第十六幕 美咲 VS 裏柳生
夜。
MIDORI邸全景。
リヴィングルームで正座してつなぎを用意している美咲。
そこに駆け込んで来るリョク。息が上がっている。
リョク「美咲さん!」
美咲、手を休めてリョクを見上げる。
美咲「どうしましたか?」
リョク、呼吸を整えながら美咲を見る。
リョク「ドロントさんがいないんです。ベッドにも、トイレにも、バスルームにも……。家中探したんですけど……」
泣きそうな顔になるリョク。
美咲、仰天して立ち上がり、リョクに近づく。
美咲「何ですって!?」
リョク、泣き出しそうなのを堪える。
リョク「とにかく、私、庭を探してみます」
美咲「ええ、お願いするわ。でも気をつけて。まだ、裏柳生がうろついていると思うから」
リョク「はい」
リョク、懐中電灯を持ち、リヴィングルームの掃き出し窓を開け、外へ出る。
美咲、困惑した表情で右手を額に当てる。
美咲「首領……」
リョク、庭を探し回り、玄関の方へと進む。
門は閉ざされたまま。
リョク「外には出て行っていないようね……」
リョク、電灯で照らしながら木の陰を覗き込む。
その時、門の前でタクシーが止まり、シャーロットが降りて来る。以下、シャと表記。
シャ「門を開けなさい! 中にドロントがいる事は、MIDORIから聞いてわかっているのよ」
シャの声にリョク、ビクッとし、シャに近づく。
リョク「姉さんから聞いてって、どういう事ですか?」
シャ、フッと笑う。
シャ「MIDORIが、ドロントを匿っている事を認めたのよ。さあ、門を開けて!」
リョク「でも……」
リョク、シャの大声にビビりながらも、門を開けようとしない。
シャ、背後に殺気を感じ、オートマグナムを抜きながら素早く振り返る。
そこに立っていたのは、サングラスをかけ、黒いスーツを着込んだ裏柳生のリーダー。
只ならぬ気配を感じ、慌てて邸に戻るリョク。
リョクの慌てぶりに気づく美咲。
美咲「どうしたの?」
リョク、また呼吸を整える。
リョク「門の外で、シャーロットさんと変なサングラスの男の人が……」
美咲「何ですって?」
美咲、つなぎを素早く着込み、仮面を着けながら駆け出す。
シャ、リーダーにオートマグを向けている。
シャ「貴方、何者なの? 一体誰の命令で動いているの? 何で私の命を狙うの?」
リーダー「……」
何も答えないリーダーにイラッとするシャ。
リーダー、シャの苛立ちにニヤリとし、口を開く。
リーダー「シャーロット・ホームズ。お前には関係ない事だ。今夜の最終便でサッサと国に帰れ。そうすれば、命は獲らずにすませよう」
シャ「随分と上からモノを言うのね?」
シャ、オートマグを撃つ。リーダー、素早くそれをかわし、内ポケットから錐刀を取り出し、シャに接近。
シャ「ああ!」
不意を突かれ、まるで無防備のシャ。
シャ(私、殺されるのね……)
シャ、諦めて目を閉じる。
その時、影が動き、リーダーの行く手を阻む。
リーダー「貴様!」
シャ、目を開く。そこには、錐刀を奪い取った美咲が立っていた。
シャ、その服装に気づく。
シャ「貴女は……?」
美咲「話は後にして」
美咲、リーダーを睨む。
美咲「どうやら、懲りていないようね、あんたらは?」
美咲の放つ凄まじい闘気にギョッとするリーダー。
リーダー(またこの女か……)
美咲、錐刀を逆手に持ち、フッと笑う。
美咲「この錐刀がどれ程威力があるのか、あんた自身で試してみようか?」
リーダー「く……」
歯軋りするリーダー。
リーダー(確かこいつら一族は、人殺さないのが掟。ならば……)
美咲、ニヤリとする。
美咲「甘いわよ。私は貴方を殺すつもりはないけど、貴方は私には決して勝てない」
リーダー、顔を真っ赤にして激怒。
リーダー「ほざけ!」
美咲に突進するリーダー。美咲、それをあっさりスウェイしてかわし、続けて放たれた蹴りをダッキングしてよけ、リーダーの懐に飛び込む。
リーダー「うう!」
錐刀がキラッと光る。
リーダー「ぐおおお!」
リーダーの左の耳たぶを錐刀が貫いている。
美咲、サッとリーダーから離れる。
美咲「どう? なかなか素敵なイヤリングでしょ?」
リーダー「ぐうう……」
リーダー、血を滴らせて錐刀を引き抜く。