第15話「魔人、従者のためにおやつを作る」
アグニス=ギルモアが出発するのを見届けたあと、俺たちは5日くらいかけて、彼女の家で旅の準備を整えることにした。
「ブロブロさま」
「なんだ、フェンルよ」
「もう少しゆっくり、このおうちで『すろーらいふ』をするわけにはいかないのですか?」
床に、ぺたん、と座ったフェンルは、革袋に荷物を詰めている。
宿屋からアグニスの家に移ってから数日、静かなこの家が気に入ったようだ。
……ふむ、気持ちはわかるのだが。
「そうはいかんのだ、フェンルよ」
我が従者とはいえ、フェンルにはまだ『スローライフ』の本質がわかっておらぬようだ。
ここは簡単に説明するとしよう。
「確かに、我らはアグニスよりこの家の合い鍵を預かった」
「はい」
「不在の間は、使っていいとも言われたな?」
「アグニスさん、いいひとでした」
「フェンルをさんざん着せ替えて遊んで行ったがな」
「それは忘れてください!」
「断る!」
「そんなっ!」
「従者の可愛い姿を、記憶から抹消する主人がいるだろうか? いや、いない!」
「断言しないでくださいっ!」
フェンルは真っ赤になって声をあげた。
フリルたっぷりの服も似合っていたからいいではないか。旅の前でなければ大金はたいて譲ってもらうところだ。
「確かに、アグニスはいい奴だった。だが、仕事の相性というものもあるのだ」
「仕事の相性、ですか?」
「ああ、俺の紹介した仕事が、アグニスの性に合わないこともある。彼女が戻ってきたときのことも計算に入れねばなるまいよ。仕事が合わなくて戻ってきたのに、紹介した側が家でくつろいでいたら、どうなる?」
「すごく気まずいですね」
「だろう?」
話を聞いた限りではアグニスは無類の子ども好きだったから、孤児院の仕事ならぴったりなのだろうが、油断は禁物だ。彼女はあくまでも貴族の一員、辺境での生活が合わないことも考えられる。
彼女の生活が落ち着くまでは、戻る場所を残しておくべきだろう。
主人が不在だからといって、家をかすめ取るような真似はするまい。魔人のプライド的に。
「そしてもうひとつ問題がある」
「まだあるのですか?」
「ああ、没落したとはいえ、アグニスは貴族だ。他の貴族が家に訪ねてくることもあろう」
「はい」
「さて、ここで目を閉じて想像してみるがいい、フェンルよ」
「わかりました……」
フェンルは素直に目を閉じた。
俺は続ける。
「お前は今、友人の家にいる。家にいるのはお前と友人の2人だけだ。
そこで友人が『ちょっと買い物に行ってくる』と言って出かけてしまった。お前は友人の家でひとりきり……そこに、お前のことをまったく知らない家族が帰ってきた。
さぁ、どんな気分だ?」
「すっごく気まずいです!!」
「だろう!?」
転生してから、俺も一度だけこういう目に遭ったことがあるからわかる。
むちゃくちゃ気まずいのだ。そういうのって。
アグニスに家族はいないから、正確には『親戚』だろうが、気まずいのは同じだ。
「いつ、そんな思いをするかわからない……そんな緊張感を抱えた生活が、おだやかな『スローライフ』を言えるか?」
「言えないです!」
「それにな、俺たちが買い物に行ったとき、さんざん噂されただろう? 『あの呪われた子爵家から出てきた。魔法使いの関係者か?』……と。変な評判が立っては、アグニスが戻って来たとき困るだろう?」
ゆえに、ここはいったん旅に出るべきなのだ。
この家に世話になるのは……『魔王ちゃんの遺産』を見つけ出せなかったときだ。そのときの保険として、ここは取っておく方がいいだろう。
「ゆえに、5日なのだ。そして俺たちはやはり、『魔王ちゃんの遺産』を探しに行かねばならぬ。俺たちが気兼ねなく、だらだらできる居場所を作り出すためにもな」
「ブロブロさま、ついていきます!」
びしっ。
フェンルは紅潮した顔で、どっかよくわからん方向を指さした。そっちは山だが、まぁいいや。
彼女も納得してくれたことだし、俺は旅の準備をすることにした。
まずは食料だ。
ここから王都までは数日かかる。街道沿いには村があるが、やはり『結界キャンプ』することも計算に入れた方がいいだろう。宿屋は高価いし、うるさいからな。それならどっか静かなところに結界を張って休んだ方がましだ。
その場合、常に食料が手に入るとは限らない。
だから町にいるうちに、保存が利く食料を用意しておくべきだろう。
「まずはこれだ。主食はパンを持っていくとして、念のため麦も準備しておいた」
俺はフェンルを連れて庭に出た。
革袋の中身を『変幻の盾』に載せて、彼女に見せる。
「ライツ麦、ですね?」
「そうだ。適当に殻がついてるから安かったぞ」
ライツ麦はお粥に使われる麦で、柔らかく、よく水を吸うのが特徴だ。
「旅先ではこれをお粥にする。肉を入れれば栄養もあるし、水分も一緒に採れるからな」
俺は盾の下に、アグニスからゆずってもらった鍋を置いた。
そして『遮断:殻。通過:麦の粒』を宣言。
当然、盾の下から殻の取れた麦が落ちてくるので、それを鍋で受け止める。
「これで『魔人クッキング』の下準備は完了だ」
次に、俺は周囲に結界を展開した。
結界の内壁を叩くと水が出てくるので、麦がひたひたになるように鍋を満たして──
「ちょっとお待ちいただけますか、ブロブロさま」
「どうした、フェンル?」
「いきなり結界の機能が増えておりますが、これは!?」
「あー。これか」
そういえばフェンルには説明してなかったな。
「実は、従者が増えたのだ」
「いつの間に? どなたですか? 紹介してくださいブロブロさま!」
「紹介はしたよ。お前も知っている奴だ」
「──え?」
フェンルが、きょとん、とした顔になる。
実は、アグニスをノエル姉ちゃんのところに送り出す前に、ちょっとしたことがあったのだ──
──数日前、アグニスが出発する直前──
「クロノさま」
「どうかしましたか? アグニス=ギルモア子爵」
「……どうか、そのような堅苦しい呼び方はおやめください」
馬車の前で、アグニスは真剣な顔で言った。
……なるほど。彼女は没落貴族で、しかも呪いのせいで家族を失っている。アグニスにとって、家名とは重荷なのかもしれぬな。これは俺が悪かった。
「わかったよ。アグニス。どうしたの?」
「ありがとうございます」
アグニスは俺の前で、深々と頭を下げた。
「クロノさまの前では、わたくしはただのアグニスでいたいのです」
「うん。別にいいよ。それで」
ただの冒険者に直接会ったり、指輪を報酬として渡したり……アグニスは身分などにはこだわらない性格なのだろう。その考え方には共感が持てるな。
俺も以前は魔人だが、生まれ変わった今はただの冒険者だからな。
人とつきあうのに、身分など気にしないのはお互い様だ。
「ということは、俺とアグニスは友人のようなもの、ということでいいかな?」
「いいえ、忠誠を」
「忠誠?」
「クロノさまは、わたくしに新しい命をくれたのです」
そう言って、アグニスは俺の前で膝をついた。
「わたくしは小さな家の中で、ただただ死を待つつもりでした。けれどクロノさまは、わたくしの呪いを解いてくださっただけではなく、生きる道を示してくださいました。そのお礼として、わたくしは、クロノさまに忠誠をお返ししたいのです」
「……ちょっとおおげさじゃないかな?」
「あなたがそう思われるのなら、それで構いません。ですが──」
ひざまづいたまま、アグニスは俺の手を取った。
「わたくしは……繋がりが欲しいのです。クロノさまがくださった新しい命を、忠誠という形で捧げることを、許していただけませんか?」
「……そういうことか」
アグニスには家族がいない。だから、貴族の彼女は『忠誠』というかたちで誰かとの繋がりを求めているのかもしれぬ。貴族が忠誠を捧げるとしたら王だが、没落したギルモア家は王には相手にはされないだろう。
ゆえに、彼女を救った俺に『忠誠』という繋がりを求めた、と考えればわかりやすいか。
「いいでしょう」
俺はうなずいた。
人の姿をしているとはいえ、俺は魔人の転生体だ。
忠誠ひとつ受け止められぬほど、器は小さくはないつもりだ。
「そちらの気の済むようにしてください。アグニス」
「ありがとうございます」
そう言ってアグニスは俺に頭を下げた。
そのまま後を向き、馬車に乗り込んでいく。
……おや?
アグニスの首の後ろが、なにか赤く光ったような。
うなじのあたり……髪の隙間に、紋章が浮かんでいるような……。
というか、あれは『障壁の魔人』の紋章じゃ……?
「……『血の従者』……まさか」
「では、クロノさま、フェンルさま、ごきげんよう……」
確認する間もなく、馬車は走り去った。
忠誠の誓いと、それに対する承認。
それだけで簡易的な儀式として成立したようだ……。
……………………どうしよう。
いや、俺がアグニスに命令することなどない。問題はないのだが……。
ええい、仕方ない。次に帰省したときに、言いくるめて契約解除するとしよう。
アグニス=ギルモアよ。我が従者として、懸命に働くがよい。健康に気をつけて生きよ。無理はするなよ──元気でいるのだぞ。俺が帰省して、お前をこっそり従者から解放するまでな!
そうして、俺はアグニスの馬車を見送ったのだった。
「……と、いうわけだ」
「さすがブロブロさまです。本人も気づかないうちに『従者』にしてしまうなんて!」
フェンルは感心したようにうなずいた。
問題は「本人も気づかないうち」というところなのだが……。
気づいていないから解除もできない。おまけに、アグニスは俺が魔人の転生体だということは知らない。だから『従者』から解放するには、正体を明かさなければいけない。
だがまぁ、別に命令しなければ『従者』だろうと影響はない。俺とアグニスはただ、繋がっているだけだ。次に帰省したときに事情を話して、こっそり解除することにしよう。こっそりな。
もちろん、従者が増えたことで、結界の能力も増えた
『水道』と『こんろ』だ。
『水道』は結界の内壁を叩くと、そこから水が出てくる能力。空気中の水分を使ってるのか、きれいに澄んでいる。そのまま飲んでも大丈夫なようだ。
そして『こんろ』は──
「よっと」
俺は結界の床を叩いた。
ぼっ、と音がして、叩いた場所のそばで炎が噴き上がった。
炎の高さは、数十センチ。周りを石で囲んで鍋を置けば、わざわざ火をおこさなくても料理ができる。便利だ。
鍋の中で、麦は水を吸って充分にふやけている。
あとは火にかければお粥になる。
俺たちは移動中も、熱々の麦粥が食べられるというわけだ。
「市場で買ったイノシシ肉があるから、細かく刻んで入れてみるか。薬味としては『ソコラヘンニハエテタネギ』と『クロワサ』を。少々でいいな。香り付けていどに」
しばらく待てば、鍋はコトコトと煮えていく。
俺は匙ですくったお粥を一口食べてみた。
うむ……イノシシ肉を入れたせいか、コクのある味になっているな。
薬味のネギも歯ごたえがいい。クロワサは……この程度ならフェンルでも大丈夫か。
フェンルの分はそこらへんで冷ましておいたものを、と。
「食べてみよ、フェンル」
「は、はい……」
フェンルは俺が差し出したお粥を「ふー、ふー」っと冷ましている。まだ熱かったか。『えあこん』で冷やしておけばよかったな。まぁいい。1分ほど様子を見ていた彼女は、意を決したように匙でお粥を口に運んで──
「お、おいしいです。ご主人様!」
「うむ」
……よかった。成功か。
俺の料理技術は、現世ではノエル姉ちゃんの手伝いをしているなかで、前世では魔王ちゃんに料理を食わせている間に学んだものだ。魔王ちゃんには専属のコックがいたが、好き嫌いが激しかったからな、俺が色々アレンジして食べさせていたのだ。
それにしても、この『水道』と『こんろ』は便利だな。
専用の研究施設があれば、同じ能力を持つマジックアイテムを作り出せるのだがな。やはり、それには『魔王ちゃんの遺産』が必要か。
もちろん、人間どもに楽をさせるつもりなどはさらさらない、だが、古巣の孤児院で魔人の技術を自慢するくらいは構わぬだろう。ノエル姉ちゃんも楽になるだろう。やはり……さっさと『魔王ちゃんの遺産』を見つけなければならぬな。
「さてと、主食はこれでよい。あとは、つまめるものが欲しいな」
「いえ、私は……もう十分だと思います。ブロブロさま」
フェンルは頬いっぱいに麦粥を詰め込んで、幸せそう。
だが、甘いぞ、フェンルよ。
「よーく考えてみよ。いつも、結界内で料理する余裕があるとは限らないのだぞ?」
「はっ!」
フェンルは、匙をくわえたまま目を見開いた。
「不意にお腹が空くこともあるのだ。空腹のまま旅や戦闘をするなど『スローライフ』の本質に反する」
「わたしが間違っておりました!」
「いいから、冷める前に食え」
「はいっ」
ほんのり湯気をたてるお粥をほおばるフェンルに、俺は説明する。
「せっかくだから軽くて保存がきいて、美味しい携帯食を作ろう。なに、難しい話ではない」
俺はそのために用意しておいたものを、結界内に並べた。
市場で買っておいた果物だ。
旬のもので、安いものを選んである。
「『アマウリリンゴ』と『ヒイロイチゴ』……それに『マダラヒモバナナ』ですか?」
「これを使って、長持ちする携帯食を作ってみよう」
魔人ならできる、保存用フルーツ作成講座。
(1)まずは結界内に石を並べます。空気が通りやすいように、並べ方には気をつけましょう。
(2)石の上に『変幻の盾』を置きます。設定は『通過:水分、空気』です。
(3)さらにその上に、薄切りにした『アマウリリンゴ』『ヒイロイチゴ』『マダラヒモバナナ』を並べます。
(4)最後に結界を最小にして『えあこん』を『乾燥』にします。結界が小さい分だけ魔力消費は少ないので、風量は強めでも大丈夫です。しゅごー、って音がするまで出力を上げましょう。
(5)あとは数時間待つだけです。
「結界の大きさは最小にしてある。軽く実験したが、魔力はそれほど消費しないようだ」
「……『えあこん』には『どらい』なんて機能があったんですね」
「雨が降ると洗濯物が乾きにくくなるからな、そのための機能だろうよ」
俺は結界内に手を突っ込んでみた。
乾いてるかどうかは……よくわからないな。うむ、しばらくほっとこう。
「これでなにができるのですか? ブロブロさま」
フェンルはカバンサイズの結界を見下ろしながら、不思議そうな顔をしている。
なるほど。フェンルは俺が作ろうとしているものを、食べたことがないようだな。
「菓子などに使う、ドライフルーツだ」
「ドライフルーツですか!?」
「知らないか? 果物を乾燥させて甘みを引き出すという……」
「知ってます! でも、それって貴族さまや大商人さんが食べるものですよ!?」
それは俺も知っている。普通の方法だと作るのに手間だからな。市場にはあまり出回らないのだ。
「食べられるのは貴族。つまり、王様やその臣下、か?」
「はい!」
「ならば魔王直属の部下だった俺が食べても問題なかろう?」
「……あれ?」
「もちろん、その部下のお前が食べてもなにも問題はないな」
「……そ、そうなんでしょうか? あれ? あれれ?」
「できあがるまで4時間ほどかかる。その間、話でもしながら待つとしよう」
俺は草の上に腰を下ろし、家の壁に背中をあずけた。
フェンルも俺の隣に座る。
いい天気だ。空気はほどよく乾いてる。
今日出発にしてもよかったが、まだゴースト退治の疲れが残ってるからな。
それに『結界スローライフ』は、天気をあまり気にしなくてもいいのだ。
「眠くなったら寝てもいいぞ。今日はお休みのようなものだからな」
「はい……あ、そうでした。私、ブロブロさまにおうかがいしたいことがあったんです」
「うん。構わぬ」
「あ、あの。ブロブロさまの故郷のお話です。孤児院、っておっしゃってましたよね? もしかして、私、とんでもないかんちがいを──」
(4時間経過)
「そろそろよかろう」
「はい! よかったです!」
俺が立ち上がると、フェンルも満面の笑顔で立ち上がった。
なんだ、そんなにドライフルーツが食べたかったのか。だったらもっと早く作ってやるのだったな。
胸を押さえて、小躍りしそうになっているフェンルを見てると、俺も嬉しくなってくる。やっぱり、食べてくれる人がいるというのはいいものだな。
「では、こちらにこい。フェンル」
「……は、はい」
なにか覚悟を決めたように顔を近づけてくるフェンル。いや、口を開けろと言っただけなのだが。まぁいいか。適当なのを、口の中に押し込んでやると──
「…………!!!?」
「口に合わぬか?」
ぶんぶんぶんぶん(必死になって首を横に振るフェンル)。
まぁ、顔を見ればわかるがな。宝物を見つけたような顔をしているからな。
「あ、あまいです……すごい」
「必要なのは保存性と、軽量化だがな。口に合ったのならよかった」
水分が抜ければ腐りにくくなり、軽くなる。
王都までなら数日だが、俺たちにはヴァンパイアの城を探すというクエストがある。食料には余裕をもたせた方がいい。
『変幻の盾』で水分を遮断して一瞬で乾かすという手もあるのだが、その方法だと果物の内部構造そのものを破壊してしまうかもしれぬからな。時間はかかるが、通常の方法でやってみたのだ。料理好きだし。
「食料はこれでよし。飲み水は『水道』があるから、よし。着替えはある。靴も大丈夫。ルートは確認した。よし、問題ないな」
それから俺とフェンルは家に戻って、荷物のチェックをした。
着替えは一応準備してある。今日着た服は夕方に洗って、家の中に干しておいた。まわりに結界を張って『えあこん:乾燥』にすれば、明け方までには乾くはずだ。
最後に家の中の掃除をして、夕飯を食べて。
俺たちは早めに、ベッドに横になった。
荷物は準備した。携帯食も作った。
あとひとつ、気になるのは──
「……ゴーストを倒してレベルアップした『変幻の盾』の能力か」
「ブロブロさまの盾がこれ以上強くなったら、無敵ではないのですか?」
「まさか。というか、俺の盾は基本的には生活用だからな。それに『変幻の盾』は、前世で実験用に組んだスキルだ。どんなふうにレベルアップするかは、俺でもわからぬ」
だが、レベル3で増えた能力は予想外のものだった。
『魔法分離』
──魔法を分解して遮断・通過させる能力──。
正直言って意味がわからん。
「……気にしなくてもいいか。使ってみればわかるだろう……」
「……そうですね……おやすみなさい」
「……おやすみー。フェンル」
「………………」
細かいことは明日考えよう。
実際に出発してみなければわからないこともあるからな。
俺だってフェンルと出会うまでは、従者をどう扱っていいのか、わからなかったのだから。
「…………とりあえず、こいつの食いっぷりは気持ちがいいな……」
子どもをハラペコにしておくのが嫌いだったイライザ母さんの気持ちが、わかったような気がする。
俺も自分の子どもを持ったら、こんな気持ちになるのだろうか。今のところ予定はないが。
「…………ブロブロさま…………ついていきます…………おいてか……ないで…………」
「…………案ずるな……お前の歩くペースにさえ合わせられずに……まじんが…………つとまるか……」
「「……すぅ……」」
旅に備えて俺とフェンルは、さっさと眠りについたのだった。
第2章、スタートです。新たな生活力を身につけた魔人さん、旅に出ます。
次回、第16話は明後日の同じ時間くらいに更新する予定です。