第十五幕 裏柳生の暗躍
千代田区一番町全景。お堀が見える。
内堀通り沿いに建つ英国大使館。
その一室で母国に国際電話をかけているシャーロット。以下、シャと表記。
シャ「そうです。東京の警視庁には、ニンジャがいるのです。私のドロント逮捕の邪魔をしたばかりか、ドロント一味を殺そうとしたのです」
シャ、鋭い目をして、相手に捲し立てる。
シャ「証拠はありません。でもこのままでは、ドロント逮捕もできません。もしかすると、私の命すら狙われる事になるでしょう」
シャ、眉間に皺を寄せて相手の言葉を聞いている。
シャ「わかりました。努力します」
シャ、受話器を戻し、舌打ちする。
シャ(老いぼれは、保身しか考えていないわ)
シャ、そのまま大使館を出る。
シャ「ドロントの事も気になるけど、考えてみたら、私も標的よね。奴の顔を見ているのだから」
シャ、再び眉間に皺を寄せる。
MIDORI邸全景。
リヴィングルームで腕組みをして佇んでいる美咲。
MIDORI、それを心配そうにソファに座って見ている。以下、MIと表記。
そこに入って来るリョク。美咲、リョクを見る。
美咲「首領はどうでした?」
リョク「グッスリ眠ってますよ。疲れてるみたいですね」
美咲、ホッとした表情になる。
美咲「そうですか」
MI、それでも不安そうに美咲を見ている。MIの独白。
MI「美咲さん、辛そうだ。無理もない。いつもなら、ドロントさんが指揮を執ってくれるのに、今回は全て自分でしないといけないし、私らみたいな余分者の命の心配もしなくちゃいけないし。ごめんね、美咲さん」
MI「ねえ、美咲さん、大物政治家って、誰なんですか?」
美咲、フッと笑い、MIとリョクを見る。
美咲「それは明日の夕刊ではっきりしますよ」
キョトンとして顔を見合わせるMIとリョク。
夕方。
白のベンツを運転するキャピ。後部座席で押し黙っているMI。
キャピ、後ろからついて来るリポーター達の車をルームミラー越しに睨む。
キャピ「ねえ、MIDORIさん」
加速しながら尋ねるキャピ。
MI、顔を上げ、キャピをミラー越しに見る。
MI「何?」
キャピ「あの女の人達、何者なんですか? それに昼間来た大きな白人の女性は?」
MI、苦笑いする。
MI「まァ、誰でもいいじゃん。今日は最終日よ。全力投球なんだから」
キャピ、納得しかねる顔。
キャピ「ええ……」
追って来るリポーター達の車に混ざって走っている黒いセダン。
中に乗っている連中の目が皆鋭い。
武道館全景。曇天に映えるトンガリ屋根。
その脇に仁王立ちのシャ。
シャ(MIDORIが本当にドロントの事を知らないのだったら、それでいい。でも、もし知っていながら隠しているのだとすると、命を狙われている可能性があるわ)
そのシャを林の陰から見ている裏柳生の面々。
その中に裏柳生のリーダーがいる。
リーダー「シャーロット・ホームズ。貴様だけは生かしておかぬ。我が裏柳生の存亡が懸かっているのだ」
リーダー、ギュウッと拳を握りしめる。
新宿。都庁近辺。
その一角のホテルの車寄せに滑り込む黒塗りのリムジン。
ホテルのポーターが慌てて後部座席を開く。
ヌッと降り立つ大沢。その大沢に別の車から降りて駆け寄る秘書。
大沢、ホテルの玄関に歩き出す。
大沢「その後どうなった?」
大沢、正面を向いたままで、秘書に尋ねる。
秘書、ハンカチで額の汗を拭いながら大沢を追う。
秘書「こそ泥の足取りは掴んでおります。今、世田谷に潜伏中です」
大沢、立ち止まり、秘書を睨む。
大沢「世田谷だと?」
秘書「はい。その潜伏先というのが、芸能人の邸でして……」
大沢、片眉を吊り上げる。
大沢「芸能人?」
秘書、更にハンカチで汗を拭く。
秘書「はい。MIDORIとか言う女性歌手の家です。その歌手とこそ泥がどういう関係なのかはわかっておりませんが……」
大沢、口をへの字に結び、歩き出す。
大沢「わかった。調査と追跡は続けさせろ」
大沢、ホテルの中に入って行く。大沢に群がる報道陣。
秘書、長い溜息を吐く。
秘書「参ったなあ」
秘書、ホテルへと歩き出す。
武道館内部。
控え室の一室に入るMIとキャピ。
中で待っている江田企画部長。顔色が冴えない。
MI、ニコッと満面の笑み。
MI「あらあ、江田さん! お元気だったあ?」
江田、無言で奥を見る。
控え室の奥に座っている海藤社長。腕組みをし、MIを睨んでいる。
MI、海藤にもニコッとしてみせる。
MI「わァ。今日は最終日だからいてくれるんでしょ、社長?」
海藤、ムスッとしたまま。
海藤「MIDORI、ホテルで一緒だった男は一体誰だ?」
MI、ピクンとする。
MI「アハハ、あれ? あれはね、リョクちゃんの変装。後で記者会見するつもり」
海藤、スッと立ち上がり、MIに歩み寄る。
海藤「そんな百パーセント作り話だとわかる言い訳が通用するとでも思っているのか、バカモン!」
MI、耳を塞ぐ。
MI「作り話も何も、本当の事なんだもん。私が男なんて作る訳がないでしょ」
海藤、MIを疑いの眼差しで見る。苦笑いするMI。
江田「社長、MIDORIは軽い子ですが、男関係は全く心配ありませんよ。それは私が保証します」
海藤、江田を睨む。江田、ギクッとして身を引く。
海藤「まァ、いい」
控え室を出て行く海藤。MIとキャピ、溜息を吐く。江田、MIに視線を移す。
江田「MIDORI、本当に大丈夫なんだろうな?」
MI「もち! 江田さん、庇ってくれてありがと!」
投げキスするMI。江田、赤面する。キャピと顔を見合わせてクスッと笑うMI。
鏡の前に座るMI。
MI「さてと。着替えするから、江田さんは出てね」
江田「あ、ああ」
江田、ヨロヨロしながら出て行く。
メイクを開始するMI。
シャ「じゃあ、私は入っていいのかしら?」
その声にビクッとするMIとキャピ。
MI「え?」
ドアを開いて立っているシャ。キャピ、固まったように動かない。
シャ、MIの後ろに立つ。
シャ「MIDORI、一つ言い忘れた事があるわ。例の殺人集団ね、多分貴女の事も狙ってるわよ」
MI「何の事ですか?」
鏡越しにシャを見るMI。シャ、スッと何かを取り出す。
蒼ざめるMI。シャが持っているのは、ドロントの仮面。
シャ「これ、貴女が泊まっていたホテルの部屋のベッドの下から出て来たのよ」
シャ、仮面をMIの前の化粧台に置く。
シャ「正直に言いなさい。ドロントはどこ? それにあの部下の女は?」
シャ、MIの座っている椅子をグルンと半回転させる。
MI、俯いたまま。
MI「私の家です。ごめんなさい」
シャ「そう」
シャ、ニコッとして控え室を出て行く。MI、ハッとして立ち上がる。
MI「あの、この仮面、証拠品でしょ? いいんですか、置いてちゃって」
シャ、フッと笑って振り返る。
シャ「あ、それ? それね、おもちゃ屋で買った偽物なの。貴女にあげるわ」
唖然とするMIを尻目に、微笑んだまま出て行くシャ。
キャピ「MIDORIさん、どういう事なんですか?」
キャピの声が聞こえていないMI。呆然としたまま。