いろいろ間違えましたね。どうしましょうか?
01
この世界は寂しい。とわたしは思う。なぜなら、もふもふとした可愛い生物がいないのだから! 確かにね、魔物はいますよ、ゴツいやつ。かわいげもなく狂暴な顔して実はおとなしくて案外可愛いなんてのもいますよ。
でも、手乗りサイズでふあふあでもこもこな生き物なんて、この世界にはいない! 顔だけ狂暴な魔物なんて到底飼えないし、飼いたくないし。
わたしだって癒され成分ほしい。癒されたい。
何て思ってるところに、ちょうどよく見つけた異世界。
魔物なんていなくて、のんびり平和な世界だそうだ。なんと羨ましいこと。
まぁそんな平和な世界には、もふもふっとした、可愛い動物がたくさんいるらしい。
だったら一匹くらいいなくなっても大丈夫よね? と、わたしはそんな軽い気持ちでもふもふな生き物を召喚した。
***
なにこれ絶対おかしい。
わたしの召喚魔法は完璧だったはず、何一つ狂うことなく、成功したはずで、たしかにもふもふは召喚された。
――なんか余計なものがついているのだけれども!
ふわっとさわり心地のよい白の毛を持ち、細く長い耳をぴょこんとたてて、うるうると赤い瞳を潤わせているちょっと楕円な毛玉ーーまさしくわたしが求めていた癒し成分を!
なにこれ、ほんと可愛い! 頬擦りしたいと思わせる容姿の小動物を抱えた、人間。
そう、紛れもなく人間だった。
それを見た瞬間、わたしは精神的なダメージを受ける。アメフラシと常に行動を共にしている、ライサマの電撃を垂直に降らせられたかと思うほど!
この、魔王さまに仕える、魔王さまの右腕とまで呼ばれたわたしが、たかがもふもふを召喚することだけなのに失敗した......。
「ぇと、あなた......いえ。ここは?」
目の前の人間がキョトンとして訪ねるのも当然のこと。だけれどもここは異世界です。と言って信じる人がいったいどれだけいるだろうか。
いや。この世界の人は異世界があるのを知っていて、それが普通だからなんとも思わないけれども、でもこの異世界人は違うのかもしれない。
「ここは、ですね」
目をそらして言葉を濁すと、人間は元気よく立ち上がった。
「わたしこの世界に召喚されたのね!」
目を輝かせながら人間は聞いてくる。あれ? 戸惑いから見て、困惑してるかと思ったけど違うのかな?
「そしてこの世界を救う勇者なのだわ!」
…………。
立ち上がった拍子にもふもふから手を離した人間はグッと握りこぶしを作った。
ワケわからないことを言い出した人間に説明することを放棄したわたしは、しゃがみこんでもふもふとしたしろいぶったい――もふもふさんと名付けよう――にそっと手を伸ばした。
びくり、と小さく体を震わせる姿に胸がきゅんとする。
「だ、だいじょうぶよ……おいでぇ?」
猫なで声で指をくいくいと曲げる。
すると、すんすんと鼻を動かしてじっとこちらを見てきた。
何この子、かーわーいーぃー!
けれども、ここで「きゃぁー!」と喜びの悲鳴をあげたら、もふもふさんが懐いてくれないのはわかった。だからじっと耐えて、でも少し震える声で、「おいでおいで」を繰り返した。
やがて、もふもふさんは安心したのか一歩、ちょこんと足を進めた。
――我慢。まだ、我慢。
「おいでおいで~……」
一歩、また一歩。少しずつ、だけれども確実に近寄ってきてるもふもふさんに辛抱強く待ち続ける。
そして、手が届く距離にまでもふもふさんが来た時、指の先にちょこっと鼻を擦りつけた瞬間私はもふもふさんを抱き締めていた。
あったかくて小さくて、もふもふでふわふわ!
これぞ私が求めていた癒し!
もふもふ、なでなで。
思う存分堪能していると、「ちょっと!」と鋭い声が聞こえた。
誰? と見上げると、例のおまけがいた。
け、決して忘れてたり、無かった事にしてたなんてことはないんだからっ!
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