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蜘蛛とカタツムリ

おぼろげな雨の中 分泌液を体にまとい重い殻をたずさえて


かれはゆっくりと食事をしていた


よく見ると小枝の先に雨に濡れる黒い陰があった


こんにちは


こんにちは


君は……蜘蛛かな?


黒い陰はコクリとうなずいた


君も食べるかい?


蜘蛛は答えなかった


今日はいい天気だから、こんな日にたくさん食事をしてたくさんからだを動かしてたくさん移動しなくちゃならないんだ


蜘蛛はゆっくりと前に進み出た


やあ。近くでみると大きいね


蜘蛛はカタツムリを凝視した


僕は動くのが凄くゆっくりだから、君がうらやましいよ

 

カタツムリはそういいながら、少しづつゆっくりと下がった


その分蜘蛛は前に進み出た



ねえ、どうして君は家を持ち歩いているの?


とたんに蜘蛛が聞いた


家を持ち歩くことに理由なんてないよ どこにいても家に入れる どんなに疲れていてもすぐ帰れる 迷子になってもすぐに家につく 君はどうして家を持ち歩かないの?



蜘蛛は答えなかった


少し寒くなってきたね 家に入ろうかな


僕も入れてくれる?


ちょっとそれは無理なんだ ひとりしかはいれない


じゃあ、君がでて僕を入れてくれる?


考えておくよ ところで、夕食はすませたのかい?


蜘蛛は首を横に振った


そう。君はいつでも食べたいときに食事が出来る僕とは違うからね 同情するよ ところで君のうちはどこにあるんだい?


ここだよ


ここってどこ?


ここだよ


カタツムリはよく見たら大きな一枚の葉と、枝ごと木から切り離されて、なにやら柔らかい糸で出来た編み目の上にいた


これは、失礼!勝手に君の家に上がり込んでいたね


見渡すとそこには蜘蛛とカタツムリ以外はいなかった


出来れば失礼したいんだけど。そうだな。この葉から降りると僕は絡まってしまうね


蜘蛛はこくりとうなずいた


カタツムリはゆっくりと自分の家に入った


こうしていても声が聞こえるかい?


家の奥からカタツムリは蜘蛛をのぞいた


蜘蛛はこくりとうなずいたようだった


気づくと蜘蛛は目の前にいてカタツムリの殻の中をじっと覗き込んでいた


そんなにじっと見られると恥ずかしいよ


そこはとても暖かくて居心地が良さそうだね?



そうだね。快適だよ


出来るだけ奥に引き込んだカタツムリの声はくぐもっていた



ねえ、君。殻の外側に割れ目があるよ


蜘蛛の声が殻の中に響いた


え?本当かい 気づかなかった


ここから指や口を入れたら君の体に触れられそうだ


そんなに割れてるかい?カルシウムをとって早く直さなくちゃ 明日にでも直そう


僕が手伝おうか?


大丈夫だよ 自分でやらなきゃいけないことだから


思ったんだけど


なんだい?


君は僕のうちにいるよね


そういうことになるね


さらにくぐもったカタツムリの声が言った


僕のうちの中にある物は僕の物だから、君のうちも僕の物だよね?


君、それは屁理屈という物だよ そうとは限らない


そうなのかな?


君のうちの中にあっても、僕がいる限りここは僕の物なんだ


そうなんだね じゃあ、君がいなかったら、僕の物なの?


僕がいなかったらね…



君は蝶を食べるかい?


いや、僕は蝶を食べない


とても美味しいんだ。羽はぱりぱりして香ばしくて体は柔らかくてジューシーで、手や足はとても風味豊かだ


それは初耳だよ


彼らは元々は芋虫なんだ 手も足もほとんどなくて、もよもよしていて葉ばかり食べてゆっくりと歩く


そうなんだね


それでいて体は柔らかくて臓器がいっぱいに詰まっていて、のろのろと動くくせに僕の家へと勝手に上がり込んでくる


それは、失礼な“客“だね。でもね、僕は勝手に上がり込んだんじゃないよ。気づいたらここにいた。君にはそんな気持ちがわかるかい? ただ、食事をしていただけなんだよ


君を、食べてもいいのかい?


僕は芋虫じゃないからね、なんともいえない。それにね、寄生虫がいっぱいいてお腹に悪いし美味しくないんだ。


だけど、僕、君の家が欲しいんだ


家が欲しいのかい?


蜘蛛はこくりとうなずいた


家が欲しいのかい?


蜘蛛はもう一度こくりとうなづいた


困ったな。、僕とこの家は離れないんだ


死ぬ気になれば離れるんじゃない?


そうだな。じゃあ、ちょっとやってみるから、そこをどいてもらえる?


蜘蛛はゆっくりと後ずさりをした


カタツムリはゆっくりと殻からでて横目に蜘蛛を見ながら、自分の体を殻から離そうとした


ごめん、どうやら無理なようだ


やっと出てきてくれたね


君が家が欲しいと言ったからね


僕とお友達になってくれるかい


蜘蛛が言った


かまわないよ。ただ、君は蜘蛛で僕はカタツムリだ。気が合うかどうかわからないけどね


2人はゆっくり空を見上げた。友達としての時間が流れた。


やっぱり君の家が欲しいんだ。友達ならくれるよね?


でもね、僕の家は僕から離れないんだ、どうしてもできないんだ


きっと何かいい方法があるよ


方法の問題じゃないと思うけど…


君の体と家がくっついてる部分を僕が食べたら、どうかな?


そんなに僕の家が欲しいなら、もう一度チャレンジしてみるよ


カタツムリは、一生懸命に殻と体を剥がそうともがいた


蜘蛛はそれを見るや否や急いで近づいてきた。


蜘蛛はカタツムリに覆い被さるようにしてカタツムリの殻をしっかり掴んで思い切り引っ張った


徐々にカタツムリと殻の距離が離され、ついにはベロっと嫌な音がしてカタツムリから殻は剥がされた。


やった!


やった!


蜘蛛とカタツムリは2人してたいそう喜んだ。


今日からこの家は君の物だね


カタツムリは少し寂しそうに言った


凄く嬉しいよ


蜘蛛はカシャカシャと口や手足を動かして喜んだ


すると蜘蛛はカタツムリに近づいてきて、カタツムリの剥がれた胴体の方をゆっくり持ちあげると、優しく地面においてやった。


そしてカタツムリの殻に体をギュウギュウ押し込むとカタツムリに大きく手を振った。


カタツムリは、大きく会釈して、ナメクジとなって歩いてゆきました。




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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。蜘蛛とカタツムリ。二人の不思議な関係性が面白かったです。友情物語(?)風な展開に、逆にハラハラさせられてました。
[良い点] 滅茶苦茶面白かったです! まず最初に思ったのが、短い文なのにわかりやすく、情景がパァッと頭に浮かぶのがすごい。 さらに読み進めていくと圧巻でした。 短い作品なのに様々な感情が沸き上がっ…
[一言] 読ませていただきました。 蜘蛛とカタツムリの会話にどことなくほのぼのさを感じられ、オチも良かったです。
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