表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/22

第七幕 思わぬ出会い

 MIDORI、銃声がした方に歩き出す。以下、MIと表記。不安そうな顔で彼女を追いかけるリョク。


 MI、林の中に誰かがいるのに気づく。足早になる。MIの独白。


 MI「私は林の中に誰かがいるような気がしました。木の様子がいつもと違うのです」


 MI、武道館脇の林に近づく。独白の続き。


 MI「通い慣れた武道館の周囲の景色は、ほんの少し違ってもわかります」


 MI、木を一本ずつ吟味するように見る。


 MI「枝が折れた木があるわ。それに、誰かが倒れている気がする」


 MI、気絶しているドロントに接近。リョクが慌てて声をかける。


 リョク「姉さん! 変質者だったら大変よ!」


 MI、ニコッとしてリョクを見る。


 MI「大丈夫よ」


 MI、更にドロントに接近。そして、木々の間で気を失っている彼女を発見。


 MI「やっぱり誰か倒れてるわ」


 リョク、ビクッとする。


 リョク「ええっ!?」


 MI、ドロントが仮面を着け、黒尽くめの革のつなぎを着ている事に気づく。


 MI(この人、何者? こんな夜更けにこんな服装で……?)


 MI、リョクを見る。


 MI「リョクちゃん、すぐにホテルに電話して、松ちゃんかキャピちゃんに車で迎えに来るように言って。タクシーはまずいわ」


 MIの言葉にリョクはキョトンとする。


 リョク「どういう事?」


 MI、イラッとした顔になる。


 MI「とにかく、早く連絡して! 理由は後で!」


 


 シャーロット達は、林を抜けて、田安門を通り、靖国通りに出ていた。以下、シャと表記。


 シャ、周囲を見渡す。


 シャ「逃げ足が速いわね」


 シャ、MIを止めた警官を見つけ、近づく。


 警官、シャの迫力に緊張して敬礼する。


 シャ「こちらに誰か来ましたか?」


 警官「いえ、誰も来ていません」


 シャ、舌打ちをして武道館方向を見上げる。


 シャ「どこかで撒かれたのかな?」


 シャ、機動隊に目配せする。


 そして、機動隊を引き連れ、武道館周辺へと走り出す。




 MI、片膝を着いてドロントの頭部を懐中電灯で照らし、観察。頭部を触る。


 MI「気を失っているわ。後頭部にコブがある。外出血はないようね。脳しんとうを起こしているようだけど、命に関わるような状態ではないわ」


 MI、ドロントの脈を診て、汗を掻いていない事も確認。


 リョク、バッグの中に携帯電話を入れ、MIに近づく。


 リョク「この人、何者? 仮面を着けている……。それにその格好……」


 MI、リョクを見上げる。


 MI「会社帰りのOLには見えないわよね。それに、さっきのあのパトカー」


 MI、田安門の方に目を向ける。その先に見える停車しているパトカー。


 リョク「あんなところに停まってる!」


 リョク、パトカーを指差す。MI、ドロントに目を向ける。


 MI「恐らく、この人を探しているのね。もうすぐここに戻って来るかも知れない」


 リョク、その言葉にホッとした顔になる。


 リョク「じゃあ、この人を引き渡して、私達は帰りましょう」


 声「そうはいかないわ」


 影が一つ、木の上から飛び降りて来る。


 影はリョクの背後に素早く回り込み、首筋にナイフを押し当てる。


 リョク、顔面蒼白になり、震え出す。


 MI「貴女、この人のお仲間?」


 MI、微笑んで尋ねる。影の正体はミスティ。ミスティ、MIを睨む。


 ミスティ「首領は? ご無事?」


 MI、ミスティを見たまま、ゆっくりと立ち上がる。


 MI「ええ。気絶しているだけです。でも、打ち所が悪いかも知れないので、お医者様に診てもらった方がいいと思います」


 ミスティ、MIを見てからドロントを見る。


 ミスティ「貴女達の所にしばらく身を隠させてもらうわ。首領がお元気になるまで」


 リョク、その言葉にビクッとする。


 リョク「冗談じゃないわ、そんな事……」


 そこまで言いかけたリョクをミスティが鋭い目で睨む。


 リョク、ヒッとなり、黙り込む。MI、肩を竦めてミスティを見る。


 MI「いいですよ。幸い私、口の堅い事では世界でも有数のお医者様を知っていますから、その人に診てもらいましょう」


 MI、震えが止まらないリョクを見る。


 MI「抵抗しませんから、その子を放してくれませんか?」


 ミスティ、リョクからゆっくりとナイフを放し、彼女を解放する。


 リョク、その場にヘナヘナとしゃがみ込んでしまう。


 ミスティ、リョクから離れ、ドロントに近づく。


 ミスティ「長居は無用ね。場所を変えるわ」


 ミスティ、ドロントを肩に担ぐと、美術館方面へと走り出す。


 MI、驚いてミスティを追いかける。リョクも何とか立ち上がり、MIを追いかける。


 


 シャ、機動隊員達と共にMI達がいた林の前まで来る。そして、パトカーが無人なのに気づく。


 シャ「どこに行ったの?」


 シャ、パトカーの警官を探して辺りを見て回る。何かあったのを感じているようで、あちこち探るように観察する。


 そして、ドロントが折った枝に気づく。


 シャ「これは……」


 シャ、枝の断面を眺め、上を見上げる。そして、地面に顔を近づけ、ポケットからライターを取り出して辺りを照らす。


 シャ「ここだけ少し窪んでいるわね」


 ライターの火を吹き消し、立ち上がるシャ。


 シャ「この窪み方、着地したんじゃない……。落ちた……。とすると、ドロントは怪我をしている」


 シャ、ニヤリとしてパトカーに駆け寄り、無線を取る。


 シャ「ドロントは逃走中、負傷した模様。第一機動隊は全隊で北の丸公園を捜索し、ドロント発見に全力を尽くして」


 シャ、周囲を見渡す。


 シャ「ドロント、今度こそ逃がさないわよ」


 


 片側三車線の道路を疾走するキャピが運転する白のベンツ。


 その勢いと存在感に、周りの車がビビッて離れる。


 助手席には憂鬱そうなリョク。


 後部座席には、気を失っているドロントを気遣うミスティとその二人を観察しているMI。


 ミスティ、ドロントの様子を看ながらも、仮面に仕込まれた通信機を操作し、警察無線を傍受。


 ミスティ「北の丸公園を徹底捜索する気ね。でももう遅いわね」


 MI、ミスティを見る。


 MI「そうですね」


 キャピ、チラチラルームミラー越しにミスティとドロントを見ている。


 リョクは頭に右手を当て、項垂れている。


 リョク「どうなっちゃうのよ、私達……」


 小声で呟くリョク。


 


 赤坂の某ホテル全景。


 その一角にある芸能人専用の出入り口の車寄せに滑り込む白のベンツ。


 上下黒のジャージに着替えたミスティが、仮面がわからないように毛糸の帽子を目深に被り、MIDORI BANDのウィンドブレーカーを羽織らせたドロントを背負ってドアへと歩く。


 ドロントの頭にも毛糸の帽子が被せてある。


 ミスティを先導するMI。それに続くリョクとキャピ。


 入口に立つガードマン達は、見て見ぬフリ。


 そのまま、芸能人専用のエレベーターに乗り込み、自分達の部屋を目指す。


 


 田安門前。


 仁王立ちのシャ。


 シャ「タクシーが一台武道館方面に入ってしまった?」


 シャの前で縮み上がっている警官。


 警官「申し訳ありません! 閃光に気を取られている隙に……」


 シャ、自分達もそのタクシーとすれ違っている事を思い出す。


 シャ「誰が乗っていたのかしら?」


 シャの呟きに警官がハッとする。


 警官「MIDORIです。人気歌手の」


 シャ、警官を見る。


 シャ「MIDORI?」


 警官「はい」


 シャ、一瞬考え込み、パトカーの無線を取る。


 シャ「歌手のMIDORIの所属事務所を調べて、今どこにいるのか聞き出しなさい」


 シャ、フッと笑う。


 シャ(多分、その歌手を利用して、隠れているのね。逃がさないわよ)


 シャ、パトカーに乗り込む。


 


 ホテル内部。


 最上階のMIDORIの部屋。その中の一室のベッドに寝かされるドロント。


 MI、ドロントの仮面に手をかける。


 ミスティ「命が惜しいなら、手を放しなさい」


 MIにナイフを突きつけるミスティ。


 しかし怯まないMI。


 MI「お医者様に診てもらうのに、この格好はいくら何でも不自然ですよ。大丈夫」


 MI、微笑んでドロントの仮面を外す。


 息を呑むMI、リョク。ドロントは神々しいと言う言葉が似合う程の美女。高貴さも漂っている。


 MI、我に返り、リョクを見る。


 MI「リョクちゃん、私の着替えを出して。この人に着せるわ」


 リョク「ええ」


 リョク、オロオロしながらも、クローゼットに近づき、MIの服の中からジャージを取り出す。


 MI、ドロントを見る。


 MI「綺麗な方ですね」


 ミスティ、ようやく殺気を消し、落ち着いた表情になる。


 ミスティ「ええ。首領は、いえ、お嬢様は、私達一族の中でも、一番美しい方です」


 その言葉に引っかかったMIが、ミスティを見る。


 MI「一族、ですか?」


 ミスティ、MIの問いかけに頷き、自分の仮面を外す。ミスティも、気品溢れる美女。やはり高貴な雰囲気がある。


 ミスティ「私達は、戦国時代から続く忍びの一族なのです」


 MI、リョクと顔を見合わせる。


 MI「忍び!?」


 MI、ドロントとミスティの身のこなしを回想し、大きく頷く。


 MI「その忍びの一族さんが、どうして警察に追われているのですか?」


 ミスティ「それは、いろいろとね」


 それ以上は聞くな、というミスティの目に、ビビるMI。苦笑いする。


 ミスティ、リョクからジャージを受け取り、ドロントのつなぎを脱がせる。


 ミスティ「こんな事を話すのは、貴女達に私達の事を理解してもらって、決して警察には話さないで欲しいからなのです」


 MI「はい」


 MI、リョクに目配せして返事をする。リョクも畏まった顔でミスティを見ている。


 ミスティ、ドロントの着替えを終える。


 視線をMIに向ける。


 ミスティ「あの場所にいたのは、国立近代美術館に展示されている法隆寺夢殿の絵を盗むためでした」


 MI、黙ったままリョクと顔を見合わせる。


 ミスティ「その絵が、ある人物の手に渡るのを阻止するのが、私達の仕事なのです」


 MI、ミスティを見る。


 MI「その依頼人て、誰なんですか?」


 ミスティ「それは言えません」


 それはそうだろうな、という顔で頷くMI。余計な事を聞かないで、という顔でMIを睨むリョク。


 MI「じゃあせめて、貴女のお名前を教えて下さい。名無しの権兵衛さんじゃ、お医者様に診てもらえませんから」


 ミスティ、キッとしてMIを見る。ビクッとするMIとリョク。


 ミスティ「私の名はミスティ。そして、首領の名はドロント。それ以上は言えません」


 驚愕するMIとリョク。MIの独白。


 MI「その時私は頭の中を嵐が通り過ぎたかと思うくらいの衝撃を受けました」


 MI、ドロントとミスティを交互に見る。


 MI「じゃあ、イギリスやロシアやフランスにも出没した怪盗って……」


 ミスティ「そう。私達です」


 リョクと顔を見合わせるMI。


 ミスティ「首領の意識が回復して、脳に異常がない事を確認したら、すぐにここを去ります」


 MI「でも、大事を取って、一日くらい休んだ方が……」


 ミスティ、MIを見てフッと笑う。


 ミスティ「シャーロット・ホームズと言う、ロンドン警視庁の刑事が、私達をしつこく追いかけているのですが、その人は切れ者です。今夜の貴女方の行動はすぐにわかってしまうはずです。武道館に向かう途中で、警官に見られているのでしょう?」


 ギクッとするMI。蒼ざめるリョク。


 MI「そうかあ。じゃあ、ここもすぐにわかっちゃいますね」


 ミスティ「ええ。だからいつまでもいる訳にはいかないのです」


 MI、またしてもリョクと顔を見合わせる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ