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一番星のわたし  作者: 雨煮
本編
1/8

1

 この世界から今すぐいなくなりたい


 そう思ったのが運の尽きだったのか


 お星さまがクリーンヒットしてわたしは星になった


 ひどいぜったい化けて出てやる




 怨み言に神様が同情したのか、それとも厄介払いだったのか、わからないけれど気づいた時には私は別の世界に降り立っていた。




 ――――――




 好きな人と友だちが付き合うことになった。

 言葉にすればたったそれだけのことだ。

 それだけのことが、私には世界の終わりだった。


 告白なんてできなかった。

 初めての研修で、知り合いがいなくて緊張していた私に話しかけてくれたのが狭山くんだった。

 何せ彼氏いない歴年齢で、研修後も気さくに話しかけてくれる人当たりの良い彼を、男友達が居たことすらないような私が好きになってしまうのは当然の成り行きだったし、いい歳して経験がないから、好意を上手く伝えるどころか、関係を壊すのが恐くて、必死に友達の距離を保とうとしたのも私にとっては当然だった。

 そして、仲良くなったこれまた愛想が良くて優しい同期の美沙と、私を通して顔見知りになった狭山くんが、付き合うことになったのもまた、当然の成り行きなんだろう。

 自分の気持ちを少しでも外に出したら、どんどんこぼれてしまいそうで、どこから彼に伝わってしまうかわからないから、美沙にも狭山くんが好きだということは言わなかった。

 完全な自己完結の片想い。他でもなく私自身がそれを選んだ。

 だから私が、仲良く寄り添う二人を前に、嫉妬するのも悲しくなるのも、自業自得でお門違いで。そんな自分が滑稽で惨めで。

 二人に比べて私はどう見てもしょぼくて、選ばれないのも当たり前だと、必死に強がろうとしても劣等感でいっぱいで。

 自分のことが何もかも嫌になって。

 今すぐ消えていなくなりたい。そう思った。




 次の瞬間に、私は本当にこの世からいなくなった。




 隕石。古くは天隕石、天降石、星石とも呼ばれたそれは、意外と結構な頻度で落ちているらしい。

 大半は大気圏で燃え尽きて地上まで届くことはない。

 燃え尽きず、地上に落下した隕石はその大きさによって被害が異なる。直径1メートルにもなればクレーターができ、甚大な被害が出る。けれど、10~20センチ程度のものなら、家屋に当たれば屋根に穴を開けるくらいで、直接当たらなければどうということはない。

 そう、直接当たらなければ。


 だけど、そのほんの僅かに燃え尽きず落ちてきた小さな隕石は、私の頭部にそれこそ天文学的な確率で直撃した。



 もちろん即死だった。けど、魂には少しだけ猶予時間が与えられたらしい。

 死んだなんて理解するより先に、事実を認識した感情が、叫んだ。


 ひどいひどいひどい


 やだ


 ひどい


 どうして


 なんで


 こんなのってない


 ――ぜったい化けて出てやる




 その想いが、神様とやらに聞き届けられたのかどうか。

 永遠だったのか一瞬だったのか、途切れた意識が戻った時、私は夕暮れの空から落下していた。


 橙色に染まる世界。

 浮遊感。

 一瞬にして加わる重力。

 加速していく落下速度。

 眼下に広がる地面。

 投げ出され自由にならない体と、恐怖。


「やああああしぬううううううあああああ」


 もう死んでるのかもしれなかったけど、本能的な恐怖が私を叫ばせた。


 まだ遠い地上に、驚いた顔でこちらを見上げる男の人の姿があった。布団を抱えていたその人は慌てて布団を地面に広げるように投げると、傍らに置いていた大きな袋をひっくり返して、中に入っていた大量の衣類を布団の上にぶちまける。


 手当たり次第という風に、籠に入ったシーツやタオル、近くに積んであった藁も衣類の山の上にぶちまけたところで、彼が作ってくれたクッションの上に私は飛び込んだ。


 ぼすん、と鈍い音と共に強い衝撃。

 生きてる。

 だけど私は恐怖に飲まれたまま動くことができなかった。ガタガタと震え、心臓がドッドッドッと脈打っている。

 命の恩人が声をかけてきた。

「おい、おい大丈夫か、生きてるか?」

 起き上がれない私がそれでも息をしていることを確かめて、その人は安堵の息をこぼした。

 怪我をしていないかとゆっくり助け起こされて、ようやく意識がはっきりし出す。

 体の痛みを認識する。

 全身じんじんと痛いけど、左腕がひどく痛い。熱い。

「腕、折れてるかもな」

 私の様子を見て、肩を抱えて支え起こしてくれる男の人が気づく。

 男の人の顔を見上げる。

 透き通る琥珀色の瞳と目が合った。

 榛色の髪をしていた。


 

 落ちてきた空を見上げる。

 オレンジと紫と藍色の黄昏。きらりと明るい星が輝いていた。


 ここはどこなんだろう。

 天国は、意外と現実感があるのかな。



 私は、一度死んだんだってこと、なぜか覚えていた。


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