第十九幕 シャーロット・ホームズ、切れる
美咲、ホテルの脇にある木の陰に立つ。
美咲「首領……」
その時、仮面に仕込まれた通信機が通話状態になる。
ハッとする美咲。
声「やっと来たわね、美咲」
その声に驚く美咲。
美咲「首領! 今どこですか?」
ドロントの声「パーティ会場の中よ。それより、もしこれから中に入るのなら、SPの中に紛れ込んでいる裏柳生に気をつけて。全員、心臓発作を起こす毒針を隠し持っているから」
美咲「わかりました。パーティ券は何とか手に入れたから、うまくやります」
ドロントの声「期待してるわ」
美咲、苦笑い。
美咲(首領は、すぐに記憶を取り戻されていたのね。大沢の周囲を探るために、単独で行動を……)
美咲、嬉しそうに微笑む。
美咲「さてと。大沢先生、一泡も二泡も吹いてもらうわよ」
美咲、ホテルへと走る。
ホテルの中。
パーティ会場。
考え事をしている大沢。それに気づく畑。
畑「幹事、どうされましたか?」
大沢、眉間の皺を消し、笑顔で畑を見る。
大沢「いや、ちょっと疲れが出てね。もう大丈夫だ」
畑、大沢の反応を訝しそうな顔で見る。
畑「そう、ですか?」
畑、大沢に会釈してその場から離れ、来賓と話し出す。
大沢に近づく秘書。大沢、演壇の方を見たまま。
大沢「どうだ?」
秘書、大沢が突き出したグラスに白ワインを注ぐ。
秘書「今のところ、不審な人物は潜入おりません。パーティ券も偽造はなく、通し番号も揃っております」
大沢、グッとワインを飲み干す。
大沢「そうか」
秘書「となると、一体どうやってという事に……」
大沢の眉間に再び深い皺ができる。
大沢「うむ……」
大沢(こそ泥め。この俺に脅しをかけているのか?)
夜の大通りを疾走する白のベンツ。
運転するキャピは緊張気味。助手席のMIDORI、後部座席のシャーロットを見る。以下、MI、シャと表記。シャの隣のリョクもシャを見る。
MI「あのォ、ホテルには誰がいるんですか?」
シャ、前方を睨んでいる。
シャ「大物政治家よ。もっとはっきり言っちゃうと、精進党の代表幹事、大沢一郎よ」
MI「大沢って、あの大沢?」
シャ「そう。アメリカを始め、諸外国のメディアや政治家には、はっきりものを言う日本人として、とても評判がいい、あの大沢よ」
MI、溜息を吐く。
シャ「その大沢が、ドロントを殺させようとしたの。そして、その理由も、奴が使っていた殺し屋から全て聞き出したわ。途轍もないものを盗んだのね、ドロントは」
MI、ギクッとする。MIの独白。
MI「わあお! 知ったら命がないと美咲さんが言った、あの法隆寺の絵の秘密を、シャーロットさんは知っているんだわ! どひゃーん!」
キャピ、大通りの向こうに見えて来た建物に目を向ける。
キャピ「ホテルが見えて来ました。どうしますか?」
シャ「そのまま、車寄せにつけて」
キャピ「はい」」
キャピ、緊張したままでベンツをホテルの正面玄関へと向かわせる。
ベンツ、スーッと車寄せに滑り込み、停止。
シャ、MI、リョクが降りる。
MI「キャピちゃん、貴女は私の家に戻ってなさい。いいわね」
不安そうな顔のキャピ。
キャピ「はい、MIDORIさん」
ベンツ、車寄せから走り去る。
シャ、ホテルの正面玄関を睨みつける。
シャ「行くわよ、MIDORI」
MI「はい」
シャを先頭に、三人はロビーに乗り込む。
三人の様子に気づいた強面で大柄の警備員が五人、立ちはだかる。
シャ「どきな」
シャ、五人を睨みつける。警備員達、その迫力にビクッとする。
警備員A「な、何だ、お前達は?」
シャ、それに応じてニヤリとする。
シャ「正義の味方よ」
苦笑いするMIとリョク。
シャ、いきなりオートマグを抜き、五人の警備員全員の髪の毛の真ん中を削ぎ取る。
警備員達「ひいい!」
脱兎の如く逃げ出す警備員達。
シャ、弾丸を装填する。
シャ「さ、行くわよ」
ロビーには、それを唖然として見ている宿泊客で溢れている。
慌ててシャを追いかけるMIとリョク。