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第十四幕 ライバルの本音

 高級住宅が立ち並ぶとある町。


 その中の一角に建つMIDORI邸。白亜の殿堂である。MIDORIの独白。以下、MIと表記。


 MI「私の家は、世田谷区の成城にあります。でも、他の芸能人の皆さんのお宅に比べると、小さいです」


 MI邸の車寄せに停まっているベンツとワゴン車。


 MI「私は、居住人員の三倍以上の部屋数がある家なんて、犯罪に近いと思ってますから」


 庭はこじんまりとしていて、小さな池があり、鯉が数匹泳いでいるのみ。


 MI「ましてや、庭に五十メートルプールとか、地下に核シェルターとか造るのって、『バッカじゃないの?』と思ってしまうのです」


 MI邸の塀の周りを囲むようにへばりついている芸能記者達。


 可動式の監視カメラが彼等を撮影している。


 その記者から離れ、MI邸をジッと見ているシャーロット。以下、シャと表記。


 そんな光景をリヴィングルームのモニターで見ているMIとリョクと美咲。


 MI、ソファに腰掛ける。


 MI「でも、社長が知ったら、卒倒しちゃうわね」


 リョク、腕組みしてモニターを見たまま。


 リョク「そうね。でも、これで姉さん、男性ファンが減ったりして」


 MI、ムッとしてリョクを睨む。


 MI「そんな事ないわよ。私の人気は、これでまたグーンと上がるのよ」


 美咲、周囲を見渡してから、リョクを見る。


 美咲「首領は?」


 リョク「姉さんの寝室で休んでもらっています。また、ちょっとおかしな事を言っていたので……」


 美咲、心配そうな顔になる。


 MI「まっさか、車椅子のお婆さんが、ドロントさんだなんて、さすがのシャーロットさんも見抜けなかったでしょうね」


 MIの言葉に美咲は微かに笑みを浮かべるのみ。


 リョク「ドロントさんが回復しない事には、美咲さんもここを離れられませんね」


 MI、美咲の深刻そうな顔を覗き込み、話題の転換をするつもりか、満面の笑顔になる。


 MI「ねえ、美咲さん、あの絵、一体どんな秘密があるんですか?」


 心配そうだった美咲の顔が、一瞬にして怖い顔になる。


 MI、ビクッとする。


 美咲「知らない方がいいですよ。知ったら貴女達は……」


 意味ありげに言葉を切る美咲。


 MI、思わずリョクと抱き合って震える。


 MI「ご、ごめんなさい。私、また、余計な事を訊いてしまったんですね」


 美咲、ニッコリする。


 美咲「いえ、別に」


 その代わり身の速さに身震いするMI。


 


 シャ、MIDORI邸を睨んだまま、ジャケットの内ポケットから携帯を取り出す。


 シャ「私です」


 シャ、何処かへ連絡。


 やがて、携帯をしまい、ズンズンとMIDORI邸に向かって大股で歩き出すシャ。


 芸能リポーター達、シャの迫力にビクッとする。


 モーゼの十戒のワンシーンのようにリポーター達は道を開ける。


 シャ、門の前まで来ると、インターフォンを押す。


 リョクの声「はい」


 シャ、意を決して話し始める。


 シャ「MIDORI、聞こえる? シャーロット・ホームズよ。中に入れて。話があるの」




 リヴィングルル−ムでパニック状態のMI。


 MI「どうしましょう、美咲さん?」


 美咲、顎に手を当てて思案する。


 美咲「とにかく、首領をどこかに移動させます。応対はMIDORIさん達に任せます」


 美咲、奥へ去る。


 MI、リョクと顔を見合わせる。


 MI「どうしよう?」


 リョク「でも、まだバレた訳じゃないんでしょ? シャーロットさんを中に入れた方が、リポーター達も静かになるはずよ」


 MI「そうね」


 MI、大きく頷き、インターフォンの受話器を手に取る。


 MI「今、鍵を開けます。くれぐれも、リポーターの人達に入られないようにして下さい」


 シャの声「大丈夫。私の周囲半径五メートル以内には、誰もいないわよ」


 MI、思わずインターフォンのモニターを凝視。


 そこにはシャしか映っていない。


 


 門の前。


 オートマグナムを構え、リポーター達を威嚇するシャ。


 リポーター達は、シャから十メートル以上離れている。


 ガチャンと門のロックが開く音がする。


 シャ、門扉を押し開き、中に入りながら、振り返る。


 隙を突いて近づこうとしたリポーター三人が、シャと目が合い、凍りつく。


 シャ、ニッとしてそのまま門を閉じる。


 再びロックされる門扉。


 


 シャ、リヴィングルームに通される。


 シャ、ソファに腰掛けながら部屋を見渡す。


 シャ「さすが人気歌手ね。立派な邸宅だわ」


 MI、照れ笑いしてリョクと共に向かいのソファに座る。


 MI「いえいえ、大した事ないですよ」


 シャ、MIを見る。


 シャ「そう言えば、貴女、ロンドンのライブハウスで歌った事あるでしょ? 私一度観た事があるのよ」


 MI、リョク、ビックリしてシャを見る。


 MI「じゃあ、私の曲、聴いた事があるんですか?」


 シャ「もちろんよ。日本の歌手では、ロンドンで一番有名よ。不思議な歌を歌うのでね」


 MI、苦笑いする。


 シャ、表情を一変させ、MIを睨む。ギクッとするMIとリョク。


 MI「何ですか?」


 MIとリョク、居ずまいを正す。


 シャ「ドロントの事なんだけど」


 またビクッとするMIとリョク。


 シャ「貴女、彼女達の居場所を知っているわね?」


 シャ、身を乗り出してMIに尋ねる。MI、ソファに身を引く。


 MI「な、何で知ってるんですか? 知る訳ないですよ」


 シャ「ドロントは、命を狙われてるのよ」


 MIの独白。


 MI「知ってますよ! 思わずそう言いそうになりました」


 シャ「ドロント一味を襲った連中は、警察官になりすましている殺人集団なのよ」


 MIの独白。


 MI「シャーロットさんの目は、捜査官の目ではありませんでした。親しい人に危険が迫っているのを案じている心の優しい女性の目でした」


 シャ「何故ドロントがそんな連中に命を狙われているのかはわからない。でもね、MIDORI。私はドロントを損な連中に殺させたくないの。ドロントは、私がこの手で逮捕したいのよ」


 シャ、MIの顔の前に大きな右手を開いて突き出す。


 MI「え?」


 キョトンとするMIとリョク。


 シャ「五年よ。私は五年もドロントを追いかけているの。大英博物館で初めて逃げられてから、五年も追いかけているのよ」


 MI「シャーロットさん……」


 ウルッとするMI。


 シャ「私がこんなに必死に追いかけている女を、横からおかしな連中に殺されてたまるもんですか」


 シャ、バンとテーブルを叩く。思わず抱き合うMIとリョク。


 シャ「お願い、教えて。私はドロントを助けたいのよ。殺人者の手から……」


 シャ、目を潤ませて訴える。必死に感情を抑えるMI。


 もらい泣きして、ハンカチを取り出すリョク。


 MI「ごめんなさい。知らないんです。あの日以来、ドロントさん達には会っていません」


 MI、シャと目を合わせられず、俯いて答える。


 シャ「そう。悪かったわね、いきなり押し掛けて」


 シャ、スッと立ち上がり、リヴィングルームから出て行く。


 リョク「姉さん!」


 シャが出て行ったのを見てから、抗議の目を姉に向けるリョク。


 MI「教えられる訳ないでしょ。そんな事をしたら、美咲さんに申し訳ないもの」


 リョク「でも……」


 眼鏡の横から涙が溢れるリョク。遂に堪え切れず、涙を流すMI。


 MI「教えたら、ドロントさんも、美咲さんも捕まっちゃうのよ!? そんな事できないわ」


 そこへ現れる美咲。


 美咲「ありがとう、MIDORIさん」


 MIとリョク、美咲を見る。


 MI「美咲さん」


 美咲「シャーロットが、首領を敵視していない事は前から知っています。あの人はとてもいい人です。でも、警察に捕まれば、私達一族は終わりです」


 美咲、優しい眼差しでMIとリョクを見る。


 美咲「貴女達が私達と関係がある事は、裏柳生にも知られています。だからこそ、その事だけは、きっちりとケリをつけておこうと思っています」


 MI「どういう事ですか?」


 ドキドキしながら尋ねるMI。隣のリョクも泣き止んでジッと美咲を見ている。


 美咲、真剣な表情に変わり、二人を見る。


 美咲「貴女達も命を狙われているという事です」


 顔を見合わせるMIとリョク。


 リョク「どうするつもりなんですか?」


 美咲「私達にチョッカイを出した事を、骨の髄まで後悔させて上げます」


 その言葉にゾッとするMIとリョク。

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