第一話幻想に着く
昔、人間界を救った悪魔がいた。魔界の王を名乗る悪魔の軍勢に反旗を翻して魔王を封印し残った悪魔も一匹残らず駆逐した。そしてその悪魔は天使と身を結び双子ができた。しかし、幼少に両親が行方をくらませ孤児院に入った双子はそれぞれの道を行く。一人は悪魔の道にもう一人は天使の道に。一人は音信不通になったが、もう一人は何でも屋を開き生計を立てている。そして時を遡ること十数分。若者は、彼が住んでいる街の一角にある気に入りの喫茶店で大好物のパスタとコーラをいつもと同じ調子で平らげていた。いつもと同じ時間。いつもと同じ席。いつもと同じ味。そこには、何ひとつとして差異は見られなかった。だが、喫茶店を出てから数分。満足して外を出た、その時に異変は起きた。下を向いて歩いていたから、何が起きたのかはわからない。ただ気が付いたら森にいた。
「どこだここ?」
周囲の様子が一瞬にしてここまで変貌しようものならば、取り乱したり焦ったりするのが普通の反応というものだろう。だが昔に凄まじい体験をことがあるので肝が据わったのだ。混乱は時間が解消したのだろう。憔悴や絶望というよりも、逆にリラックスした声色でつぶやいた。面倒くさそうに黒色の髪の毛をばりばりと掻く。
「ま、歩いてりゃどこかにつくか」
楽観的な気分で歩く。騒いでも状況は変わらないのだ。ピアノケースを持ち直しためらいなく足を踏み入れていった。それと同時に何かの視線を感じたがそれも深く考えなかった。しばらくしてそれとは別の視線を感じる。つけられてるんだなと思い声を上げる。
「出てこいよ、いい加減かくれんぼも飽きたぜ。ダルくなったから声をかけたんだがよぉ」
のそのそと茂みから獣じみた化け物共が出てくる。それに別段驚いたわけでもなく。冷静に対処する。
「へえ、ここにも悪魔ね、来な!クソ悪魔!」
ピアノケースから剣を取出し、襲い掛かってくる化け物を次々に斬り捌いていく。
「っは!こんなもんかよ」
すべてを断ち切った若者は再び歩き出す。そのうち森から出てこられ圧巻する。
「こりゃあ、ど田舎に居たもんだ」
森からでて、最初に映ったのが昔の日本の街並みだったからだ。しかし、どこかで見たことがあるような光景でもあった。確かニッポンのキョウトとかいう場所だったような・・・。
「まぁ、悪かない」
人里に向けて歩みを進める。
「おい、あんたここがどこ?」
「は? どういう意味だ?」
男が怪訝そうな顔をする。少し率直に訊きすぎたか。
「いや、特に深い意味はないんだ。純粋に、ここはどこなんだって訊いてる。あんたら、どうせこの辺に住んでる人間なんだろ?」
「そりゃまぁ、そうだけどさ」
男が眇めている右目は、不審さの表れ以外の何物でもない。が、男を一般的な庶民だと仮定すれば、それは極めて当然なリアクションといえるだろう。見ず知らずの男にそんなことを聞かれればだ。
「あんたが誰なのかはわからないが……、ここは幻想郷さ。都会から遠く離れた山奥とでもいえばわかりやすいかね」
「ゲンソウキョウ?」首をかしげた。「それがこの場所の名前なのか?」
それに首を振る。変な名前と思ったがこの際どうでもいい。
「ああ、サンクス」
礼を言って里をぶらぶらする。なんだか物珍しい目で見られている気がする、外人が珍しいのか?などの思考をする。すると一人の女性が訪ねてくる。
「ちょっと、いいか?」
「あ?あんた誰?」
彼の目に映ったのはナイスバディな体であった。一瞬驚くがすぐさま元の表情に戻す。
「ああすまない。貴方が外来人に見えたものだったから」
「ガイライジン?・・・foreignerのことね、たぶんそうなんだろう、見慣れないとこだしな。いきなりここにいたんだ。どうなってんだ?」
少々の疑問をぶつける。聞かれたと言うことは何かを知っているということだろう。物珍しさということもあるかも知れないが。
「ここ最近外来人が多くてな、君もその一種だ。結界が不安定だそうだから、幻想郷に外から迷い込んだ人が」「ちょっと待て!」
それに口を挟さむ。いきなり意味不明な単語が出てきて話についていけないのだ。
「結界?なんだそりゃ、ここはいったいどこなんだ?」
「そうだな、ここは外の世界と隔絶された世界とでも言うべきかな。つまり違う世界というんだろう」
「はぁ!?」
思わず声を上げる。たった今自分の中で何かが崩れた。いや、前にこの経験をしたが前は準備もしたうえで入っていたのだ。今の体験と訳が違う。まさか同じような世界がまだあったとは。
「驚くのも無理はない。皆そうだった。あ、そうだ名前がまだだったな、私は上白沢 慧音、貴方は?」
「俺はレオン。一つ聞きたいことがある。ちょっと母を探してるんだが。何か知らないか?」
「天子?ああ、それなら今は確か神社にいるはずだ。そんなこといっていた」
「WHAT?マジかよ!不幸中の幸いってやつか」
母が生きていると聞き浮かれる。しかし、それはただの人違いであった。そんなこともつゆ知らずその神社の場所を聞いたあと礼を言い走って神社へと足を運ぶ。