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第十三幕 黒幕の恫喝

 翌朝。


 鉛色の雲が空を覆い尽くす。


 警視庁全景。


 十一階の警視総監室。


 怒りに震えるシャーロットが総監を睨んでソファに座っている。以下、シャと表記。


 総監、シャから視線を外し、俯いている。


シャ「ドロント達が乗り捨てて行ったヘリから、二人の遺体が発見されたのに、ヘリの持ち主を調べるなとはどういう事です!?」


 今にも掴みかからんばかりの迫力で総監に怒鳴るシャ。


 総監、目を合わせないままで話す。


 総監「どういう事も、こういう事もない。あのヘリコプターは、ある方がお持ちのものなのです。一ヶ月程前に盗まれたものでした。盗難届も出ています」


 シャ、総監の顔を覗き込む。


 シャ「盗難届? では、それを見せて下さい」


 総監「ダメです。この事件は、貴女とは何の関わりもないでしょう? 貴女はドロントの事で我々に協力を要請している外国の警察官に過ぎない」


 シャ、ムッとする。


 シャ「なるほど。殺された六人が、全て警視庁管内の関係者だったという事と何か繋がりがあるという事ですか?」


 総監、キッとしてシャを睨み返す。


 総監「とにかく、貴女はこの事件には関わりがないんですよ。これ以上口を出さないでもらえませんか」


 シャ「わかりました」


 シャ、バッと立ち上がり、ドアを勢いよく開き、叩きつけるように閉じて出て行く。


 


 ある高級マンション。


 その最上階の一室。


 大沢一郎が、額に血管を浮き上がらせ、警察の制服姿の裏柳生のリーダーを怒鳴りつけている。


 大沢「死人を六人も出し、ヘリコプターまで現場に置き去りにしおって! この俺がすぐに手を回したから、事なきを得たが、いつまでも抑えられる事じゃないぞ」


 リーダー「はあ……」


 リーダー、身を縮ませて聞いている。


 大沢「警察庁の幹部は、俺の昔の仲間が多くを占めているから、これ以上の事件にはならん。官僚は、身内から犯罪者が出るのを嫌う。特に警察はな」


 リーダー、緊張の余り、顔中汗まみれ。


 リーダー「はあ」


 大沢、部屋をズカズカと歩き、ソファにドスンと腰を下ろす。


 大沢「それより、こそ泥の方だ。あの絵を奪った上、お前の顔を見たとなると、このまま放っておく訳にはいかんぞ」


 リーダー「しかし、奴らに何もできるはずがありません。心配なさる事では……」


 大沢「バカめ!」


 大沢、テーブルの上のガラスの灰皿を投げつける。


 リーダー、びっくりしてそれをかわす。


 灰皿は壁に掛けられていた風景画の額に当たり、ガラスを粉微塵に割り、床に落ちて自らも砕けた。


 大沢、ムッとしてリーダーを睨む。


 大沢「お前という男は、少しも先を読めん愚か者だな。あのこそ泥は甲斐の忍びだと言ったそうだな?」


 リーダー「はい」


 リーダー、震え出している。


 大沢、葉巻をテーブルの上のシガーケースから葉巻を取り出す。


 大沢「奴らには恐らく依頼主がいる。それも、この俺でさえ手を出せぬところにな」


 リーダー、大沢の言葉を聞き、蒼ざめる。


 リーダー「まさか……」


 大沢、葉巻を食いちぎり、ライターで火を点ける。


 大沢「お前の思う通りだよ。奴らの黒幕はな。だからこそ、放ってはおけんのだ。絵の秘密を知っているかも知れんという理由もそこにある」


 大沢、葉巻を吸い、煙を吐く。


 リーダー「もしそうだとすると、早く連中を始末しないと、先生のお立場が……」


 大沢、葉巻をくわえたままリーダーを見る。


 大沢「そういう事だ。すぐに奴らの居場所を突き止めて、消せ」


 リーダー「はっ」


 リーダー、ドアに向かって歩き出す。


 大沢「待て」


 リーダー「は?」


 リーダー、振り返る。大沢、ソファから立ち上がる。


 大沢「あの白人女も消せ。顔を見られているのだろう?」


 リーダー「はっ!」


 リーダー、ドアを開いて部屋を出て行く。


 大沢、携帯を取り出していずこかへかける。


 大沢「俺だ。灰皿を割ってしまった。新しいのを買って来い」


 大沢、携帯を切り、ニヤリとする。


 


 ホテルの一室。


 ベッドでボンヤリしているドロント。以下、本名の葵と表記。


 その部屋の片隅に集まり、話し合っている美咲、リョク、MIDORI。以下、MIと表記。


 MI、チラッと葵を見る。


 MI「ドロントさん、記憶が戻らないみたいですね」


 美咲、心配そうな顔で葵を見る。


 美咲「ええ。しかし、こればかりは私ではどうする事も……」


 MI「もう一度、衝撃を与えてみたらどうですかね?」


 美咲、キッとしてMIを睨む。ビクッとするMI。


 美咲「とにかく、ここはまずいわ。どこか別の場所に移りましょう。裏柳生は警視庁と自衛隊に数多く潜入しているから、私達とMIDORIさん達の関係を探り出すのも、時間の問題です」


 MI、リョクと顔を見合わせる。


 リョク「他のホテルに移っても、時間稼ぎにもならないですね」


 MI、腕組みして考え込む。


 MI「私の家じゃ、目立ち過ぎて意味ないし」


 その言葉に美咲がハッとする。


 美咲「それ! MIDORImさんの家がいいわ!」


 MI、リョクともう一度顔を見合わせてから、美咲を見る。


 MI「私の家じゃ、すぐにばれちゃいますよ」


 美咲、何故か嬉しそうに二人を見る。


 美咲「大丈夫。二十四時間体制で、監視させるから」


 美咲、ウィンクする。思わず赤面するMIとリョク。


 


 シャ、タクシーで移動中。


 シャ(もし、私の考えが正しければ、ドロントはヘリコプターの持ち主に命を狙われているようね。それは何故? 命を奪ってまで、何を守ろうとしているの?)


 シャ、窓の外に目を向ける。


 シャ(とにかく、MIDORIにもう一度会って、今度こそドロントの事を聞き出そう)


 シャ、腕組みをして、シートにもたれ掛かる。


 運転手「あれ?」


 運転手の呟きに反応するシャ。


 シャ「どうしたの?」


 運転手、前方を指差す。シャ、窓を開けて身を乗り出す。


 ホテルの車寄せに報道陣が退去して押しかけている。


 ホテルの中から、サングラスをかけ、マスクをしたMIと共にサングラスをかけた髪の長い無精髭の男が寄り添って出て来る。


 二人、キャピが乗りつけたベンツに乗り込む。


 猛スピードで走り出すベンツ。


 シャ、車中のMIに気づく。


 シャ「あのベンツを追って!」


 運転手、シャの怒声に驚愕する。


 運転手「あ、はい!」


 スイッチバックで切り返し、ベンツを追うタクシー。


 それを更に追いかける報道陣の車。


 皆が去った後、老婆を乗せた車椅子を押して来るリョク。


 リョク「行ったようね」


 車寄せに停まる松本が運転するワゴン車。


 リョク、車椅子を後ろから乗せ、自分も乗り込む。


 ベンツが走り去った方向と逆に走り出すワゴン車。


 


 ベンツの後部座席。サングラスを外し、マスクを取るMI。


 MI「うまくいったわね」


 美咲、サングラスを外し、カツラを取り、無精髭をタオルで拭い落とす。


 美咲「いい考えでしょ? 貴女に恋人がいて、二人で自宅に籠ったきり出て来ない。芸能リポーター達は相手が誰なのか知りたいので、四六時中貴女の家の周りをうろつく。裏柳生もこれなら手が出せないわ」


 美咲、ニッコリしてMIを見る。


 MI、苦笑いする。


 MI「でも、私のイメージ、悪くなるなあ。男と一夜を過ごしたなんて……。私、こう見えても、純情可憐で売ってるんですよ」


 美咲、更に笑う。


 美咲「大丈夫ですよ。その程度で離れてしまうような人は、MIDORIさんのファンにはいませんから」


 MI「そうかなあ」


 MI、どこか照れ臭そうに笑う。

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