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第八幕 シャーロット・ホームズ VS MIDORI

 翌日の朝。


 MIDORI達の宿泊しているホテルの前。


 車寄せに滑り込んで来る警視庁のパトカー。そこからやや離れた所で停止する護送車。


 パトカーから降り立つシャーロット。以下、シャと表記。


 護送車からゾロゾロ降りて来る機動隊員。総勢二十名。


 シャ、機動隊員に目で合図し、うち十名と共にホテルのロビーに入る。


 物々しい雰囲気にギョッとする宿泊客達。


 支配人らしき人物が慌てて駆けて来る。


 支配人「ご連絡下さいましたシャーロット・ホームズ様ですね?」


 ハンカチで額の汗を拭いながら言う支配人。 


 シャ、キッと支配人を見る。


 シャ「MIDORIという芸能人が、このホテルに宿泊しているそうね。お部屋に案内して下さらない?」


 支配人、シャの美しさに見とれていたが、ハッと我に返る。


 支配人「あ、はい、只今」


 支配人、目配せしてベルボーイを呼びつける。


 ベルボーイ、大急ぎでシャのところに走り寄る。


 ベルボーイ「こちらでございます」


 ベルボーイ、シャを先導し、エレベーターホールへ。


 シャ「何階の何号室かしら?」


 シャ、階数表示を見上げ、尋ねる。


 ベルボーイ「最上階の三十階の三〇八八号室でございます」


 思わず顔を見合わせる機動隊員達。


 シャ、機動隊員を見渡す。


 シャ「二手に分かれるわ。半分は階段で。後に半分はエレベーターで」


 ギクッとする隊員達。


 シャ「行くわよ」


 シャ、率先して階段へと歩き出す。


 機動隊員、慌てて二手に分かれ、シャに続く者とエレベーターに乗り込む者。


 シャ、階段を二段抜きで駆け上がる。


 その素早さに唖然とする機動隊員達。


 シャ(エレベーターを止められる危険性を考えれば、階段の方が間違いない)


 シャ、フッと笑い、更にスピードアップ。


 すでに機動隊員達は遥か下の階になっている。


 シャが三十階に到達すると、エレベーター組が敬礼して迎える。


 シャ、三〇八八号室のある方へと廊下を歩き出す。


 息一つ乱していないシャに驚く機動隊員達。


 シャ、機動隊員達を見渡す。


 シャ「MIDORI達が事件に巻き込まれている可能性があるわ。十分注意するように」


 シャに黙って頷く機動隊員達。シャ、向きを変え、MIDORIの部屋のドアを見る。


 シャがノックしようとした時、ドアがガチャッと開き、MIDORIが顔を出す。以下、MIと表記。


 MI「何かご用ですか?」


 MI、シャを見上げ、尋ねる。どことなく落ち着かない様子。


 MI(この人が、ミスティさんが言っていたシャーロット・ホームズね?)


 シャ、微笑む。


 シャ「MIDORIさんね? 貴女、英語大丈夫よね?」


 MI「はい」


 MIの独白。


 MI「私は年に五、六回、ロンドンのスタジオでレコーディングしたり、ライブを開催したりしているので、そのシャーロットさんのロンドンッ子丸出しの英語に妙なノスタルジーを感じました」


 シャ「中に入っていいかしら?」


 MI、後ろに下がり、シャを招き入れる。機動隊員が続けて入ろうとすると、シャはそれを手で制する。


 シャ、ドアを後ろ手に閉じ、部屋を見渡す。


 リヴィングルームには、MIDORIとリョクしかいない。


 シャ「二人だけ?」


 シャ、MIを見て尋ねる。


 MI「ええ。それより、貴女どなた? 記者さんじゃないのはわかるけど?」


 シャ、フッと笑って、スーツの内ポケットから身分証を取り出して提示。


 シャ「ロンドン警視庁のシャーロット・ホームズよ。昨夜、武道館に行った時の事で、ちょっと訊きたい事があるの」


 MI、リョクと顔を見合わせる。


 シャ、ソファに近づく。


 シャ「かけていい?」


 MI「どうぞ」


 シャ、ソファにゆっくり腰を下ろす。その向かいに座るMI。リョクはMIの後ろに立つ。


 シャ「実は昨夜、国立近代美術館にドロントと言う窃盗犯が美術品を盗むために侵入したの」


 MI「まあ」


 MI、若干のわざとらしさを感じさせるリアクション。シャ、キッとする。


 


 ドアの外で手持ち無沙汰そうにしている機動隊員達。


 


 シャ、事件の概要を話し終え、リョクが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。


 シャ「武道館のそばにパトカーが停まっていたのは知っているわね?」


 MI「ええ、もちろん」


 シャ「パトカーが貴女達の乗っていたタクシーとすれ違ったのも知っているわよね?」


 MI「はい」


 シャ、ソファから身を乗り出し、MIに顔を近づける。


 シャ「では、林の中に女が一人倒れていたのは?」


 MI「いいえ、知りません」


 シャ、ズンと立ち上がる。ギョッとするMIとリョク。


 シャ「嘘はいけないわ、MIDORI。貴女は倒れていた女を見つけた。そしてここに連れて来た。そうでしょ?」


 MI「何の事ですか、倒れていた女って? ここへ連れて来たって、誰を?」


 MI、震えそうな身体を必死に抑え、顔を引きつらせながら応じる。


 シャ、そんなMIの動揺を嘲笑うかのような顔をする。


 シャ「キャピちゃんとか言う可愛い女の子が、ロビーで話しているのを聞いたわ。昨日の夜、見知らぬ女の人を二人乗せて、ホテルに戻ったって」


 硬直するMI。リョクも目を見開いてシャを見ている。


 シャ、ズイッとMIに顔を近づける。


 シャ「ドロントとその部下はどこにいるの?」


 シャの目はMIを射殺すかのよう。MIとリョクは顔を見合わせる。


 リョク、部屋の隅にあるバッグに駆け寄り、DVDケースを取り出す。


 そして、シャに近づき、それを差し出す。


 シャ「何、これ?」


 シャ、ケースを受け取り、MIとリョクを交互に見る。


 MI「ドロントさんが置いて行きました。予告状だそうです」


 シャ「何ですって!?」


 シャの大声にビビリ、MIとリョク、思わず抱き合う。


 シャ「内容は?」


 シャ、ケースを見たままで尋ねる。


 MI「知りませんよ。ここにはプレーヤーないし」


 シャ「……」


 シャ、疑いの眼差しでMIを睨む。


 シャ「本当?」


 Mi「ホントですよ!」


 MI、ムッとしてシャを睨み返す。シャ、肩を竦める。


 シャ「まァ、いいわ。嘘でも真実でもね。何にしても、ドロントはもう一度美術館に現れる。そういう事でしょ?」


 MI「さァ」


 MI、目を背けて答える。シャ、フッと笑う。


 シャ「朝からごめんなさいね」


 シャ、部屋を出て行く。


 MIとリョク、隣り合ってグテーッとソファに倒れ込む。


 MI「あーっ、もう、緊張で死んじゃうかと思ったわ」


 リョク「私も。こんなに神経使ったの、姉さんのコンサートでもなかったわ」


 奥の浴室から、ミスティが現れる。黒革のつなぎに戻り、仮面も着けている。


 ミスティ「部屋を調べなかったわね」


 MI、ソファから起き上がってミスティを見る。


 MI「ええ。現場で捕まえたいんじゃないですか?」


 ミスティ、向かいのソファに座る。


 ミスティ「それより、昨日来た医者は大丈夫? 口は軽くない?」


 MI、微笑んでミスティを見る。


 MI「大丈夫ですよ。芸能人専門で、何人も有名芸能人の恥ずかしい病気を治療して、信用ありますから。こんな事でチクったりしませんて」


 ミスティ、その言葉に大きく頷く。


 ミスティ「どちらにしても、脳波に異常がない事がわかって良かったわ。首領の意識が戻り次第、ここを出ます。迷惑かけたわね」


 ミスティ、頭を下げる。MI、苦笑いする。


 MI「いいえ。結構楽しみましたから」


 リョク「私も」


 MI、リョクの意外な発言にあれっという顔をする。


 MI「リョクちゃんがそんな事言うなんて思わなかったわ」


 すると、リョク、バツが悪そうな顔をして、ミスティと微笑み合う。


 MI「え? なになに、どういう事?」


 MI、混乱している。リョク、パチンと手を合わせる。


 リョク「姉さん、ごめん。ミスティさんに頼まれて、姉さんに内緒で、キャピちゃんにお芝居してもらったの」


 MI「ええ? どういう意味?」


 MI、それでも訳が分からない。そして、あっと気づく。


 MI「じゃあ、キャピちゃんの話をシャーロットさんが聞いたって言うのは……」


 リョク「そう。偶然じゃなくて、引っかけだったの。ミスティさんが、私達に嘘を吐き通すのは無理だろうって……」


 MI、目眩がしているのか、頭をクラクラさせる。


 MI「だって、そのためにあのDVDを用意して……」


 ミスティ「DVDをシャーロットに出す自然な演出のために仕組んだの。ごめんなさいね」


 ミスティ、もう一度頭を下げる。


 MI、フーッと長い溜息を吐く。


 MI「キャピちゃんの話を聞いた時は、心臓が大気圏外まで飛んで行くかと思うくらいびっくりしましたよ」


 ミスティとリョク、堪え切れずに大笑い。剥れるMI。

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