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一番星のわたし  作者: 雨煮
本編
4/8

4

「シズイさん、おはようございます」

 いつも通りの朝。

 ほんの少しだけ、ちゃんとベッドにシズイさんの姿があることにほっとした。

 声をかけて返事が返ったら、そそくさと部屋を出る。なんとなく恥ずかしいし、寝起きをじっと見るほど図々しくないと弁えているつもり。


 居間にキッチンからお茶を運んでいると、部屋からシズイさんが出てくる。

「アカリ、大丈夫なの?」

 まだちょっと眠たそうな顔でいきなり言われて、きょとんとしてしまう。

「昨日、ごはん食べないで寝ただろ。具合悪い?」

 ぽかんとしてしまったと思う。

「…ううん、大丈夫。…あのね、シズイさん。私、字が読めないみたい」

 するりと言ってしまえた。

「え」

「書き置きの手紙、読めなかった。ごめんなさい」

「いやこっちこそごめん。そうか」

 慌てたようにシズイさんが謝る。

「カムルと出かけてたんだ。アカリのごはんあるから食べといてくれって書いたんだけど、読めなかったのか。ごめん」

「朝ごはんに食べるよ」

「うん。じゃあ用意する」


 現金なもので、心配してくれたというだけで、簡単に心が浮わついた。

「ありがとう」

 へらへらと笑ってお礼を言ったら、黙ってぽんと頭に手を置かれた。

 ちょっと呆れられたのかもしれない。



 朝ごはんを食べながら、料理を教えてもらえることになったこと、練習したいのでお昼ごはんは作りたいことを言うと、シズイさんは微妙な顔つきをした。

 こういうシズイさんの反応がいまだによく分からない。

「まだ腕、治ってないでしょ」

 あ、心配してくれてるのかな。

「もうほとんど良いよ。お医者さんも、動かした方が良いって言ってました」

「でも刃物は危ない」

 屋台に出すメニューで簡単なのだから大丈夫だと思うけど、じゃあ間違えたり手を切ったりしないように、一緒に作るのを見てほしいと言ったら、頷いてくれた。

 シズイさん、心配性だと思う。


 横でシズイさんに見守られつつのごはん作りは、ちょっと緊張したけど、すぐに手を出そうとするシズイさんに抵抗しているうちに肩の力が抜けた。

「だめシズイさん、私がやるんですってば」

 包丁を渡せと手を差し出してくるシズイさんに口を尖らせる。

「手つきが見てて怖い」

「見守ってください」

 出来上がった料理はそれなりだったと思う。

 夜、ごはんを食べに来たカムルさんにも残りを食べてもらった。

「おいしいですか?」

 真剣に尋ねたら

「それなり。具の切り方が下手」

 実に真っ当に評された。悔しい。



 カムルさんも帰って、そろそろ寝る準備をしていたらシズイさんがペンとノートを持って居間にやってきて食卓の席に座った。

「アカリ」

 来い来いと手招きされて、私も椅子に座る。

 シズイさんは椅子を引いて隣に来ると、ノートを広げた。

「字、教える」

 3つの文字を書くと、ア、カ、リと一文字ずつ示す。

 ペンを渡されて、真似して書いてみる。書きにくくて歪んでしまった。

「シズイ、は?」

 聞いたら、違う三文字をアカリの隣に書く。

 真似して書く。

「へたくそ」

 笑われた。

「シズイさんの持ち物にぜんぶ名前書いてやる」

「やめて」

 笑いながら謝られた。


 シズイさんが笑うのを見ながら、狭山くんの顔を思い浮かべた。




 昨日よりずっとずっと幸せな気持ちで眠りにつく。

 一緒の昼ごはん作りと寝る前の文字学習は、毎日の習慣になった。

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