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第23話「魔人、魔王ちゃんの秘密を語る」

 どーせこんなことだろうと思った。


 ルチアとマルグリッドは『王都に着いたら商人さんを訪ねる』と言っていた。それは、生前の養父が、いざというときそうしろと言い残していたからだ、と。


 だとすれば、商人も『濁点魔王教団』の関係者に決まっている。

 叔父ではなくて養父側の仲間──『触手派』だろうが、叔父の逃げ込む先といえばここしかない。


 だから、ルチアからこの場所を教えてもらったこの場所に、俺はこっそり忍び込んでいた。

 夜を待って、光を遮断した『結界』に入って移動すれば姿を見られることはないし、扉を破るときだけ音を『遮断』すれば、気づかれにくくなる。そのあとは結界の中で奴らの話を聞いていたわけだけど──


 さすがに、我慢の限界だった。

 こいつら、どこまで魔王の名前を利用すれば気が済むんだ。ったく。


「口を開くな、下郎。今は亡き魔王の名前を、これ以上汚すことは許さぬ」


 俺は地面に書かれてる魔法陣を見た。

 これもかなり、えげつない。

 魔法陣に描かれているのは『触手魔王』の人形に、人の魂を宿らせる魔法だ。ルチアとマルグリアが死んだら魂を呼び出して、魔王の人型に取り憑かせるつもりだったのだろう。

 彼女たちの父は『2人を鍛える』ために、魔物を呼び寄せる剣を与えていたのだからな。

 結局、ルチアとマルグリアの命なんかどうでもよかったのか。


 ……ふざけるな。

 そんな腐った教団に、魔王の名前を使うんじゃねぇ。


「──だ、誰だ貴様は!?」


 ルチアの叔父、ゲイル=ホイムルクが俺を指さしている。

 隣にいるローブの男は、魔法使いか。

 そういればこっちはまだ名乗ってなかったな。


「俺は、まお──」


 言いかけて、止めた。

 ……魔王の眷属(けんぞく)は、まずいか。

 こいつらも自称、魔王崇拝者だからな。一緒にされたくないな。

 他に魔王ちゃんを的確に表す言葉は──うーん。


「俺は『かしこい幼女の眷属』だ」

「「はぁっ!?」」

「そして、俺は従者の精神の安定と平和な生活を守る責任がある。あと、魔王の名前を勝手に使われるのは気に食わぬ。遊んでやるから、かかってこい」


 俺は『変幻の盾(フィルタリング)』を構えた。

 倉庫の中にいるのは、ルチアの叔父ゲイルと、ローブを着た魔法使い。


 外にいた商人と護衛は『結界』で無音無風の暗闇に閉じ込めたあと、縄で縛って転がしておいた。

 倉庫のまわりには、他に誰もいない。派手にいこう。


「ふざけるな! くらえ『炎の槍』!!」

「『変幻の盾』、遮断:槍。通過:炎!」


 ぽとん

 分解された魔力の槍が、盾の手前に落ちた。

 炎は通過してきているが、推進力をなくして、ただ盾の後ろで燃えているだけだ。


「てい」


 俺は魔力の槍をつかんで、投げ返した。


「──ひぃっ!?」


 魔力の槍が、魔法使いのローブに突き刺さった。

 地面につなぎ止められた魔法使いは、怯えながら逃げようとしている。


「な、なんだ。魔法が──分解された──!?」

「その程度のこともできぬのか。『濁点魔王』とやらも、たいしたことはないな」

「なんだそれは──。なんだ、それは──ぐぁっ!?」


 俺が飛ばした盾が、魔法使いの顎に激突した。

 ローブを着た魔法使いは白目をむいて動かなくなる。死んでないよな。人間はもろいから、当たり所を気をつけなくては。


「貴様も寝ていろ! ゲイル=ホイムルク! 『変幻の盾(フィルタリング)』、通過──」

「ばかめ! この魔法の鎧は物理攻撃をギャ────っ!」


 鎧をすり抜けた『変幻の盾』が、ゲイル=ホイムルクを吹き飛ばした。

『通過:魔法の鎧』を設定しておいたからな。

 防御無効で人体に直接ダメージが行ったのだ。すまん。


「ひとつ聞こうか。グルガンゴルガ教団』の主よ」

「……うぅ」


 ゲイルが壁を背に、引きつった顔でこっちを見ている。


「お前は魔王城の場所を知っているか?」

「知らぬ!」

「お前の祖父は、そういう伝説の研究者だったのだろう?」

「祖父は! 伝説を集めるのが好きだっただけだ! 魔王? いや、なんでもよかったのだ。人集めに使えるものならな!」


 ふぅん。

 結局はこいつら、魔王ちゃんの情報も、魔王城の情報も持っていないか。


「……人間ってすげぇな」


 時が経ったら、魔王さえも人集めの道具か。たいしたもんだ。勇者を異世界に追い返すだけのことはある。

 さて、と。こいつらはさっさと無力化して、衛兵に通報しよう。


 殺してもいいけど、ばれたらノエル姉ちゃんに怒られそうだからな。というか、こんな奴の返り血浴びたあとで里帰りしたくない。人間のことは、人間に任せるとしよう。


「結界を展開。半径1メートル。遮断:空気、魔力──拡大」


 俺は小さめの結界を作り出した。

 空気と魔力だけを遮断して、拡大。ゲイル=ホイムルクと魔法使いを包み込んで、俺だけ結界の外に出る。あとは光と音と、人体も遮断すれば完了だ。


「「────っ!!!!!!!!!」」


 中でなんか暴れてる気配がするけど、聞こえない。

 かすかに結界が揺れてるのは、中で魔法使ってせいか。一生懸命暴れてるな。


 でも、やめといた方がいいぞ。

 俺は空気と魔力を遮断してから、結界を膨らませた。だから内部空間はどちらもかなり薄くなってる。たぶん、外の半分くらいになってるはずだ。


 暴れると息が続かない上に、魔法を使えば魔力切れを起こす。

 そのうち気絶するだろうから、そしたら結界を解除してやろう。


「それとも、今のうちにお父さんの敵討ちをするか? ルチア、マルグリッド」


 俺は倉庫の入り口に声をかけた。

 従者の行動くらい読めずに、魔人はつとまらぬのだ。

 フェンルはなんとなく気づいていたようだし、ルチアもマルグリッドも、俺の意図を知っておとなしくしているような者たちではないからな。


「ごめんなさい、おにーちゃん」

「すいませんのね」「じっとしていられませんでした」


 倉庫の入り口から、幼女3人が現れた。

 3人ともがっくりと肩を落としている。叱られると思っているのだろうが、そのつもりはない。

 敵の話を聞けば、じっとしていられないのは当然だ。


「で、どうする?」

「決めてきたのね」


 ルチアは言った。


「私は、見届けることにしました」


 フェンルは、後ろに下がった。


「魔法だけ、結界を通るようにしてくださいませ」


 マルグリッドが、前に出た。

 俺は言われた通りにした。中が見えるように光も通過させる。

 そして──


「最大出力──『緑の拘束(グリーンバインド)』!!」


 マルグリッドが撃ち出した拘束魔法が、結界内の叔父と、魔法使いに巻き付いた。全身くまなく。ただ、唯一呼吸できるくらいの隙間を残して。

 それだけだった。


「魔力を限界まで注ぎましたから、3時間くらいは保ちます」

「その間に、衛兵さんに来てもらうのね」

「いいのか、それで」


 俺の問いに、ルチアとマルグリッドはうなずいた。

「ルチアはもう、ルチアで」「わたしは、マルグリッドですから。前の名前のことは、もう、いいのです」


 ……そうか。

 なんとなくだが、気持ちはわかるな。

 今の俺も、魔人ブロゥシャルトではなく、クロノ=プロトコルだからな。

 優先するべきは今と、これからだ。

 ルチアとマルグリッドが納得しているのなら、それでいい。


「では、帰るとしようか」

「「「はいっ」」」







 それから俺たちは、匿名で衛兵の詰め所に、ゲイル=ホイムルクの居場所を書いた紙を投げ込んだ。

 詰め所の前の暗がりに隠れて確認したが、衛兵たちは確かに、ゲイルたちのいる倉庫へと行ったようだ。

 町の警戒態勢も解除されたから、間違いないだろう。


 奴らがどうなったかは、俺たちはもう知らない。関係のないことだ。

 魔王の名前を利用する教団がひとつ消えただけ。


 ──だが、油断してはいけない。

 世の中には第二、第三の、魔王復活を企む教団が現れるかもしれないのだ──





「そのへんは将来、ルチアとマルグリッドに任せるとするか」


 宿に戻った俺たちは、早々と休むことにした。

 ルチアとマルグリッドは疲れたのか、ベッドの上でくっついて眠っている。


 俺は、いろいろあったせいか眠れず、隣のベッドに腰掛けてぼんやりしていた。


「……ひとつうかがってもいいですか、ブロブロさま」


 すると、フェンルが隣に来て、腰掛けた。


「……なんだ」


 魔人名で呼ぶということは、魔王関係の話か。


「わからないことがあるんです」

「いいぞ、言ってみろ」

「ブロブロさまは『濁点魔王教団だくてんまおうきょうだん』がデタラメだって、最初からわかってたんですよね?」

「ああ。触手とか、身長15メートルとか、いくらなんでもありえないからな」

「でも、魔王復活を企む他の教団はどうでしょうか? ひとつくらい、本物の魔王を呼び出す教団がいても、おかしくないんじゃないですか?」

「ああ、そういうことか」


 ふむ。フェンルになら、教えてやってもいいかもしれぬな、魔王ちゃんの能力のことを。


「今の人間は知らないだろうが、魔王ちゃんの能力は破壊能力でも、殺人能力でもないのだ。魔王ちゃんの魔王たるべき力は──超絶理解能力なのだよ」

「超絶、理解能力?」

「どんなものでも、ひと目見ただけで理解してしまうほどの知力だ」


 ぶっちゃけると、一度見たら、たいていの魔法は使えてしまう。

 ただし、身体が小さいので、戦闘能力はそんなにない。魔力も普通の魔人並だ。だが、その理解力で魔人と魔物を軍隊として指揮すれば、人間くらい滅ぼせたかもしれない。


 本人はいたってのーてんきで、そんな気などさらさらなかったのだが。


「だから、魔力や超絶の力を求める者に、魔王ちゃんの魂は応えない。応えるとすれば、なにかを必死で理解しようとしている者にだろうよ。誰かを理解しようと思ったり、純粋に知識を求めたりする者だな。だが、そういう奴らが教団なんぞ作って、魔王復活をやろうとするか?」

「……しないでしょうね」

「これが、教団による魔王ちゃん復活がありえない、第一の理由だ」

「第一?」


 あ、口がすべった。


「今のはなかったことに」

「えー、おにーちゃん、だいにのりゆうはー?」

「都合よく幼女になるな」

「おしえてー、おねがい。ふぇんるもまじんのけんぞくなんだよー」


 それを言われると弱いな……まぁ、いいか。

 別に秘密ではない。こんなことを考えてる俺が恥ずかしいだけだ。


「魔王ちゃんの能力は超絶理解能力。たいていの魔法なんかを、一目で理解して再現する力だ。それはわかるな?」

「は、はい」

「そして俺は、魔王ちゃんの目の前で『転生術式』を使っているのだよ」

「────あ」


 フェンルがおどろいたように、口を開いた。

 なにか言いたそうにしている──が、話はここまでだ。


「ほら、寝るぞ。明日は冒険者ギルドに行くのだからな」

「は、はい。ブロブロさま」


 俺はベッドに横になる。フェンルが、背中にくっついてくる。


「……あ、あの、ブロブロさま」

「ないな」

「ま、まだなにも言ってませんよぅ」

「お前が魔王ちゃんの転生体ということは、ない」

「どうしてですか?」

「だってお前、字下手じゃん」

「こ、これから練習します。ブロブロさまに『超絶理解能力だ』って言っていただけるくらい……ちょっと、聞いてくださいよぅ。ブロブロさまぁ……」


 うるさいな。こんな話をしたのは、夜だからだ。

 あと変な『濁点教団』に関わったからだ。もう二度とこんな話しないからな。


 寝ろ、フェンル。朝までくっついていていいから。





魔人さん、悪の教団にとどめを刺しました。魔人っぽく。

次回から第3章です。4人パーティでギルドに行って、とある場所をめざします…。

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