表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/64

第62話「魔人、幼女と手をつないで塔を登る」

 自治都市に着いた日の夜。

 俺とフェンルとシンシア、リーティアは『静寂(せいじゃく)の塔』に来ていた。


「やはり、見張りがいるな」

「2人くらいですね。塔のまわりを回っています」


 ずずーっ。


 俺とフェンルはお茶を飲みながら『静寂の塔』を見上げていた。

 塔の高さは、勇者世界の単位で40メートルくらい。各階の大きさは、普通の家くらいだ。

 もっとも、部屋があるのは1階部分と最上階だけ。他の階にあるのは螺旋階段だけらしい。


「問題は、どうやって衛兵に見つからずに屋上に行くかだな。なにかいい案はないか? シンシア、リーティア」

「それどころではございません」


 どうしたシンシア。

 ベッドの影に座り込んで、息を潜めているようだが。

 リーティアも隣にいるな。ふたりとも、ここでかくれんぼをしてどうするのだ?


「どうしてクロノさまも、フェンルさまも、そんなに堂々となさっているのですか?」

「ティータイムはリラックスして楽しむものだからだ」

「そうじゃなくて、ここ、塔のすぐ側ですよね?」

「正確には、塔のまわりにある公園の一角だな」


 まわりには石畳が敷き詰められている。まばらに生えてるのは、木陰をつくるための街路樹だ。

 もっとも、今は夜だから、人の気配はまったくない。

 衛兵が塔のまわりを、一定間隔で回っているのが見えるだけだ。


「ですからどうして、塔の真っ正面でお茶をしていらっしゃるのですか!?」

「ここが、俺の張った『結界』の中で、『結界』には風景に溶け込むようにカムフラージュがされてるからだ」


 難しい話ではないだろう?

 もちろん、音声も『遮断(しゃだん)』してあるから、声は外には漏れない。

 こそこそするのは趣味ではないからな。堂々と、衛兵の隙をうかがわせてもらおう。


「シンシアお嬢様。少しは落ち着いてください」

「あなたもね、リーティア」

「私はすでに覚悟を決めています。お嬢様の夢を叶えるために、この身をささげる所存」

「……リーティア」

「その結果、何の成果も得られずに命を落としたとしても……まぁ、あのまま暴漢の手にかかるよりはましでしょう。自らの道を選んで生きた、それだけを誇りとするのも、お嬢様と旦那さま以外はすべて腐臭(ふしゅう)を放つ者だけだった貴族に仕えていた身としては、望外の幸福なのかもしれません」

「ごめんなさい。ほめられてるのかけなされてるのか、見当もつかないわ」


 たぶん、ほめているのだと思うぞ。

 リーティアが淹れてくれたお茶は普通に美味いからな。

 彼女は冷静で、かつ、希望も捨ててはいないのだろう。


「さて、と、塔の屋上にあがる方法はふたつあるが、どっちを使うか……」


 シンシアから塔の情報は手に入れてある。

 中に入れる場所は2箇所。1階と、最上階。

 1階には衛兵が詰めている。俺たちが入れるとしたら、最上階だ。あっちには鍵がかかっていない。空から入るなんてことは、想定されていないからだ。だから俺たちは、外から最上階へ登ればいい。


 衛兵に俺の『結界』は見抜けないだろうが……動き出すとどうだろうな。

『結界』に風景を溶け込ませて、ふわふわ浮かんでいくのは、危険なような気がする。空気の流れや、気配で察する者もいるからな。そう考えると、ひとつ目の方法は却下だ。

 ここは、素早く上がれる方法を選ぼう。


「次に衛兵が向こうに行ったら動く。準備をしておくがいい」

「なにをすればいいのですか? クロノさま」

「覚悟だけでいい」


 俺は言った。


「4人とも、絶対に互いの手を放さない。その覚悟だけだ」








 カウント開始。3・2・1……。


「衛兵が塔の裏側に回った。今だ!」

「行きます!」「参ります!」「行きましょう、お嬢様!」


『結界』を解除すると同時に、俺たちは走り出す。

 めざすは塔の手前、約10メートル。

 そこには新たなる『結界』が設置してある。


 形は、おわん型。

 大きさは、10メートル4方。

 高さは地上、数十センチ。


 俺たちは全速力で走り、勢いをつけて−−




「「「「せーのっ!」」」」




 手を繋いでそこに、飛び乗った。




「『もふもふぷにぷに能力』全開!!」





 うにょーん




『結界』が、俺たちの重みで、地面に向かって伸びた。

 ほどよく伸びたところで、俺は『もふもふぷにぷに能力』を解除する!




 ぱっちん!




「「「──────────っ!!!?」」」




 縮んだ『結界』は俺たち4人の身体を真上へと、吹き飛ばした!




『勇者武術』を相手にしたときとは違う。

 今回は方向も勢いも、すべて計算してある。もちろん、幼女の負担にならない速度で。




 ひゅ────────っ!!




 俺たちの身体は『結界トランポリン』の反動で、塔の真横を真上に向かって飛んでいく。1回目のトランポリンで跳んだ高さは、約5メートル。飛び上がった俺たちのと一緒に、トランポリン用の『結界』もついてくる。『結界』には偽装がかかってるから、衛兵が見ても風景に溶け込んでるはずだ。


 4人の乗った『浮遊結界』だと、どうしても上昇速度が遅くなる。

 人目につかないためには、手早く済ませる必要があったからな。


 それに、ちびっこというのは絶叫系が好きなものだ。

『ジルフェ村』のチビたち……岩場から深い(ふち)に飛び込んだりしてたからな。これは上下が逆になっただけだ。こうして見ると結構楽しい。下には『結界』があるから、地面に落ちることはないからな。


 さてと。


「第2弾、いくぞー」

「ふわああああああい」「ひぃ……」「あはははははー」


 勢いよく上がっていた俺たちの身体が、止まる。

 直後、今度は真下に落ちていく。でも、すぐ下には『結界』がある。俺たちの身体をやわらかく受け止めてくれる。





 うにょーん




 伸びる伸びる『結界』が伸びる。『もふもふぷにぷに』で伸びていく。


 そして──






 ぱっちんっ!!






「「ふおおおおおおおおっ!!」」


 フェンルとリーティアの口から変な声が漏れている。

 泣き出さないのはたいしたものだ。

 修羅場をくぐっているフェンルはともかく、シンシアもリーティアも……あ、シンシアは気絶しているのか。まぁいい。彼女の手は、フェンルとリーティアがしっぱりつかまえているからな。落ちなければそれでいいのだ。


 すでに俺たちは塔の3分の1くらいの高さまで上がっている。下には声は聞こえまい。聞こえたとしても、衛兵ごときは手出しはできぬ。


 俺たちはふたたび、勢いよく上昇している。

 これをあと4回くらい繰り返せば、塔の屋上にたどりつけるだろう。

 しかし、空に向かって飛び上がるというのは、なかなか気持ちのいいものだ。仰向けに上昇しているから、まるで星空が近づいてきているようにも見える。たまに娯楽として、実装してみるのもいいかもしれぬな。


「どうだフェンル。なかなか気持ちのいいものだろう?」

「そうだねおにーちゃーん。ふぇんるは、これ、きにいったよ。あははははは」


 駄目だな。幼女化している。

 リーティアの方はーー


「ひゃっはー! おじょうさま。見て見て。おそらがちかづいてきますー」


 ……どっこいどっこいだな。

 さて、第3弾トランポリンを使うとしよう。せーのっ……。



 そんなことを、あと4回ほど繰り返してーー



「ふぇんるはへいきだよへいきだよへいきだよー」

「………………」

「楽しかったです! すごかったですよね、お嬢様!」




 俺たちはなんとか『静寂の塔』の屋上へとたどりついたのだった。






 

魔人さんとフェンルは、塔の中に入ります。

彼がそこで見たものとは……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作、はじめました。

「竜帝の後継者と、天下無双の城主嫁軍団」

うっかり異世界召喚に巻き込まれてしまったアラサーの会社員が、
正式に召喚された者たちを圧倒しながら、異世界の王を目指すお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ