だから放っておいてください
休み時間になった途端教室に現れ、嬉しそうにニコニコと綺麗な笑顔を向けてくるイケメン。
その視線の先にいるのは、特に笑うわけでも喋るわけでもない俺。
あの日から2週間が経った。
その次の日からこのおかしな光景は続いている。
ただでさえ目立つ美形で、この学校の良くも悪くも有名人。
そんな奴が、わざわざ違うクラスに毎日来れば、チラチラとこちらを気にする視線が集まる。
本人はまったく気にしていないが--
俺は気になる!
「--おい」
「ん?」
結局、俺のほうがいたたまれなくなって声をかけると、それはもう嬉しそうに色気なんぞ出してくる。
その威力に周りがざわめくのだ。
だからなんでその顔を俺に向ける?
ほら、すぐそこに物欲しそうにこっち見てる女子とか、お前好みの可愛い系やらキレイ系の男がいるぞ。
そいつらにその顔してやれよ。
つーか、寮の部屋一緒なんだからわざわざ来んなよ。
そう何度言っても、
「春に会いたい」
「春の顔が見たい」
「本当はずっとそばにいたい」
訳のわからんことを言って聞きやしない。
部屋に帰れば嫌でも会うだろ!
アレは三島の気まぐれで、たまたま目の前にいた俺で欲を発散させたんだと思ったのに。
あれから手をだしてはこないけど、こうやって会いにきたり、可愛いだの好きだのくりかえしたり--
本当に本気だとでも言うのか?
この節操なしが?
だからってなんで俺?
俺にどうしろと?
頭のなかは疑問だらけだが、考えても解らない。
「--もう次始まるから自分とこ戻れ。」
はぁ、とため息をつきながらシッシッと手を振る。
言うとおりに立ち上がった三島は、振っている手を掴んで思いきり引き寄せた。
「うお!?な、」
「好きだよ、春。」
耳元で小さく囁いて去っていった。
なんつー声出してんだ..
ざわざわとする教室で俺はというと、呆然と机に突っ伏すしかなかった。
たぶん三島は、なかなか落ちない俺を面白がってるんだろうと思う。
早く飽きればいいのに。
つーか、俺を放っておいてください。
マジで。切実に。
実はこのとき、三島がセフレを全員きって本命を落としにかかっているという噂を、ただひとり俺だけが知らないのだった。