第十一幕 ミッション第二弾開始
国立近代美術館全景。
辺りは完全に夜。すぐ前を走る道路も、交通規制もあり、車もまばら。
美術館周囲。警官の姿がない。
美術館内部。誰もいない。そして、シャーロットの姿も見えない。
時刻、午後十一時五十分。
付近の商事会社屋上に立つミスティとMIDORI。以下、MIと表記。
ミスティ、観察していた携帯用の双眼鏡をパチンと畳み、腰のポケットに入れる。
ミスティ「妙ね。シャーロットはおろか、警官一人いないわ。どういう事かしら?」
MI「罠?」
ミスティ、腕組みをする。
ミスティ「難しいですね。何か情勢に変化が生じたのかも知れませんし」
ミスティ、仮面に仕込まれた通信機を操作する。
ミスティ「無線は使っていないわ。どうするつもりかしら?」
MI「……」
MI、顔色が悪くなる。ミスティ、それに気づく。
ミスティ「大丈夫。どんな事があっても、貴女の安全だけは保証します」
MI「でもお」
震え出すMIに、ミスティ、ズバンと仮面を被せる。
ミスティ「大丈夫です! 何かあったら、その時考える。それが私達のやり方です」
しかたなさそうに頷くMI。
MI「わ!」
いきなりミスティに腕を引かれ、給水タンクの陰に引きずり込まれるMI。
MI「どうしたんですか?」
ミスティ「見て!」
ミスティ、夜空を指差す。目を凝らすMI。
黒い影が五つ、お堀の上を移動している。
MI「何、あれ?」
ミスティ「わからない……。ハンググライダーではない……。あれは、ムササビの術ね」
ミスティ、顔を強ばらせる。
MI「ムササビの術? じゃあ、忍者?」
ミスティ「そのようです」
MI、顎に手を当てる。
MI「どこの?」
ミスティ「わからない。はっきりしているのは、私達の味方ではないという事です」
ミスティ、視線を移動させる。
ミスティ「あれがムササビの巣ね」
MI、そちらに視線を移す。
漆黒のヘリコプターが、ほとんど音を立てずにホバーリングしている。
ミスティ「あいつらがもし、美術館を狙っているのだとしたら、厄介ですよ」
MI、身震いする。
美術館脇にある林の中。
シャーロットと機動隊が身を潜めている。以下、シャと表記。
シャ、腕時計を見る。
シャ「そろそろ時間ね」
その時、上空を見ていた機動隊員の一人が囁く。
機動隊員A「ミス・ホームズ、アレを見て下さい」
シャ、機動隊員が指差す方角を見る。
そこには、夜の闇に紛れて滑空する黒い影がある。
シャ、眉をひそめる。
シャ「何、あれ? ドロントじゃないわね」
機動隊員A「美術館に向かっているようですが」
シャ、腕組みをして考え込む。
シャ(まさか……)
黒い影、美術館に降下し始める。
シャ「行くわよ」
シャ、立ち上がって走り出す。
慌てて追いかける機動隊員達。
商事会社屋上。ミスティ、ヘリコプターがゆっくりと動き出すのに気づく。
MI「私、ここで待ってますからって言っても、ダメですよね?」
MI、苦笑いする。ミスティ、ニコッとする。
ミスティ「ダメです」
ミスティ、ハンググライダーを準備。MI、溜息を吐く。
ミスティ「行きますよ」
MI「きゃっ!」
ミスティ、MIを自分の下に吊り下げる状態で飛び立つ。
旋回して、ヘリの後方につき、接近。
MI「気づかれて、撃たれないかしら?」
ミスティ「あちらも隠密行動ですから、そんな事はしないでしょう」
ハンググライダー、ヘリの真上に滑空し、速度を合わせる。
ムササビ軍団、美術館の前に降り立つ。全員、黒装束で、顔は目の部分だけ見えている覆面を着けている。
その中のリーダー格の男が、右手で合図。
他の四人はパッと各方向に散る。
シャ、美術館前に到着。ムササビ軍団に近づく。
シャ「そこで何してるの?」
シャ、44オートマグを構え、リーダーに尋ねる。
シャ「何?」
シャ、リーダーに一瞬にして拳銃を蹴り上げられる。
リーダー、続けざまに右の手刀をシャの左脇腹に突き入れる。
シャ 「ぐふ!」
シャ、呻いてよろめく。リーダー、止めとばかりにシャの後頭部に回し蹴り。
シャ「おっと!」
シャ、それを素早くかわし、リーダーに裏拳を見舞う。
リーダー、もんどり打って仰向けに倒れる。
シャ、倒れたリーダーを仁王立ちで睨む。
シャ「この私を舐めるんじゃないわよ! 貴方、何者?」
そこへ駆けつける機動隊員達。一瞬の隙を突き、リーダーは美術館の屋根へ飛ぶ。
シャ「何よアレ? まるで忍者ね」
シャ、美術館へと走る。機動隊員達もシャを追いかける。
シャ(連中、まさかドロントを始末するために差し向けられたの?)
シャの身体が怒りで燃える。
シャ(ドロントは殺させない! 必ずこの私が捕まえる)
シャ、地面に落ちている男オートマグを拾い上げ、美術館の中へ。
ムササビ軍団、美術館内に潜入。
リーダーが先頭になり、二階のギャラリー3へと移動する。
リーダー、法隆寺の絵の前に立つ。
リーダー「これか」
リーダー、ガラスケースを特殊なカッターで切り、絵が入っている額を取り出す。
何故か警報は鳴らない。
リーダー、額を外し、中から絵を取り出す。
配下の一人が筒を差し出すと、リーダーはそれに絵を丸めて差し込み、蓋をする。
腰にあるポーチに筒を入れ、代わりに白いカードを取り出し、ガラスケースに貼る。
それには、「獲物は確かにいただきました ドロント」と書かれており、偽のキスマークまで着けられている。
リーダー、配下を見渡してニヤリとする。
リーダー「引き揚げだ」
ムササビ軍団、瞬く間にその場から姿を消す。
入れ替わるように現れるシャと機動隊員達。
機動隊員B「ミス・ホームズ、こんなものが」
機動隊員から偽のメッセージカードを受け取るシャ。
シャ、カードの表と裏を見る。
シャ「これ、偽物ね。ドロントのキスマークはその都度着けるから、指で擦ると落ちるのよ。でもこれは落ちない。乾いてるわ」
シャ、カードを機動隊員に渡す。
機動隊員A「では一体?」
シャ、キッとして周囲を見渡す。
シャ「何者かが妨害工作をして、漁父の利を得たって事かしらね」
シャ、大股で歩き出す。機動隊員達、慌てて彼女を追う。