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第2話「魔人と魔王ちゃんの思い出と、転生儀式」

 魔王城。

 それは大陸の果てにあった魔王の本拠地。

 人間の領域と魔王の領域の間には、魔物がたくさん住まう地域があって、そのせいか、魔王と魔人は魔物を操っていると勘違いされていた。

 俺もほとんど、魔王城から出たことなかったから、具体的にどこにあったかって言われる困る。とにかく日照時間が短くて、山がたくさんある地方だ。それは間違いない。


 400年前は、まだ人間の武器や魔法は今ほど発達していなかった。

 逆に、魔王と魔人の技術は、現在の人間と同レベル。

 人間から見たら上位存在が、魔物にあふれた地方に、どかんと城を構えていたわけだ。


 当時の俺の仕事は、魔王の護衛。

 自在に『障壁(バリヤー)』を作るスキルを活かして、魔王を守ることだった。

 魔人といえば、魔王城でも上位存在。

 でも、前世の俺の生活がどんなだったかというと──




「ブロブロ。おやつー」

「何度も言わせるな、魔王さま。俺はブロブロではない『障壁の魔人』ブロゥシャルトだ」

「んー」


 ちっちゃな少女は、困ったように首をかしげた。

 身長は、俺の胸のあたりまでしかない。

 俺からは、銀色のつむじがよく見える。ねじれた角と、お腹まですとーんとなった、見事な直線美も。


 魔人の王である魔王ちゃんは、俺のローブをつかんで、えいえい、と引っ張ってる。

 対する俺は高身長でエルフ耳。短い2本の角を持つ魔人。

 はっきり言って、魔王ちゃんは俺にとって子供のような存在だった。


「ブロブロー。ねー、ブロブロー」

「魔王さま」

「なーにー?」

「部下の名前くらい覚えてください。俺はブロブロではなく、ブロゥシャルトだ」

「んー、わかった。ブロブロ」

「あんた話聞いてないだろ!」

「んー。じゃあがんばる。あのねブロゥちゃっ(がきっ)!」

「あーもう。舌噛むくらいならブロブロでいいよもう!」

「う……うぅ……ぅぅ」


「はいはい。ブロブロになにかご用ですか、魔王さま」

「お話して」

「お話なら他の魔人にでも聞くがよい。みんな喜ぶぞ」

「ブロブロの話の方がいい。あんなお話、どこで思いつくの?」

「俺は『障壁の魔人』だからな。障壁とは境界を象徴するもの。だから、異世界からの書物が俺の部屋にはたまに流れ着いて──って、話を聞けよ」

「すぴー」


 そうやって、いつの間にか魔王ちゃんは俺の足下で眠ってしまうのだった。




 前世での俺の仕事は、魔王の護衛。

 だから常に一緒にいなければいけない。

 幼い魔王を、勇者や人間から守るのは重要な任務だから……なのだが。

 これがやたらにストレスのたまる仕事だった。


「……『障壁』のやつ。魔王ちゃんといつもべたべたしやがって」

「……ちょっとばかり護衛だからって、いい気になるんじゃねえぞ」

「……ワシも『ブロブロ』って呼ばれたい……」


 魔王ちゃんと一緒にいる間、ずっと他の魔人たちににらまれていたからだ。

 繰り返しになるけれど、護衛は常に魔王の隣にいなければいけない。

 睡眠中も。魔王の活動時間である夜も。風呂──はさすがに一緒には入らなかった(要求されたけど断った)が、脱衣所に魔王の着替えと下着を届けるくらいはしてた。もちろん、ごはんも一緒だ。魔王ちゃん不器用だから、「あーん」して食べさせてた。


 俺にとってはめんどくさいことこの上ない仕事だった。

 けれど、他の魔人たちの嫉妬を集めるのには十分だったらしい。

 魔王が、人間年齢では12歳にしか見えないつるぺた幼女体型であればなおさらだ。


 魔王は魔人と違い、家族を持たない。

 光に対して闇があるように、神に対するアンチテーゼとして自然発生する。

 そんな魔王にとって、いつもそばにいた俺は家族のようなものだったのだろう。


「ブロブロ。すきー。今日も一緒に寝ようねー」


 魔王ちゃんがそう言うたびに、魔王城には殺気が満ちて──


「……ふざけんな『障壁』の奴」

「……誰か毒を精製しろよ。証拠の残らねぇ奴」

「……ざっけんな、そんな簡単に楽にしてたまるかよ……」


 魔人たちの嫉妬により、魔王城は無法地帯(俺にとってだけ)になりかけてた。


「ブロブロをいじめたら駄目! めっ!」

「「「はい! 魔人一同心得ました!!」」」


 魔王ちゃんが怒るとあいつらすぐに反省するけど、3歩あるくと忘れるからな……。

 そんなわけで、俺のまわりだけ常にカオスな魔王城。

 常に視線を感じる魔王城。

 命の危険さえ感じる魔王城…………


「……いやまじで仕事代わって欲しい……」


 そんな生活を続けるうち、前世の俺のストレスはマッハで溜まっていったのだった。





「ブロブロー。お話してー」

「ブロブロー。背中流してー」

「ブロブロー。人間との戦争なんかやめたー」

「ブロブロー。ブロブロー…………」




 魔王ちゃんの潜在記憶によると、魔王と魔人は人間のために存在していたらしい。


 目的は、魔王ちゃんや魔人が人間をいじめることで危機感を植え付けて、彼らに組織を作ったり国を作ったりさせること。いわゆる、人間を集団として進化させることだ。神だか世界の意思だか知らないけど、魔王と魔人は、そのために発生したそうだ。

 最終的には人間相手の戦争を起こして、人の『絶対悪』になるのが役目だとか。


 はっきり言おう。知ったこっちゃない。


 俺は研究にしか興味がないし、魔王ちゃんは遊ぶことが大好きで人間萌えだ。他の魔人に至っては、ラブリーな魔王ちゃんを愛でることにしか興味がない。

 だから俺たちは人間をいじめたりしないし、戦争も起こさない。

 だから勇者なんか現れないし、滅ぼされることもない。




 ──はずだった。




「ブロブロ! やだぁ。死んじゃやだよぅ!!」


 ──そうだった。

 魔王が「戦争なんてやーめた」と言っても、神がそれを許すわけなかったのだ。

 俺たちの都合なんか関係なく、神は異世界から勇者を呼び出したんだ。

 でもって「規格外の人間」である勇者は魔王城を攻略し、ついに魔王の元にやってきた。


 魔人たちは次々に倒された。

 俺は固有スキル『無限障壁』を駆使して魔王ちゃんを守り続けたが、それも勇者が持つ神剣の前には、もたなかった。

 俺の『障壁(バリヤー)』は砕かれ、勇者の神剣は、俺の胴体を貫いたのだった。


「……やっぱ。『防御』と『反射』だけじゃだめだよなぁ」

「ブロブロ! しっかりして! ブロブロー!」

「……『変幻の盾』がいいな。もっと融通がきくようにしねぇと。そうだな。通過できるものとできないものを細かく設定できるようにして、属性を途中で変えられるようにして……」

「ゆうしゃああああっ! どうしてブロブロにこんなひどいことするの!? わたしたち、普通に闇の世界で生きてただけじゃない! 光の世界なんかどうでもいいよっ!」


 魔王ちゃん、怒ってるなー。

 ストレスたまる職場だったけど、魔王ちゃんはいい子だったなー。

 最後のおつとめだ。助けてやるか。


「……よいしょ」

「ブロブロ?」


 身体はまだ動く。さっすが魔人、頑丈だ。どてっぱらに穴が空いてるけど。

 でも、長くは保たない。さっさとするべきことを済ませよう。

 俺は起き上がり、左右を見回した。

 魔王ちゃんの玉座の後ろの壁が、勇者の魔法で吹っ飛んでる。

 ちょうどいいや。俺は魔王ちゃんの前に立って、と。


「ふはは! 勇者どもよ、この魔人ブロゥシャルトの最後の技を見るがいい!」


 と、言いつつ、盾をふたつ展開。これが最後だ。

 俺は自由なかたちの盾を、8つまで作り出すことができる。手を使わずに操れるのはお約束だ。

 6つは勇者に壊されたから、あと2つ。


 ひとつは自分の前に展開する。巨大化させてー、魔方陣っぽくして−。

 ひとつは俺の後ろ。丸くして魔王ちゃんを包みこむ。


「このブロゥシャルトの絶技の前では、お前たちなどひとたまりもない。どっちにしろこの障壁は、勇者の合体魔法でないと破れないがな! いいか。合体魔法は使うな! 使うんじゃないぞ! 絶対だぞ!」


 勇者たちは円陣を組んで、呪文を唱えはじめる。

 合体魔法だ。わー素直。


「やめろー。合体魔法だけはやめろー。この障壁は、それをくらったらひとたまりもないんだー」


 って、叫びながら、もうひとつの盾で魔王ちゃんをすくい上げて、と。


「……ブロブロ!? やだ、なにするのー!?」

「死なないでくださいよ。最後くらい、魔王っぽいところを見せてください」


 って言ってから、俺は壁の穴から魔王ちゃんをぽーいっ。


「やだ! ブロブロ! ブロブロ────っ!!」

「うわあああああああゆうしゃどもめえええええええええやれるもんならやってみろおおお!!」


 俺は絶叫で、魔王ちゃんの声をかき消す。

 よし、魔王ちゃんは逃がした。

 魔王城は崖の上に立ってる。外は断崖絶壁だけど、魔王ちゃんは翼があるんだからなんとかなるだろ。


 これで俺の仕事も終わりだ。

 同僚に、魔人ブーツに釘を入れられたり、魔人古文書に落書きされたり、魔人ジュースを呪詛で麻薬に変えられたりすることも、もうない。同僚の魔人たちは全滅した。嫌なやつらだったけど、もうこの世にいないと思うとさみし……いや、ぜんっぜんさびしくねぇな! むしろ俺がとどめを刺せなかっただけむかつくわ! ちくしょう! よくも俺の同僚を全滅させたな、勇者め!!


 でもまぁ、俺は仕事は果たした。

 願うのは、次は魔人なんかに生まれないように──ってことだけだ。

 こんなストレスのたまる職場、もういやだ。


「『偉大なる神の名のもとに。勇者は極大の光をここに──』」


 長ぇよ。さっさと撃てよ合体魔法。

 俺が欲しいのは、その魔力なんだからさ。


 実験が成功してるといいなぁ。


 俺が古文書を研究して生み出した「記憶を維持したままの転生実験」──その成果が、目の前に展開した魔方陣だ。

 これがうまくいったら、俺は記憶と、新たなスキルを手に入れて、生まれ変われるはず。


 もちろん、複雑な術式だし、膨大な魔力も必要とする。

 だから、勇者に協力してもらうことにした。合体魔法の魔力なら十分だ。


 極大魔法、この身に喰らってやろうじゃねぇか。

 さあこい。どんんとこーい。

 じゃあな、神の操り人形たち。俺は次の世界に行くよ──


「『光よ! 神の息吹をここに!! 終局神聖光波アルティメット・ハイ・フォトン!!』」


 ──最後に喰らうには、センスのない名前の魔法だよな──



 って、ところで、前世の俺の記憶は終わってる。


 勇者たちの合体魔法は『転生術式』のトリガーにはなったけど、その光は前世の俺をちりひとつ残さず消し飛ばしたんだ──



第3話は今日の午後6時に更新する予定です。

クロノさん、おうちに帰ります。

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