第十八幕 黒幕の焦り
ホテルのパーティ会場。
立錐の余地もない程に集まっている人。
会場の奥に設置された演壇に立つ男。その隣に立つ大沢。
大沢の隣の男は、腹話術の人形のような顔で微笑んでいる。
「精進党結党一周年パーティ」と横断幕が掲げられている。
司会進行役の男がマイクを片手にその脇に立っている。
司会「では、ここで、精進党党首であります、畑先生のご挨拶を頂きます」
会場、割れんばかりの拍手。
畑、声援に応じて手を振り、壇中央にあるスタンドマイクに歩み寄る。
畑「我が党こそが、古い体制を打破し、新しい政治を生み出す原動力となるのであります。今回の政界再編は、大化の改新、明治維新と並ぶ、日本史上に残る画期的な、まさしくコペルニクス的転回の如きものであります」
会場、再び割れんばかりの拍手と喚声。
嬉しそうに微笑む畑。
畑、右手にワイングラスを掲げる。
畑「では、我が党のますますの発展を祈念して、乾杯!」
一同「乾杯!」
会場の一同、高々とグラスを掲げ、グッとワインを飲み干す。
大沢だけが、掲げたワイングラスを睨みつけている。
畑、大沢の様子に気づく。
畑「どうされました、幹事?」
大沢、ハッとして畑を見る。
大沢「何でもないよ」
大沢、作り笑顔で応じる。
怪訝そうな顔の畑。
大沢、そのまま演壇から降りる。
畑、しばらく大沢を見ていたが、近づいて来た関係者と歓談。
大沢、グラスの中に沈んでいる名刺大のカードを見ている。
それは「Dront」とサインされ、キスマークがついたもの。
大沢(いつこんなものが……?)
大沢、周囲を見渡す。
そこにいるのは、党の関係者のみで、怪しい者はいない。
大沢「おい!」
大沢、秘書を呼びつける。秘書、大慌てで駆け寄る。
秘書「どうなさいましたか、先生?」
大沢、無言のままグラスを秘書に突き出す。
秘書、それを見てギョッとする。
秘書「こ、これは……?」
秘書、グラスを受け取る。そして、「Dront」のサインに気づく。
秘書「この 『Dront』というのは、あのこそ泥の名前です」
大沢「何!?」
大沢、キッとして秘書を睨む。
大沢「そのグラス、ワインが注がれた時には、何も入っていなかった。俺がグラスを掲げた時、入れられたんだ。賊はまだこの中にいるはずだ」
大沢、周囲に鋭い視線を投げ掛ける。
秘書「はあ。しかし、一体どうやって? それにこの会場に入るには、我が党発行のパーティ券がありませんと……」
秘書、ハンカチで額の汗を拭いながら言う。
大沢、腕組みをして顔の凶悪さを増させる。
大沢「うむ……」
大沢、秘書を見る。
大沢「連中は来ているのか?」
秘書「はい。 SPの中に何人か……。探させますか?」
大沢「当然だ」
大沢、突然にこやかな顔になり、関係者が歓談する集まりに近づく。
武道館全景。
中から出て来る MIDORIとキャピ。ガックリしている。以下、MIと表記。
キャピが足早にベンツに駆け寄り、後部座席のドアを開く。
それに乗り込もうと身を屈めるMI。
リョクが姿を見せる。
リョク「姉さん!」
MI、キャピと共に振り返る。
リョク、シャーロットと立っている。以下、シャと表記。
シャ「MIDORI、手を貸して欲しいの。ドロントを殺そうとしている黒幕の正体がわかったわ」
MI、キョトンとする。
MI「黒幕?」
シャ、MIに近づく。
シャ「ええ。とにかく、急がないと。貴女達が宿泊していたホテルに急いで」
MI「ホテルへ?」
ますます怪訝そうな顔をするMI。