第十二幕 甲斐の忍び VS 裏柳生
国立近代美術館裏手。
首都高速の上を滑空し、科学技術館方面へと進むムササビ軍団。
上空に待機していたヘリが、少しずつ降下して来る。
ムササビ軍団、途中にある道路に集合し、ヘリを見上げる。
ヘリ、ムササビ軍団のそばに着陸。
ヘリから降り立つ男。サングラスをかけ、マスクをしているので人相は不明。
男、ムササビ軍団に向かって歩き出す。
ムササビ軍団のリーダー、腰のポーチから筒を取り出す。
男「うまくいったようだな」
リーダー、覆面の下でニヤリとする。
次の瞬間、その笑みが凍りつく。
男の顔がベリベリと剥がれ、下からミスティの仮面が現れる。
ミスティ、服も破り取り、つなぎ姿に戻る。
リーダー「貴様!」
騙された事に激高し、ミスティに突きを繰り出すリーダー。
ミスティ、バク宙をしてそれをあっさりかわす。
そして、筒をヘリの方へと投げる。
MIDORIが中から現れ、筒をキャッチ。以下、MIと表記。
MI「ナイスキャッチ!」
リーダー「貴様ら、ドロント一味か?」
ザザッとミスティを取り囲むムササビ軍団。
ミスティ、短刀を構える。
ミスティ「そう。私はその一番手、霞の美咲!」
ミスティの短刀がリーダーの顔を一閃する。
リーダー「何!?」
リーダー、覆面を真ん中から斬り裂かれる。眼光の鋭い中年男の顔が現れる。
ミスティ、それを見てフッと笑う。
ミスティ「やはり、お前達か。裏柳生も落ちるところまで落ちたな」
リーダーも他のムササビ軍団もギクッとする。
リーダー、顔を黒い布で隠す。動揺してるのか、手が震えている。
リーダー「何故我らの素性を知っている!? 貴様、忍びか?」
ミスティ、短刀を下げ、斜に立つ。
ミスティ「そうだ。私達はあんたらのような、似非忍びの殺人集団とは違う。四百年の間、連綿とその秘術の数々を守り続けて来た、甲斐の忍び」
リーダー「甲斐、だと? 武田の忍びか?」
ミスティ、リーダーを睨みつける。リーダー、思わず後退りする。
ミスティ「違う。私達は歴史に一切名を記していない。伊賀・甲賀のように幕府の子飼いとなった忍びとは考えが違う。忍びとは、歴史に名を残してはならないものだ」
リーダー「ぐう……」
歯軋りするリーダー。
ミスティ、フッと笑い、ムササビ軍団を見渡す。
ミスティ「私達の仕事を横から邪魔するとはいい度胸だ。相手をしてやるから、束になってかかって来い!」
ミスティ、ムササビ軍団が驚愕する殺気を放つ。
ヘリから覗き見ていたMIもビビる。
リーダー、それでも空元気を見せる。
リーダー「やれ!」
ムササビ軍団、一斉にミスティに襲いかかる。
ミスティ、スッと姿を消す。
次の瞬間、バタバタと倒れるムササビ軍団。
呆然としているリーダー。顔面汗まみれ。
リーダー「殺したのか?」
ミスティ、キッとリーダーを睨む。
ミスティ「私達の四百年の歴史の中に殺しは只の一度もない。それが我が一族の誇り」
ミスティ、右手でリーダーを指差す。
ミスティ「お前らのように、何人殺したのかを競う合うような戯け者とは訳が違う」
リーダー、その言葉に怒りを露にする。
リーダー「我が裏柳生は、柳生新陰流の宗家に成り代わり、江戸の世を陰で支えた誇り高き一族。それを愚弄されては、黙ってはおれぬ」
リーダー、腰のベルトから、ニューッと何かを引き出す。
それはピーンと張り、細い刀のようになる。
ミスティ、眉をひそめる。
ミスティ「錐刀か?」
リーダー、錐刀を構える。
リーダー「これを使えば、余程綿密に調べぬ限り、心臓発作にしか見えないように殺せる。例え、解剖されてもわからぬように刺す事も可能だ」
その時、シャーロット達が駆けて来る。以下、シャと表記。
リーダー、それに気づく。
ミスティ、その一瞬の隙を突き、ヘリに走り出す。
ミスティ「MIDORIさん、出して! シャーロットが来たわ」
MI「了解!」
リーダー、ミスティを悔しそうに見ている。
ミスティ、ヘリに乗り込み、ヘリ上昇する。
シャ「そこ、動くな!」
シャ、オートマグを構えたままで走って来る。
ヘリの中。ミスティ、仮面を外す。
ミスティ「いいタイミングで来てくれたわね」
MI「こうなるって、わかってたんでしょ?」
ミスティ「どうかしら」
ミスティ、ニコッとする。
MI「ミスティって、『霞の』って言う意味ですよね。なるほどねえ」
MI、しきりに関心する。
MI「って事は、ドロントさんは……?」
ミスティ「首領の名はそれとは関係ありません。葵。『葵の紋』の葵です」
MI「そうなんですか」
ヘリ、武道館を越え、その先の駐車場に着陸。
取り残されたリーダー、シャにオートマグを向けられ、身動き取れない。
シャ「動かないでよ、ニンジャさん。私は動体視力がいいから、動いても当てるわよ」
シャ、リーダーの目を見て何かに気づく。
シャ「貴方、見た事あるわ。確か、第一機動隊にいたわね。どういう事? 警官が副業で、これが本業なの?」
リーダー、ピクッとする。
シャ「説明してもらいましょうか? まさか、この倒れている人達も全員、副業で警官しているんじゃないでしょうね?」
シャが一瞬下を向いた時、リーダーがシャに襲いかかる。
シャ、リーダーの蹴りでオートマグを跳ね上げられるが、次の左の突きを右手でブロック。
逆に右脚の蹴りを見舞う。リーダー、それをバク転してかわす。
そして、素早く倒れている四人を錐刀で刺し、駆け出す。
シャ「待ちなさい!」
シャ、後から到着した機動隊員達を見る。
シャ「この連中を頼むわ。全員、死んでる」
ギョッとする機動隊員達を置き、リーダーを追うシャ。
シャ(あんなにあっさりと人を殺すなんて……。それにあの男、一体……?)
眉間に皺を寄せるシャ。
靖国通り。
普通の服に着替え、タクシーを拾うMIとミスティ。
MI「絵はうまく取り返せたし、仕事は完了ですね」
笑顔のMIに比べ、ミスティ、深刻な表情のまま。
ミスティ「いえ、まだです。あいつら、これくらいでは諦めないわ」
その言葉にギョッとするMI。