第20話「魔人、少女を裸にしてから説得する」
もちろん、マルグリアを脱がすのには理由がある。
魔物たちが、洞窟にいる俺たちのことを普通に発見していたこと。
それと、戦闘中に護衛少女マルグリアを狙っていたこと。最後に、彼女が旅の間、魔物に狙われていたという証言だ。もしかしたら『濁点魔王教団』から逃げるとき、なにかの目印をつけられたのかもしれない。
そういうものは存在する。たとえば、魔物を引き寄せるマジックアイテムとか。
だから、ひとつひとつ確かめてみることにしたのだ。
もちろん、俺が脱がすわけにはいかないから、幼女2人に手伝ってもらうことになったのだが。
『グルルル──。ガウ────ッ!!』
「うむ。シャツには反応していないようですね。次」
「あとは下着しかないのね」
「それでは脱いでください。マルグリアさん」
「うぅ…………」
俺と幼女2人でマルグリアを裸に剥きながら、持ち物をひとつひとつチェックしていく。
結界内にいるブラックハウンドは、相変わらずマルグリア本人の方を向いている。マルグリア本人は俺に背中を向けて、上半身をおおう下着を外したところだ。背中が小刻みに震えているのは、寒いからか。ロングソードを抱きしめて、横目でこちらを見ているのは、俺を警戒しているのだろうか。安心しろ、俺からするとマルグリアはぎりぎり幼女の範囲内だ。手を出したりはせぬ。だからさっさと脱ぐがいい。
「スカートもだめ。下着の上も──やはり反応がないか」
俺はぬくもりが残る下着を、ブラックハウンドの鼻先にかざす。
だが、相変わらず魔物が見ているのはマルグリアだけだ。
「じゃあ、最後の1枚を」
「うわああああああああんっ」
「仕方ないでしょう。原因がわからないまま、王都まで魔物に狙われっぱなしってわけにもいかないんだから」
「…………うぅ」
覚悟を決めたのか、マルグリアは最後の一枚を脚から外した──らしい。見てないしそっちはどうでもいい。問題は魔物の反応だ。ブラックハウンドはマルグリアの最後の一枚に対しても、やはり見向きもしない。ということは──
「すいません、気のせいでした」
「気のせいで裸にされたのですか、私は!?」
気にするな、人間。あとで熱いお茶を煎れてやるから、それで水に流してくれ。王都に着いたらお菓子もつけよう。
……しかし、困ったな。
マルグリアを裸にしても、ブラックハウンドの反応が変わらないということは、彼女自身の中に魔物に反応するなにかが仕込まれている可能性がある。それを除去するには彼女を従者にするしかない。が、俺としてはこれ以上、従者を増やしたくないのだ。養うの大変だから。
「マルグリアさんには、親近感を覚えます……」
「ルミーアもそうなのね」
「13歳ですよね、マルグリアさん」
「その体型は、ルミーアとそっくりなのね。ちょっと身長は高いけどね」
幼女2人の言葉に俺もうなずきかける……が、マルグリアが涙目でロングソードに手を伸ばしていたので、途中で止めた。本人が気にしているのを突っつく趣味はない。だからその武器を降ろすがいい。その、鞘が妙に太いロングソードを……ん?
鞘が太い……表面はかざりひとつない木製の鞘なのに。
なぜそんな形にする必要がある? 使いにくいだけではないのか? なぜだ……?
「マルグリアさん、武器をこっちに渡してもらえますか」
「はうっ!?」
妙な悲鳴を上げて、全裸のマルグリアはロングソードを抱きしめた。
「わ、私を裸にした上、武装解除までなさるのですか?」
「そうじゃないです。魔物が武器に反応するかどうか、まだ試してなかったんで」
「うぅ…………」
マルグリアは不満そうだったが、俺に剣を渡してくれた。
「それは、生前にルミーアさまのお父さまからもらった大切なものです。雑に扱わないで、ああ! 魔物の鼻先に近づけないで! でもこっちは見ないでください!」
注文がうるさいな。まったく。
俺はマルグリアから受け取った剣を、魔物の鼻先に近づける。
『ガガガガッガガ! グルル────っ!!』
反応が変わった。
俺は剣を鞘から抜いて、右へ左へ。魔物は鞘を追いかけるように身体を動かしている。原因はこれだ。
鞘が太いのは、簡単な理由だった。金属製の鞘に、木製のカバーがかぶせてあるだけだ。そうすることで鞘を、二重構造にしている。
これは、ときどき見かける技術だ。
盾や鞘を二重にしておいて、そこに魔術的なものを仕込んでおく。
防御力を上げたり、逆に誰かを陥れたりという使い方もされる。
たとえば、魔人の靴底に変な術を仕込んで、歩くたび『ブロブロは魔王ちゃんだいすきー』って声が流れるようにしたりな。あの後、魔王ちゃんがトイレにまでついてきて大変だったのだ。あと犯人、復讐する前に死ぬんじゃねぇ。墓の位置を教えろ。灼き尽くしてやるから。
「二重の鞘を繋いでいるのは、塗料か接着剤か」
たぶん、外側の大きな鞘の中に、ひとまわり細い鞘があるのだろう。鞘の中央には細い線が入っている。飾りかと思っていたが、ここから2つに割れるようだ。
俺はマルグリアとルミーアに手早く説明した。
この鞘に魔物が反応していること。鞘が二重になっている可能性があること。調べてみたいことを。
「それはルミーアさまのお父様がくださった剣なのです。いざというときに、これでルミーアさまをお守りし、危険から逃げよ、と」
マルグリアはまだ迷っているようだったが、やがて、決意したように顔を上げた。
「ですが、それが危険なものであれば、放っておくわけにはいきません。お願いします、クロノさま」
よかろう。
「『変幻の盾』遮断:塗料、接着剤」
俺は『変幻の盾』に鞘を通していく。『固体分離』効果だ。鞘の端から細かい塗料のようなものが落ちていく。数回繰り返すと、鞘をつなぎとめていたものはなくなり、外側の鞘が外れた。
中にあったのは、金属製の鞘に埋め込まれた魔力の結晶体と……。
…………ああ、やっぱりそうか。魔物を呼び寄せる術式が刻んである。
「マルグリアさん。当たりです。これが魔物を引き寄せてたんです」
「……そんな!?」
マルグリアは震える手で、俺から剣の鞘を受け取った。
しかし、意味がわからないな。ルミーアの父親はこれをマルグリアに預けたのだろう? だとすれば、彼女と一緒にいるルミーアが危険にさらされることもわかったはずだ。どうしてこんな真似をする?
「お疲れ様。ブラックハウンド。感謝する」
適当に魔物にとどめをさして、俺はマルグリアに向き直る。
彼女は地面に座り込んで、呆然と剣の鞘を抱きしめていた。
「……クロノさま…………」
「はい」
「私は、ルミーアさまのお父様に拾われた……孤児でした」
白い背中を見せながら、マルグリアは言った。
「ルミーアさまの遊び相手として、成長してからは護衛として。あの方は、私をわけへだてなく育ててくれました。亡くなる直前、まるで死期をさとっていたかのように、私にこの剣をくださって、危険を感じたら逃げろ。そしてルミーアを守ってくれ、と」
「マルグリア……」
「それが魔物を引き寄せるものだったなんて……一体、なぜ?」
「マルグリア……落ち着いて。これにはきっと理由があるのね……」
呆然とするマルグリアを、ルミーアが抱きしめていた。
気持ちはわからないでもないが、人間の感傷につきあっている暇はない。鞘に魔法が仕込まれている以上、放っておくわけにはいかないのだ。
養父との思い出だかなんだか知らないが、術式は無効化しなければならない。
死んだ人間より生きた人間だ。マルグリアとルミーアを、このまま危険にさらすわけにもいくまいよ。魔人が護衛している人間が魔物に食われるなど、笑い話にもならぬからな。
「まぁ、とにかくその鞘は、無害化しときましょう」
「…………はい」
マルグリアは名残惜しそうだったが、俺に剣の鞘を渡した。
俺は『変幻の盾』で『魔力結晶』を遮断し、鞘から取り外した。
動力がなければ、術式は作動しない。
鞘はこのまま『濁点魔王教団』の悪事の証拠として取っておくことにしよう。
「クロノさま……じゃなかった、おにいちゃん!」
不意に、フェンルが声をあげた。
「外側の鞘のところに、羊皮紙がはさまってるよ?」
気がつかなかった。
内側と外側の鞘に隙間に、隠れるみたいにして小さな紙が挟まっている。
手紙のようだ。ならば、これはルミーアとマルグリアに宛てたものだろう。俺が盗み読むわけにもいくまい。
マルグリアはまだ脱力状態だったから、俺は手紙を幼女ルミーアに手渡した。
「中の文字に、見覚えはありますか?」
「お父様の字なのね……」
幼女ルミーアは、ぽつり、とつぶやいた。
それを聞いたマルグリアが顔を上げる。彼女に向かって、ルミーアはうなずく。
ここは暗い。死んだ父親の手紙を読むなら、灯りがあった方がいいだろう。あと、いい加減マルグリアは服を着ろ。全裸がくせになっても知らぬぞ。
『親愛なる我が娘たちへ』
洞窟に戻ったあと、俺は『こんろ』を使って、もう一度たき火をつくった。
その明かりのなかで、ルミーアが手紙を読み上げはじめる。
「恩人のあなたたちにも、なにが書かれているか知って欲しいのね」
ルミーアはそう言った。俺に異論はない。ニセ魔王をあがめる教団の話なら知っておきたい。そいつらが怪しい魔法で魔王の名を汚すというなら、いずれは潰しに行くしかあるまい。面倒だから、『スローライフ』を達成したあとになるだろうが。
『親愛なる我が娘たちへ。お前たちがこの手紙を読むとき、私はおそらくこの世にはいないだろう』
ルミーアは、落ち着いた声で語り続ける。
俺は『幼女モード』に戻ったフェンルを膝に乗せて、それを聞いていた。
『マルグリアは、ルミーアを守って戦ってくれていると思う。この手紙に気づいたということは、私がこの剣に仕込んだ術式のことも知ってしまったのだろう。これは私が大金をはたいて、高名な魔法使いにお願いしたものだ。お前たちを「魔王の器」として鍛え上げるために』
……は?
ちょっと待て。「魔王の器」だと。そんなもののために『魔物を引き寄せる術式』を作り上げたのか?
馬鹿なのか? 人間。
『そもそも「グルガンゴルガ教団」は、私の曾祖父がいろいろな伝説をまとめあげ、さらに独自の解釈とインスピレーションを加えて作り上げたものだ。それによると、魔王はふさわしい器の中に、魂として宿ることで復活を遂げるとされている。
お前たち……ルミーアとマルグリアは、その器として私が引き取ったものだ。
マルグリアは優れた魔法と身体能力。ルミーアは「魔物探知」スキルを持っている。
2人とも、鍛え上げれば、良い魔王の器になってくれる……だろう』
ルミーアがびっくりしてる。
そりゃそうだ。いきなり出生の秘密が明かされたんだから。
なんだろうな。2人の養父は、いったいなにを考えていたんだろうか……。
『むろん、魔王復活を企てるのは重罪だ。だから私と弟は協力し、教団の存在を隠していた。
だが、時が経つうちに、私と弟の間には、埋められない溝ができていたのだよ。それは──』
手紙を読んでいたルミーアが声を詰まらせる。
マルグリアも目を見開いている。
教団の秘密? 彼女たちの養父と叔父の間になにが──
『奴は「魔王グルガンゴルガ」には4対の眼球と牙があると言ってゆずらなかったのだ! 触手など外道、時代遅れ、そんなものは魔王の造形には邪魔なだけ、と。私が心の底から求める、触手つきの魔王を否定したのだ!!
そこまで言われて黙っているわけにはいかない。私は奴を教団から追放しようとした。
が、教団内部には「牙派」がはびこり、「触手派」はすでに少数派となっていたのだ!!』
あほか────っ!!
意味がわからねぇ! 眼球? 牙? 触手?
そのコンセプトの違いから教団が分裂して、そのために殺された?
牙でも触手でもいいじゃねぇかそんなもの。争うくらいならどっちもつけろ! どうせそんな魔王は存在しねぇんだから!!
『だが、私も手は打った。私の死後、教団のことを暴露できるよう、手紙をあちこちに出しておいたのだ。もしも私が殺されたなら、教団も王都から派遣される冒険者によって滅ぼされることだろう。やーい、ざまーみろ。
最後にルミーアとマルグリアよ、お前たちはその正体を隠し「触手持ちの魔王の器」として成長してくれ。
我が野望「魔王グルガンゴルガ」の復活のために。さらばだ、わが娘たちよ……』
「「…………………………」」
手紙を握りしめたまま、ルミーアとマルグリアは言葉をなくしている。
よくよく思い返してみれば、彼女たちの話にはおかしな点がいろいろあった。
『濁点魔王教団』は彼女たちが住んでいた町に、いろいろとはびこっていた。
彼女たちの父親だけが無関係だというのは不自然だ。それに、店が簡単に乗っ取られたというのも。もしかしたら、従業員はすでに『触手派』から『牙派』になっていたのではないか? 知らんけど。
つまり……2人の養父が『濁点魔王教団』の幹部だったってことか。でもって、魔王の造形に対するコンセプトの違いから教団内部の争いが起きて、2人の父親は殺された。だが、2人を魔王の器とするために、魔物を引き寄せる剣を与えた、と。
「…………はぁ」
あのさぁ。
魔王なきあとの人間よ。どうしてこんな愚かなことをしているのだ……。
なんだかなー。
人類の敵対者になること拒んで、勇者に滅ぼされた魔人と魔王がばかみたいじゃないか。
別に魔王復活させて力とかもらなわなくてもいいではないか。人間界、そこそこ平和なのだから。それに魔王ちゃんの力は破壊の力でも、広範囲魔術でもなかったのだが……今の時代の人間に言っても仕方ないか。
「おにーちゃん。おふたりが……」
「わかってる。雇い主の体調くらいは考えてやるとも。『えあこん』作動」
ルミーアとマルグリアは、がたがたと震えているからな。それに、いまだにマルグリアは裸だ。
ちょっと高めに温度設定をしておこう。あとは、身体が温まるようにお湯を沸かして、と。
「どうだ。寒くないか、フェンルよ」
「だいじょうぶだよ。おにいちゃん」
「仮に裸だったとしたらどうだろうか」
「…………おにいちゃん」
なんだ、その不思議生物を見るような目は。え? 後ろを向いてください? 意味がわからないか……わかったわかった。ほら、後ろを向いたぞ…………なにか言え。どうして黙っているのだ? あと、衣ずれの音がするのは何故だ? もういい? そうか。
「……もう少し温かい方がいいと思います」
服を整えながらフェンルは、言った。真っ赤になっていたが。
まぁ、寒がりのフェンルが言うなら確かだろう。設定温度をもう少し上げておこう。
「……クロノさん、聞いて欲しいのね」
気づくと、ルミーアが俺たちの方を見ていた。
マルグリアはたき火の前に座らせて、ルミーアは俺のたちの前で腰を下ろした。
「父様は生前、言っていたの。己を鍛えることで、大いなるものを受け入れる器となれ、みたいな」
「……物語とかでありそうなセリフですね」
魔王の依り代、とか。
そういえば、ルミーアが持ってた紙に『適性:B』とか書いてあったな。
「実は、前からルミーアは疑っていたのよ。もしかしたら父様は『グルガンゴルガ教団』と関わっていんじゃないか、って。まさか、教団の幹部だったとは……思わなかったけれどね」
「これから、どうするつもりですか?」
「とりあえず王都には行くのよ。本当は商人ギルドに訴えて、教団をなんとかするつもりだったけれど……」
「ルミーアさんたちのお父さん、もう手は打っちゃってるみたいですからね」
俺の言葉に、ルミーアは、こくん、とうなずいた。
いきなり目的がなくなっているのだよな。この2人は。
元々は父の復讐のために『濁点魔王教団』のことを訴えようとしていたのだ。そしたら実は父が教団の幹部で、本人は死ぬ前にとっとと教団を潰す手を打っておいた。もうどうしたらいいのかわからぬのだろう。
まぁ、それも人間の世界の話だ。俺には関係ない。
俺たちは『スローライフ』のために、ヴァンパイアの城を探しているだけだからな。『濁点魔王教団』がルミーアの父親の血族が自作したものなら、魔王城の情報などは持っていないだろう。仕事は引き受けたが、王都まで彼女たちを送ったあとは、俺たちはもう無関係だ。
無関係……なのだが。
この2人にはまだ利用価値がある。
ルミーアには『魔物探知スキル』が、マルグリアには剣の腕と魔法の才能がある。
そんな2人が落ち込んだあげく、使い物にならなくなってしまったら……もったいなさすぎる。能力のある者を無駄に潰してしまうのは、愚か者のすることだ。
ルミーアとマルグリアの2人は、この魔人ブロゥシャルトが利用させてもらうとしよう。
そうだな──
「あなたたちは、勇者になるんじゃなかったんですか?」
「「!!?」」
ルミーアとマルグリアの身体が、稲妻に撃たれたように震えた。
効果があったようだ。
「世の中には『魔王復活』をたくらむ他の組織があるかもしれません。邪悪な教団がもたらす悲劇を知っているあなたたちなら、それを食い止めることができるのではないですか?」
そう。ニセモノ魔王をあがめる教団は他にもあるのだ。
が、俺がすべてを潰すことはできない。というか、そんなことをしてたら『スローライフ』を送る暇がなくなる。
ならば、その意思を持つ者に託すべきであろう。もちろん、すぐにできることではない。これから2人が冒険者をはじめて、経験を積んで、その上ではじめてなしえることだ。5年……あるいは10年かかるかもしれぬ。
だが、問題ない。2人ともまだ若い。
ルミーアは幼いし、マルグリアは彼女よりちょっと身長が高いだけだ。これから、時間はいくらでもある。冒険者に弟子入りするのもいいし、採取系のクエストで少しずつ経験を積むこともできる。
冒険者として過ごすうちに、別の目的を見いだすこともあるだろう。そうなったら、それだけのことだ。俺の知ったことではない。ただ、利用できる可能性があるなら、たきつけておくのも悪くない。このままでは2人、地の底まで落ち込んでしまいそうだからな。能力があるのに、動けなくなってしまっては意味がなかろう。
「悲劇を知る私たちなら、他の魔王教団に対抗できるといいたいのね?」
「邪悪な教団を憎む気持ちは、俺も同じですから」
「わかるの。あなたも『魔王復活』をたくらむ教団を憎んでいることが」
「ええ、俺だって、触手魔王だの牙魔王だの眼球魔王だのの存在は許せません」
そんなラブリーの対極にある魔王など、存在自体がおぞましい。
いずれ俺が『魔王ちゃんの遺産』を手に入れたあかつきには、真の魔王がどれだけラブリーだったかを世界に示し、邪悪な教団すべてを根絶してくれよう。
「……ルミーアは、あなたの言葉に従います」
幼女ルミーアはおだやかにつぶやいた。
「マルグリア。聞いたのね?」
「……はい。お嬢様」
「ルミーアたちは、勇者になるのよ。目標は高く、でも最初は堅実に、冒険者からはじめるの!」
「はいっ!」
ふふふ、やる気になってくれたようだ。
さっきまでは死んだ魚のようだったマルグリアの目に光がともっている。と、いまごろ全裸であることに気づいたのか? 全身真っ赤になっているぞ。いや『えあこん』の暖房が強すぎたか? え? 見ないでください? いまさらなにを言うか。脱がしたのは俺だが、着なかったのはマルグリアの選択であろう。別に胸とふともものほくろの位置がわかったところで、なんに使えるわけでも……こら、物を投げるな。暴れるな。
すまぬがフェンル、なんとかしてくれ。
「……れでぃのはだかをみたんだから、おこられてとうぜんだよ、おにーちゃん!」
「そういうことは立派なレディになってから……だからお前まで暴れてどうするのだ、フェンル!」
とりあえずルミーアに協力してもらって、マルグリアに服を着せて。
みんなでハチミツたっぷりのお茶を飲んで「ほーっ」と息をついて。
いまだ『幼女モード』から抜けきらないフェンルの背中をなでて、寝かしつけて。
それから俺たちは、眠った。翌日、日が高く昇るくらいまで、ぐだぐだと。
ブラックハウンドの『魔力結晶』は回収した。ドロップアイテム『猛犬の爪』も回収した。王都のギルドに売れば、数ヶ月の生活費にはなるだろう。
そして、洞窟を出たあとは、特に魔物にも出会わず──。
数日後に、俺たちは無事に王都に着いたのだった。
魔人さん、やる気になった少女たちと一緒に王都に到着しました。そのあとは……
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