第二十幕 大沢一郎の正体
ホテル内部。
パーティ会場。
演壇に上がり、笑顔で挨拶する大沢。
大沢「えー、本日はお忙しい中、ご出席を頂きまして、誠にありがとうございます。我が党はこれからも前進あるのみ、責任ある政治を進めて行きたいと思っております」
拍手が鳴り止むのを待つ大沢。
大沢、再び話し出すが、その声はスピーカから出て来ず、別の音声が流れる。
大沢の声「死人を六人も出し、ヘリコプターまで現場に置き去りにしおって! この俺がすぐに手を回したから、事なきを得たが、いつまでも抑えられる事じゃないぞ」
会場がざわつく。顔を見合わせ、囁き合う来賓達。
大沢の額に溢れ出る汗。
大沢の声「警察庁の幹部は、俺の昔の仲間が多くを占めているから、これ以上の事件にはならん。官僚は、身内から犯罪者が出るのを嫌う。特に警察はな」
大沢、額の汗をハンカチで拭え、秘書を睨む。
大沢「放送をやめさせろ! これ以上流させるな!」
秘書、真っ青になり、駆け出す。
畑、演壇に駆け上がり、大沢に近づく。
畑「幹事、これは一体……?」
大沢、苦笑いをする。
大沢「誰かが私を貶めようとして仕組んだものだろう」
畑「なるほど。とにかく、ここは降りた方がいい。幹事は車へ。後は私がうまくやりますので」
大沢「わかった。頼む」
大沢、演壇を降り、SPに囲まれて逃げるように会場を出る。
廊下に出たところで、秘書が走って来る。
秘書「先生!」
大沢、秘書を見る。秘書、息を切らせている。
秘書「放送室には誰もいませんでした。それらしいものもありませんでしたし」
大沢「もう逃げたのか」
大沢、歩き出す。追いかける秘書。
秘書「すぐに探させますか?」
大沢、前を向いたまま。
大沢「当然だ。マスコミの手に渡ったら大変な事になる」
大沢、苦々しそうに言う。
大沢(しかし、あの場には俺と奴の二人しかいなかったはず……。一体どうやって……?)
大沢の額に噴き出す汗。
ホテルの長い廊下。
そこを仁王のような形相で大股で歩くシャーロット。以下シャと表記。
彼女を止めようと立ちはだかるSP達。
その都度、オートマグをちらつかせ、それを撃退するシャ。
MIDORIとリョクは、小走りでシャを追いかける。以下、MIと表記。
シャ、遂にパーティ会場に到着。
中を見回し、大沢がいない事に気づく。
シャ「大沢がいないわね」
シャ、近くにいる若い議員に声をかける。
シャ「大沢はどこへ行ったの?」
その議員、シャを舐めるように上から下まで見る。
議員「先生はもうお帰りになりましたよ。何かご気分が優れないとかでね」
シャ、議員のエロい視線に気づく。
シャ「あ、そう」
立ち去ろうとするシャの右肩を掴む議員。
議員「君、綺麗だね? どこのコンパニオン? これから、私の部屋でディナーなど如何かな?」
議員、グイとシャの肩を抱く。
唖然とするMIとリョク。
次の瞬間、シャの右ストレートが議員の鼻骨をへし折る。
議員「ブハッ!」
議員、そのまま後ろに倒れる。ざわつく周囲の人々。
シャ、それに全く動じる事もなく、MIとリョクを見る。
シャ「MIDORI、大沢は逃げたわ。追うわよ」
MI「は、はい」
また大股で歩き出すシャを小走りで追いかけるMIとリョク。
ホテルの敷地内を走るリムジン。
後部座席で憤然としている大沢。
大沢(どういう事だ? 何故あんなものが流れたのだ?)
秘書、駆け寄って来る畑に気づく。
秘書「畑先生!」
リムジン停止し、畑を乗せる。秘書は助手席に移動。
畑「幹事、何とか混乱は避けられましたよ」
大沢「そうか。良かった」
ホッとした表情で畑を見る大沢。
大沢「おい、出せ」
運転手に命じる大沢。運転手、会釈して応じ、リムジンをスタートさせる。
ホテルの敷地を出るリムジン。