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プロローグ

 ――西暦20XX年。

 夜陰に包まれながらも、その大都市は燦然と輝いていた。

 魔導と科学の入り乱れた街――帝都エデン。

 オフィス街の明かりが消えた頃、繁華街の光は淫猥に活気付く。

 この夜、若者たちはいつも以上に酒を浴び、コンビニの前に屯っている者たちが殴り合いの喧嘩をはじめ、安価なドラッグでトリップして狂乱に興じる者もいた。

 本能的に『なにか』を感じていたのかもしれない。

 事実、この街に棲む力あるモノたちは肌で感じていた。

 中でもミヤ区にある帝都中枢――(ゆめ)殿(どの)の住人たちは確実な『なにか』を感じていた。


 ――来る。


 夢殿の敷地内にある豪華絢爛なヴァルハラ宮殿の中で、女帝直属の部下であるワルキューレたちが動きを止めた。

 また、同じ敷地内にある〈名も無き大聖堂〉で、永い眠りに堕ちている少女の瞼が微かに動いた。

 物理法則を無視して、鐘の音をミヤ区全域だけに轟かすメビウス時計台。その針が、二十四時ちょうどを指し示した。

 しかし、鐘の音は鳴らず、代わりに地震が大地を揺るがしたのだ。

 バルコニーに出ていた絢爛の衣装を纏った女帝の躰が揺れ、咄嗟に長い腕を伸ばして手すりに掴まった。

 地震はすぐに治まった。

 規模は震度三程度の小さな揺れだったが、女帝の秀麗な顔には昏い翳が堕ちていた。

 直下型の地震は奇怪なことに、夢殿の敷地内だけを揺らしたのだ。

 星が弱々しく輝く宇宙を眺め、女帝は呟く。

「夜魔の魔女……セーフィエル」と――。


 これと同時刻、夢殿の地下で拘束されている少年は、口枷をはめられた口でにやりと艶笑した。

 その少年の首や肢体は拘束具で固定され、アイマスクと一体化した手枷から伸びた鎖で天井から吊り下げられていた。

 『メシア』というコードネームで呼ばれるこの少年は、『なにか』の訪れに心の底から打ち震えて悶え、鎖の音を冷たく静かな地下に響かせた。

 そして、同時刻の別の場所では、強風の吹き荒れるビルの屋上から、遥か遠くを眺める者がいた。

 眼に焼きつく鮮やかな紅いインバネスを羽織り、〈般若面〉で顔を隠したその者は、空と大都市とその先の海を見つめている。

 この世界に『なにか』が来ようとしていた。


 ――来る。

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