早いと思った次第です。」
真剣な眼差しを互いに交わす。
「じゃが本当に婚約者というものをわかっておるのか?」
エリカの言いたい事は大体わかった学院長だが、エリカには婚約者という知識はあるもののどのような事をするかまでしっかり把握しているとは思えなかったのだ。
「はい。婚約者とは周囲の目を気にせずイチャイチャするものです。ですから今日は一日中終一君とイチャイチャしていました。」
その言葉に学院長はまたも心が砕かれる。
「そ、その、イチャイチャとは具体的には?」
胸を押さえながらかろうじて体裁を守っている学院長。
「ずっと腕に抱きついていました。イチャイチャとはなかなかに辛抱が必要だと身にしみました。あと男性には恥じらいながらエッチな事を言うと好印象だということもなかなか難しいものがあったので明日から懸命に努力していく所存です。」
言っていることと表情が全く噛み合っていないエリカ。
それを聞いた学院長は終一の事が羨ましくそして恨めしく思っていた。
その時終一は悪寒が走り身震いしていた。
「エリカ君。その形だけなのじゃからそこまでしなくても良いのじゃないか?」
学院長はこれ以上の事をされると保護者としても学院長としても見過ごせない事態が起こりそうだったので釘をさすつもりでエリカに言ったのだが。
「おそれながらこれは任務です。私は任務に手を抜くことなどできません。」
なんて実直な娘じゃ、と学院長は泣きながらエリカのやる事を見守ることしか出来なかった。
その後は何事もなく次の日が来る。




