跫音
僕はへんな夢を見た。何をする夢でもなく、僕は唯独りで叢を走つてゐた。不断、孤独に相違はないのだけれども、こんな夢を見たのは初めてである。現実での孤独と、あの叢での孤独は必ずしもおなじものではないように思える。判然としない頭でぼんやりと僕はこんなことを書きつけた。
跫音
跫音は 吾を追ひ
吾は暁闇を駆ける
あかるい光のない
昏き道に ふたつの跫音
吾は其れを振り返らず
唯々 駆けるのみ
叢の 風に揺る音が
吾を追ふ跫音に重ぬ
ふと 昏き道は終わり
吾は跫音と共に在つた
あかるい光のない
暁闇の明けぬ 叢に
唯独り 立ちにけり
吾は唯独り、叢にゐる。