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第1章 還りし朱(7)

 小柄なパーツを組み合わせ、形だけだが少女の傀儡が完成した。

 初めてつくった傀儡ということもあり、関節の接合部もすぐにわかり、作り物だということがすぐにわかってしまう。それでも先代が残した素材が良いために、肌の質感や、肉の弾力は本物そのものだ。

 次にこの傀儡に必要なものは、原動力となる〈闇〉の注入。

 〈闇〉の注入には危険が伴うらしく、つくった傀儡が壊れてしまうこともあるらしい。

 呪架はつくった傀儡を抱きかかえて屋敷の外に出た。

 裸のままの傀儡を地面に寝かせる。胸部の少し上に透明のクリスタルが嵌め込まれている。ここに〈闇〉を注入する。

 柔らかな日差しを浴びる少女の傀儡から、呪架は数歩後ろに下がって気を静める。

 少し離れた場所からはセーフィエルは佇み見守っている。

 ここ数日、呪架は傀儡づくりだけをしていたわけではない。精神界から戻った呪架は傀儡士としての技を磨き、より高みを目指して修行を重ねた。

 傀儡に嵌め込まれたクリスタルに意識を注ぐ呪架。

 軽く右手をストレッチして、呪架は空間に向けて妖糸を放った。

 断絶された空間の傷が唸り声をあげ、徐々に広がりを見せる。

 裂けた空間の先に広がる闇。

 闇色の裂け目から悲鳴が聴こえる。泣き声が聴こえる。呻き声が聴こえる。どれも苦痛に満ちている。

 〈闇〉が世界に解き放たれ叫び声があげた。

「俺の言うことを聞きやがれ!」

 怒鳴りながら呪架は指先をクリスタルに向けた。

「大人しくその中に入れ!」

 〈闇〉が呪架の命令を聞き、クリスタルに向かっているかに見えた。だが、クリスタルの上に来た途端、方向転換をして呪架に向かって飛んで来た。

 向かって来る〈闇〉を見て、呪架の脳裏に吐くほどに辛い過去の残像が浮かぶ。

 朱に染まる母の幻影と、恐ろしい〈闇〉に連れ去られた『向こう側』の世界。

 呪架の心を蝕む恐怖。

 向かって来た〈闇〉を呪架は紙一重で避けた。

 心に隙間を蝕もうとする〈闇〉。

 悲鳴、鳴き声、呻き声、苦痛に満ちた絶叫が呪架の耳を犯す。

 方向を変えた〈闇〉が再び呪架に襲い掛かる。

 呪架は息を呑んだ。

 〈闇〉は支配するものだ。

 決して〈闇〉を恐れてはならない。恐れは心を殺す。

 絶対的な力によって〈闇〉を屈服させるのだ。

 呪架の瞳が闇色に染まる。

 全身から魔気を発する呪架。

「俺の前に屈服しろ!」 叫ぶ呪架の躰に〈闇〉が飛び込んだ。

 〈闇〉の強烈な一撃を腹に喰らいながらも、呪架は恐れなかった。

「俺に逆らってんじゃねぇよ!」

 全身から荒波のような魔気を発した呪架から〈闇〉を飛ばされた。

 そのまま呪架は手を掲げた。

「〈闇〉よ、傀儡の力となれ!」

 呪架が手を下げたと同時に〈闇〉が急落下をしてクリスタルに吸い込まれた。

 透明だったクリスタルの中で闇色が渦を巻いている。

 ついに傀儡士の傀儡が完成した。

 事を終えた呪架は腹を押さえながら地面に膝をついた。

「さっきの一撃でまた臓器が犯られた……」

 歯を食いしばりながら呪架は立ち上がった。

 呪架は完成した傀儡の傍らに膝を付き、つま先から指先、髪の毛の一本一本までをいとおしく眺めた。

 闇色の渦巻いていたクリスタルはすでに純粋な透明に戻っている。〈闇〉が全身に行き渡った証拠だ。

 呪架は少女の傀儡を抱え、力強く抱きしめた。

 傀儡の肌は熱を帯びており、皮膚の下からは血流のようなエネルギーの流れを感じる。

 この傀儡は初めてつくった試作品であるが、それでもあとは〈ジュエル〉さえあれば、エリスの黄泉返りは達成される。

 しかし、その〈ジュエル〉はまだ呪架の手元にない。

 エリスの魂は〈裁きの門〉の奥に幽閉されているらしい。

 呪架はさきほどまでいたはずのセーフィエルを探した。

 辺りにセーフィエルの姿も気配もない。

 すぐさま呪架は傀儡を抱きかかえて屋敷中を探したが、どこを探してもセーフィエルの姿はなかった。

「クソッ、どこに行きやがった」

 せっかく傀儡ができたというのに、〈裁きの門〉のことを知っているセーフィエルが姿を消した。

 手がかりを握るセーフィエルが消えたことにより、呪架の心は苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 そして、呪架はあまりのも大胆な強硬手段を思いついたのだった。

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