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6-10

―――6


「ローク!」

 やあ、と手を振る騎士はシュバイトに軽く笑う。どうやら知り合いらしいと判断し、リリンは彼に訊ねる。

「どういうことかしら。訊かせてもらえる?」

「魔女様の仰せのままに。オレはローク=ジルドといいます。見ての通り騎士団の者です」

 型どおりの礼をして、ロークと名乗った騎士はリリンとシュバイトに笑みを浮かべる。リリンは彼に向けられた笑みにあまり好意を感じなかった。僅かに眉を顰める。

「さてシュバイト=フォン=アルカデッタ、貴公に国王陛下よりの命令を伝える」

「は?」

「魔女リリン=フォン=カルツォーネの保護を命じる。尚これは魔女会からの要請でもあり、断ることは出来ない。受けるか?」

 リリンだけでなくシュバイトも顔を顰める。

「今、断ることは許さないって言ったばかりじゃないか。大体なんだその命令は」

「それはあたしも聞きたいわね。あたしがこの人の所へ来たのは、魔女会から言われたからじゃないのよ」

 シュバイトとリリンの不快げな顔にロークはただ張り付いた笑みを浮かべていた。



―――7


「おいおい、理由は訊いたって無駄だぞ。オレは上から命令されてきたんだ。それとちゃんと保護する所まで確認してこいって」

 ロークはやれやれと言った様子で肩を竦めた。

「とっくに団を抜けてるってのに気に入られたもんだなあ、シュバイト」

「あの人たちは……まったく」

 深い溜息を吐いて、シュバイトはロークを見やる。怨めしげな視線に気付いて彼は愉快だというように笑った。

「そういうことだからお屋敷で一服させてくれよ。魔女殿も一休みしたいでしょう?」

「まあ、そうね。シュバイト、そういう訳らしいからよろしくね」

 暗に休みたいと言う二人のおかげでシュバイトの眉間には深い皺が刻まれた。



―――8


 リリンとシュバイトが共同生活をはじめて三日が経った。

 元々屋敷にはシュバイトが一人で住んでいて、部屋は幾らも余っている。泊めるという面では問題はない。しかし、それ以外の面で問題があった。



「やだ。魚嫌い。あげる」

「ちょっとー、デザートは? 白桃のコンポートが食べたーい」

「ねー、お風呂入るから着替え貸してよ」

「キャー! なんでシュバイトがあたしの服洗濯してんの!」

「イヤー、蜘蛛の巣張ってる。虫イヤー、レイー!」

 リリンが来てからずっとシュバイトの屋敷からは彼女の叫び声が響いている。貴族であるリリンを考えればその理由は明白だが、それに一々付き合ってやるほどシュバイトはやさしくない。

「この屋敷にメイドはいない。コックもいない。俺以外は誰もいない。これから雇うつもりもない。ここに住む以上、俺のルールに従ってもらう」

「えー」

 盛大に頬を膨らませるリリンを、シュバイトは睨みつけた。



―――9


 シュバイト=フォン=アルカデッタは変わっている。

 仮にもフォンと付くからには貴族に違いない。屋敷だってアルカデッタの屋敷なのだろう。見た目は立派に大きい屋敷だ。だけど召使が誰もいないなんてそんな変なことあるだろうか。聞いたことがない。


「あー……」

 シュバイトのことを訊ねるとロークは人差し指を額にあて、眉をひそめた。

「何? アルカデッタ家では当然なの、あれ?」

「いやー、さすがにそれは違うけど。あいつって器用貧乏なんだよね」

「は?」

 意図が掴めず今度はリリンが顔を顰める。

「本邸にいた時にはシュバイト付きのメイドが居たらしい」

 苦い表情で語りはじめるロークに、リリンは相槌を打つ。何をそんな深刻になる必要があるのだろうか。

「だけどその子があまりにも使えない子でさ。だからその子が何かしようとするとシュバイトが心配して逆に自分でやってしまっていたと言っていた。そのうち料理も独学で覚えたとか聞いた」

「はあ」

「だから、メイドもコックもいらないんだって。ご両親と兄貴を言いくるめて屋敷だけもらったんだとさ」

 にっこりと笑うローク。それが本当だとしても、一人もメイドも居ないというのはやはり奇妙な話だ。それにそのメイドを本邸に置いていくのは心配じゃなかったのだろうか。何か腑に落ちないものを感じてリリンは頭をもたげた。



―――10


「ロークは、そういえばシュバイトと友達なのよね」

「ああ。あいつ騎士団に居たんだよ。年同じだし、貴族にしては気さくな奴だから付き合ってやってんだ」

 にかっと笑うロークはどうやらリリンに遠慮がいらないとわかったのか、最初より好意的だ。

「なんで騎士団をやめたの?」

「……さあ」

「『さあ』?」

 リリンは彼の言葉につい眉尻を上げた。ロークの表情を窺うが、思考を読ませてくれそうにはない。いくらか好意的にはなったとはいえ、どうやらすべてを教えてくれる気はないらしい。

「貴方、何か知っているんでしょう。教えなさいよ」

「………」

 ロークは微笑を湛えるだけで答えようとしない。

「……オレは知らない。だから答えられない」

 その表情は思いのほか真剣なもので、リリンは詰め寄ることが出来なかった。苦く歪むリリンの表情に、ロークは薄く笑んだ。



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