靄ーもやー
まず本部へ帰還するとシャワー室で体を洗う事にした、目立った外傷は無く済んで良かったが、焦げ臭さや煤の付着した姿をカンナに見せる訳にはいかなかった。
外套と手袋は今回の損傷で廃棄確定だろう、手袋と衣服を脱ぐ。
知らないうちに出来た擦り傷や軽い火傷が幾つか確認できた。
(浴び終わったら医務室にも行かなきゃかな、未神さん居ると良いけど…)
シャワーを浴びながら考える。
(基本的に指揮官位である犬養さんが此処を留守にするのは余程の事が無い限り有り得ない、何か都合があっての事なのだろうか…)
お湯で少しヒリついてきた肩の火傷を優しく擦る、そして何故か無性にカンナの顔が見たくなったが黒にはその理由が分からなかった。
シャワーを浴び終えるとタオルで体を拭き、玄十郎に頼んで買ってきて貰っていた普段用の服を着た。
玄十郎らしいちょっと和テイストの赤いシャツと黒いジャケットにスキニーパンツで、柄は和風なのだがデザインは最近の流行らしさもちゃんとあって、洒落たセンスが光っていた。
(玄十郎さん、何時も仕事が早いけどセンスも良いな…)
サッパリして着替え終わると医務室に向かう、ドアをノックすると女性の声が聞こえた。
「どうぞ」
部屋に入ると様々な医療器具や医療品が備えられており、シャウカステンと言うレントゲンを照らし見る為のディスプレイが付いた机の前に女性が座っていた。
「やぁ黒君、怪我の治療に来たのかな?」
「はい、任務で少し怪我しまして」
透き通るような白い肌に白と言うよりは銀色に近い長髪を一本に纏めて、整った目鼻立ちに左目の下の泣きボクロが魅力の特徴的な人だ。
彼女の名前は八番隊未部隊隊長の未神冷だ、名が体を現すようにいつも冷静であり、熱烈的な所や激情的になっている所を見たことがない。
ただ、黒はそんな常に冷静沈着な所が彼女の良さだと思っている。
冷は何時も白衣と白い手袋を着用している、戦闘で黒ばかりを着ている人間達とはまた対極だった。
布製の白い手袋は事務用で、ゴム手袋は手術等の時に使い分けてるらしい。
「では、取り敢えず座り給え」
冷に手で促され、言う通りに座る。
「軽い火傷と擦り傷を」
それを聞くと、服を捲り黒の患部を見て幾つか確認し、その部分に向かって触れない程度に手を近付けると何かの呪文を囁いた。
手から淡い光が放たれると、見る見る内に擦り傷と軽度の火傷が治っていった。
「此の程度なら直ぐだな、通常の薬術・手術手当ての方が良かったかな?」
「いえ、寧ろ怪我の事を知られたくない相手が居たので助かりました」
黒は取り巻く事情について細かい理由までは言えないが、傷痕が直ぐに治る措置をしてくれた事に感謝をした。
「そう」
冷は深くは追求せずに答える、冷の性格上他人に対して興味が無いだけかもしれないが、黒は常に彼女が気を効かせてくれている気がしてならなかった。
「では、有り難う御座いました」
そう言い黒は退出しようとしたが、急に聞きたい事を思い出して尋ねる。
「そう言えば、犬養さんって今何処に居るか分かりますか?」
「いや、私には分かりかねるな、あの人は何を考えているか理解不能だ、アメーバを観察している気分になる…」
「ふふっ」
冷の犬養に対する評価が、とても辛辣なコメントなので黒はついつい笑ってしまった。
「驚いた、君は少し変わったな」
「えっ、そうですか?」
冷の黒に対する感想に、つい疑問を投げ掛けた。
「ああ、そう感じるよ、ただ…そうだな…悪くない…寧ろ良い傾向だと、私は思うね」
「?、そうですか」
自身では全く意識出来ていないが「冷さんがそう言うならそうなのかな」と言った感じで納得した。
「取り敢えず、犬養さんの所在についても答えて頂き有り難う御座いました」
「また用があれば来ると良い、暇な時であれば治療以外にでも簡単な魔術を教えてやろう」
そう言い、別れの挨拶を交わすと黒は退出していった。
「少なくとも、前までの君はいつ死んでも構わないと言う表情ばかりしていたよ…」
黒が去った後、小さく漏らす様に冷は言葉を発した。
医務室を後にし、カンナが待っているであろう犬養の事務室に向かった黒だが、その事務室に入るとカンナの姿が見当たらなかった。
「あれー?暇潰し用の本とお菓子は置いてあるな…」
少し焦って透過で捜索しようか迷うが冷静になる。
(いやいやいや、此処は恐らく現代の日本において一番安全な場所だ、普通に探せば良いだけだ、落ち着け落ち着け落ち着け!)
取り敢えず、急いで各所を足で駆け回り捜索する事にした。
給湯室、会議室、施設備品庫、他の事務室、更衣室(流石に女性の方は入れないので通り掛かった女性職員に確認して貰った)、放送室、警備室、装備品管理室、訓練所、およそカンナの入室が認められないであろう場所まで端末のパスを使い隊長権限で調べた。
そして最後に辿り着いたのが此処、任務補助生物育成所だった。
此処は任務において役に立つ生物達を育成し管理する部署だ。犬や鳥、はたまた毒虫まで育成している。
フルネームだと長ったらしい事から通称任生所と呼ばれている。
鉄製で出来た少し大きめの両扉を開くと、ケージに様々な動物が入ってる部屋になる。
そこはすぐ外に繋がる扉があり、外にはグラウンドの様になっている場所やその奥には草原や森林みたいになっている場所もあった。
土地としては開けていて広大な場所なのだが、敷地の境にはとても高い外壁が聳え立ち、夜間は自動でぶ厚い強化金属の天井が伸びていき、覆うようにして守られている。
何とか見知った姿を見つけ出した黒だったが、更に違う見知った人間も側に居た。
しかも、その二人が何やら会話をしているのだ。
(うーん、なんか良い雰囲気では無いな…と言うか険悪…?)
少し遠目から観察する。
「貴女…名前は?」
睨み付ける様に少し刺々しい雰囲気でカンナに問う。
「えっと、犬養カンナです」
言付け通りに「犬養」の姓で名乗るカンナ。
「ふぅーん、犬養って事は峰司の親戚とかそこら辺かしら」
その発言の主はとても若い女性であり黒より少しだけ歳上位の年齢だ、どう考えても犬養を呼び捨てにできるような年端では無い。
しかし、彼女は見るからにお嬢様と言う風格であり、凛としている人間であった。
背はカンナよりは高いが中くらいで、艶のある黒い髪は長すぎず短すぎずのショートボブ、そして一点の曇りも無く相手を刺すように見つめる綺麗な瞳。
立つ姿勢がとても綺麗で、何時も誰に対しても威風堂々としている女性と言った感じだ。
彼女の衣服は鮮やかな赤色で龍のデザインをあしらってある所謂チャイナドレスと言われる様な服。
彼女は五番隊辰部隊副隊長竜神咲姫と言う名の人間だ、何故彼女がカンナに話し掛けているのかはまだ分からない。
が、取り敢えず此処は自分がどうにかしようと会話に割って入ることにする。
「あのー、竜神咲姫さん、この子がどうかしました?」
黒は腫れ物を扱うが如く恭しく対応する。
すると咲姫は入ってきた黒に対して鷹揚に言った。
「あら、急に声を掛けて誰かと思えば汚ならしい野良猫じゃない」
流石、高潔なる(皮肉)お嬢様だと言う感じだ、その物言いは実に大胆不敵、敬愛不在である。
この態度に関して黒は既に馴れているが、横で聞いていたカンナは少し目を丸くしていた。
「どうもこうも無いわ!この子が龍護の勾玉を持っていたから、何処で手に入れたのか問い詰めようと思ったのよ」
少し苛立った雰囲気でカンナの首に提げている勾玉を指差した。
「これは…」
カンナが何か言い掛けたが、今や咲姫の扱いにも馴れている黒が先に答えた。
「あーこれは大牙君がくれたんですよ、御守りとしてカンナがその勾玉を貰って、僕はコレを貰いました」
そう言って懐から和紙を取り出した。
「あいつ…龍護の勾玉はそう簡単に作れる代物じゃないのに巫山戯るんじゃ無いわよ全く…」
どうやら咲姫の怒りが誤解から生じた物だった様でホッとした。
咲姫は大牙が絡むと熱くなる傾向になるのは知ってたし、それが好意が故に生じているのも理解していた。
「大牙君には、僕からもちゃんと言っておきますんで此処はどうか!」
「まぁ、貧相な猫科同士あんた等は仲が良いものね、良いわ…今日の所は不問にする」
誤解が解けても尚、嫌味で横柄な振る舞いだった。
すると、カンナがポンと手を付きわざとらしく閃いた様に言う。
「そっか!咲姫さんは大牙さんの事が大好きなんですね!」
凄くハッキリと、そして大きい声だった。
「はっ!?ハァ~?ち、違うわよそんなこと有るわけ無いじゃない!!」
見る見る顔が赤くなっていき、声も上ずり、誰から見てもあからさまに慌てている。
「もう良いわ、あー下らない!はいさようなら!!」
あんなに不遜だった彼女だったが、カンナの一言で逃げ帰る様に消えていった。
確か咲姫は現在、支部の方に勤めていた筈だから、今日は此処に何か用があって訪問していたのだろう。
それを二人で見送るとカンナが黒に言った。
「本当はああいう風に誰かの大切な想いを口に出して恥ずかしい思いをさせたくは無かったのですが、余りにも黒君に失礼な態度だったのでつい言ってしまいました」
そう言うと、カンナはちょっと悪戯を含んだ笑顔をしながら、テヘッとした。
「有り難う…」
いつも自分の味方をしてくれて、どんどん新しい事を感じさせてくれる、そんなカンナに黒は感謝をする。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい!」
と答えるが、カンナはふと疑問を思い付いて黒に尋ねる。
「そう言えば、今日は犬養さんに会わなくて良いんですか?」
「あー、それがなんか今日は珍しく不在らしくてね、また今度にでも訪ねるよ」
「そうなんですね!」
黒が犬養の事を答えるとカンナも納得したようだった。
「あ、僕も一つ疑問が有ったんだ、カンナはどうしてこんな場所に?」
黒の方も疑問が有ったのでカンナに尋ねた。
「あ!それはですね、御手洗いに行って事務室に戻ろうとした時に双子の女の子達に声を掛けられまして、動物がいっぱい居る面白い場所があるよって言われまして、来てみたらワンコがいっぱい居たので…その…可愛いなとずっと眺めていました」
「あちゃー、やってしまいました…」と言った感じでカンナは言った。
「勝手に違う場所に動いてしまって、御免なさい」
直ぐに黒に謝るが、黒はその事に対して悪いとかは全然気にしていなかった。
「いやいや謝らなくて大丈夫だよ、ただね、もしかしたらカンナが何か危ない目にあってないかと心配になっただけだよ」
黒自身もその件の双子に関しては心当たりがあったので責めはしなかった。
「はい、それであのー…」
少し言い辛そうに続けて話す。
「また此処に来ても良いですか?」
「うーん、良いけど今度は僕と一緒に居る時にしよう」
此の施設は関係者以外に見せてはいけない場所や物があまりに多い、だから出来るだけ黒がコントロールする必要がある。
それを聞くと、何故かは分からないがカンナはより一層嬉しそうに「はい!」と答えた。
今日も何時も通りに玄十郎の車でモールまで送って貰い、夕飯の食材を買って歩いて帰る。
その日の帰り道にカンナが何かを見掛けて足を止めた、その視線の先には町内の掲示板があり『町内夏祭り』のポスターが貼ってあった。
夜の出店とその背景に輝く花火のイラストで、楽しそうな雰囲気を醸し出している。
「そっか、そう言う時期だったもんなぁ」
黒もそのポスターを見ると思い出した様に言った。
「行ってみたいなぁ…」
カンナがそう呟くと黒は少し考える。
正直に言って護衛と言う任務をしている以上は必要最低限の外出は避けるべきだ、これは何よりも護衛対象の…要するにカンナの身の安全の為にもだ。
だが、出来るだけこの子の願いを叶えたいと言う気持ちが黒に出てきてしまっているのも事実だった。
(祭りの開催日は三日後か…人が集まる所で目立った襲撃も起こさないだろうし、1、2時間程度なら大丈夫だろう)
黒はそう思考して結論を出すと、カンナに声を掛けた。
「よし、夏祭りに行こう!」
「良いんですか!?」
「うん、何とかなるさ」
夏祭りに行けると嬉しそうにするカンナを見て、黒も何だかとても嬉しかった。
夕飯も食べ終え入浴を済ませカンナが眠りに就いた後、今日も黒は刀の手入れをする。
暴走者を始末した後も刀には目立った傷も無く完璧だ、数日の休暇でも体はちゃんと動いていたのでそこも大丈夫だろう。
刀の手入れを済ませ、疲れた黒は就寝をした。
眼の力を使った影響か夢を見る、そしてそれは前回見たのと同様だった。
血塗れに成った少年剣士が骸に囲まれ何かを叫んでいる、だが今回は少し違う。
内容は殆ど同じなのだが夢の中の幻聴が煩く喚くのだ、「お前も人殺しだ」と何度も何度も繰り返し反響し、大きく、小さく、早く、遅く、それが全て重なり鳴り響く。
悪夢だった、只でさえ前回の夢も悪夢だったのに更に酷くなっている。
黒は魘されて起きると顔は青ざめて喉はカラカラにな渇いていた、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注ぎ一気に飲み干す。
それから自分のベットに戻ると力無く倒れこみ、いつの間にか気を失う様に眠りこけた。
目を覚ますとご飯の匂いが漂って来てお腹が鳴りそうになった、カンナは要領がとても良く、覚えが早いので最近は黒の代わりに料理を作ってくれている。
部屋のドアからノックの音がし返事をする。
「どうぞ」
「あ、黒君!御早う御座います」
顔を覗かせて元気に朝の挨拶をするカンナ。
「御早う、顔を洗って直ぐに行くよ」
「はい、今日は珍しく遅起きさんですね」
「えっ?」
カンナに言われて時計を見てみると既に朝の9時を過ぎていた。
「ほんとだ…」
余りにも疲れたのだろうか、取り敢えずベットから出て洗面所へ向かった。
(まぁ、今日は特に用事も無いしゆっくりするか…)
顔を洗いながらそう考えて、食卓に向かう。
今日の朝御飯は鰯の開きを焼いた物に細切りの大根と葱を入れたお味噌汁、そして少し甘めにした厚焼き玉子だ。
「美味しい」
そんな感想をふと洩らすとカンナは喜んだ。
「良かった、黒君の顔が御疲れ気味だったので安心しました」
「えっ?そうだった?」
「はい、何やら御飯を並べる用意の時もボーっとしてましたよ?」
「そうだったか…御免ね心配掛けて」
「いえいえ」
どうやら無意識で顔に出る程に疲れていたらしい、こう言う変化は一人で居た時には無かった事でカンナはそれに気付いてくれたのだ。
食事も終えて二人でテレビを観たり、寝転びながら本を読んだりゆったりして居ると、気付けばお昼の時間になっていた。
毎日しっかりと一日三食を心掛けているので、お昼は黒が作る事にしたが携帯に着信が入る。
表示された名前を読むと『犬養』の文字が。
(犬養さん?)
リビングから離れ廊下に出てドアを閉めると、直ぐに呼び出しに答える。
「もしもし?」
「おお黒か!!」
何やら少し急いでる様子だった。
「昨日伺いに行ったんですが…」
「ああ昨日は少しな…、その事も含めて直接説明したい、今から急いで来れるか?」
ゆっくりしようとしていたその矢先に急な事だったが、犬養の様子が何時もと違うのもあり急いで向かった方が良さそうだ。
「はい、直ぐに行きます」
「分かった、玄十郎さんが10分位で迎えに行くから宜しくな」
以上で連絡を終えて直ぐにカンナに伝えに行った。
「今、犬養さんから連絡があって急いで向かわなくちゃ行けないんだ、申し訳無いけどカンナにも付いてきて欲しい」
今回も例に漏れずカンナを同伴させなくてはいけない、御飯も食べる時間無いし連れ回すのが黒にはとても申し訳無く感じた。
「いえいえ、前にも言いましたけど黒君と出掛けられて嬉しいです」
それは建前でなく本当の事だと黒は安心した。
二人は急いで出掛ける仕度をして車に乗り込んだ、今日も急いで本部へと向かって貰った。
事務室に入ると犬養が椅子に腰を掛けて待っていた。
「よっ!御両人」
何時もの軽い雰囲気の犬養が簡単な挨拶をする。
「こんにちは!」
カンナは元気に挨拶を返し、黒は小さく礼をする。
「早速で悪いんだが、カンナちゃんは此処で待っててくれるか?」
「はい、全然大丈夫ですよ」
その返事を聞いて犬養は黒を連れ立って会議室へと向かった、この光景はカンナを紹介された時とデジャヴだった。
会議室を開けてまた他に人がいないか確認する、今回もあまり他人に聞かれたくない内容らしい。
また適当な席に着くと犬養は切り出した。
「昨日の緊急任務の件は聞いた、助かったよ有り難う」
昨日の件を労う。
「俺が昨日不在だったのは訳があってな…、うーん、何処から切り出せば良いやら」
何やら何時に無く言葉を濁し真剣な様子だ。
「まぁ、昨日居なかったのは簡単に言えば、とある事を二つ調べててな…」
調査が得意な戌部隊の長、良く巫山戯ている彼が真面目に調べればどんな用件も筒抜けだろう。
「電話では無く直に話したかったのにも理由がある、今から言うのは志士の重大な機密に在るからな」
そう言うと犬養は話の本題を始めた。
「単刀直入に言う、件の殺し屋『夕霧クロエ』は過去、志士の作戦に関わっている」
「えっ!?」
「まぁ、関わっていると言うよりかは巻き込まれた…が正しいか」
犬養によれば、彼が総副長の座についた十年程前、一通り過去の任務記録や内部の事柄を纏めた記録に目を通したらしい。
そしてその中で引っ掛かったのが今回のクロエにまつわる過去であった。
彼女の父方の一族は謎の夜討ちを受けて滅ぼされたらしい、そして今回のクロエの黒に対する言動、そこからもっと詳しく調べたらしい。
「くっそ久し振りに本気モードだったからな、そりゃ骨が折れたぜ…」
両手を顔ぐらいに上げてヤレヤレと言ったポーズをする。
「んで、此処からが機密だ」
犬養は、その前任者の時代のアーカイブを漁り、とある情報に行き着いたらしい。
「御丁寧に厳重なセキュリティでな、本当に極一部の人間しか知られないようになっていた、多分総長や他の隊長すら知らない筈だ」
「そんな情報を僕に話してしまって良いんですか?」
そう聞くと犬養は頷いて続けた。
「御前に教えるのは二つの理由からだ、一つは今回に関わる相手が一番に対決する相手だと言う事、そしてもう一つは…」
そう言い犬養は続けた。
その重要機密と言うのは、十五年前に起こった事柄、実質な作戦内容は海外地域での交渉だった。
今の時代とは違い、当時の情勢では志士の活動は海外では国際問題になる恐れがあり、協力要請も儘ならないと言った世の中であった。
そこで限られた数名での作戦にして秘密裏に進め、もし公で問題になれば組織の為に数名で責任を取ると言う腹積もりだったのだろう。
そして選ばれ派遣された人物が先代の黒、師匠だった。