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中編

 ローブの男がキレの良い気合を入れると、レンとスーに向けていた掌から紫電が放出された。

 スパークが乱れる紫電の前に飛び出したスーは、レンの前へ立ちはだかり突き出した両手から青白い光の放射を放った。

 二本のエネルギーが衝突し炸裂音と共に、辺りが閃光に包まれる。

 歯を食いしばり、押されないように踏ん張るスーの後ろで、地面にうずくまり耳を押さえ顔を伏せているレン。

 恐怖に駆られた呻き声が木霊した。

 SF映画のような信じられない光景だったが、そんなモノに見とれている場合では無い程の危険性が目に見えたのだ。

 二色のエネルギーの衝突点から、不規則に弾け飛ぶ光が公園の地面を削り、遊具の鉄骨を溶かす。

 そんなモノが体に直撃すれば、どうなるかくらいは想像が付く。


 ローブの男は、心地よい風にでも当っているような表情で、ゆっくりと口元を綻ばせた。

「やるじゃんかよ、お爺さん」

 スーは、掌に返る圧力に押されながらも口を開いた。

「まだ負けんよ」

 スーが被る茶色のフードが脱げ、首下で勢い良くなびく。

 負けん気は人一倍のスーだったが、力の差は、砂の地面に刻まれた自分の足跡が物語っていた。

 ジリジリと後方へ押されてゆくスー。


 スーの額から流れる汗が、風圧に飛ばされ、弾き飛ぶスパークに当り蒸発する。

「おい、爺さん。それは本物の『汗』かい? それとも『オイル』かい?」

 薄ら笑いを浮かべるローブの男は、スーの正体を既に見抜いていた。

「本物の汗じゃよ」

「はは、なら良かった」

 その意味深な言葉に、眉を潜めたスー。

 そして、次の瞬間、エネルギーの放射がスーを飲み込んだ。

 地面に大きな傷痕を残し、スーは公衆便所へと突っ込み、エネルギーと共に爆煙を上げた。

 レンは、衝撃に吹き飛ばされ、公園の出入口へと転んだ。


 白い仮面が先ほどと変わらない笑みを見せる。

 その掌から、白い煙が緩やかに立ち昇っていた。

「からくり人形め」

 そう言うと、ローブの男は、怯えるレンに近づいた。

 次は自分が殺される。

 その恐怖から、必死に足をバタつかせ後退りするが、背中に、不気味な男の脚が当った。その男が垂らす唾液が、レンの額を弾いた。

 自分を見下ろしているのか? ただ地面の眺めているのか? 虚ろな双眼が捕らえるモノは、誰にも解らない。

 次の瞬間、レンの胸部に鋭い痛みが走った。

 一瞬何が起きたのか解らず、虚ろな目をした男から自分の胸に目をやった。

 ローブの男が握る剣が、レンの胸に深く突き刺さっていた。

 それでもレンは、一体何が起きているのか、理解に苦しんだ。

 自分の胸に突き刺さる剣。

「俺……死ぬ?」「いや、でもそんなに痛くないし」「あっ、でも何だか痛い……」

 当たり前だが初めての経験。

 死に近づく感覚を初めて記憶するのだ。

 不規則に鼓動する心臓の音が全身に伝わり、脈に合わせて鋭い痛みが体内を駆け巡る。

 そして、体の芯からメンソールに浸されたような、冷たく、寒い感覚が、痛みを多い尽くす。

「これが『死』なのか……」とレンは、掠れ行く意識の中でそう思った。


 瓦礫の山から這い出てきたスー。

 フードは破れ、年老いた体が現れる。

 一見、普通の人間のような体だが、腹部から突き出た肋骨ろっこつは、人が持つカルシウム素材とは全く否なる物だった。

「あぁぁぁッ!!」

 目の前で、レンの胸に突き刺さった剣を見て、状況を整理できず声が出なかった本人に変わり、スーが断末魔を上げた。

 スーの方へ顔を向けた白い仮面。

 満面の笑みの仮面を外しても、きっと同じ無邪気な顔をしているだろう。


「ふぅ、これで終わりか。呆気なかったな」

 ローブの男がそう言った時、レンのズボンのポケットから、白い閃光が発生し、辺りを包み込んだ。

 あまりの眩さに、顔を伏せたローブの男。

「なんだコレは!?」

「始まった……」

 スーは、眼球の中の望遠レンズを小刻みに動かし、光の中のモノを捉えようとした。

 少しずつ弱まる光の中、胸を張り、拳を硬く握ったレンが勇ましい姿で立っていた。

 その姿に驚くローブの男。

 剣に刺された傷口は塞がり、凛とした表情からはレンが発する雰囲気と違う物が滲み出ていた。

「誰だ?」

「レント」

 ローブの男に冷たく返すレント。

「レント? ……初代の記憶か。2代目の記憶ではなく……何故だ……」

 スーは、スピリットの記憶は、2代目の海馬の物だと思っていた。


 公園での騒がしい出来事に、隣のオフィスビルの窓が開いた。

 被爆地帯のようになってしまった公園を見下ろし、驚くサラリーマン。

 ローブの男が、見下ろすサラリーマンに気付くと、腕を上げ、軽く手招いた。

 すると、男は不思議な力に引き寄せられるかの様に、窓の外に引っ張られ、暫くすると湿った木が折れるような音を鳴らした。

「どうして殺した?」

「さぁ。お前、目の前に蚊が飛んでいたらどうする? そう言ったモノだ」

 ローブの男は、如何にも当たり前の事だと言わんばかりに、レントの顔を下から舐めるように覗き込んだ。

 レントは、下から見上げるローブの男へ、ゆっくりと視線を下ろした。

「だったら。お前は蚊だな」

「なんだとぉッ!?」

 怒声を上げた白い仮面を、レントの裏拳が貫ぬく。

 一瞬の出来事に、ローブの男はよろめいて、腰から地面に崩れ落ちた。

 乾いた破裂音と共に真っ二つに裂けた仮面から、血に染まる男の顔が現れる。どうやら鼻の骨が砕けたようだ。

 涙目になる男は、鼻を手で押さえながらゆっくりと立ち上がった。


「この野郎ッ!! 許せねぇ!!」

 ローブの男が、紫電を放とうと再び腕を突き出した。が、瞬時に距離を詰めたレントは、突き出された腕の肘へ、逆から強烈なパンチを入れてへし折った。

 ローブの男の苦痛にもがく叫び声が公園に響いた。

 普通なら曲がる事の無い角度へと力なく曲がる腕を見て、発狂しかけているローブの男。

 だが、レントの攻撃は、まだ治まらなかった。

 膝蹴りで男の歯を全てへし折り、倒れた所へ、脇腹を何度も蹴った。

「おらおらどうした。俺は全然力使ってないぜ。本気出せよ雑魚が」

 ローブの男は、何度も脇腹を蹴られ口から血を吐き、白目を向いていた。

 周りにいた、普通でない者達は、ご主人様を助けようとする命令が残っていたのか? ふら付く足許で、遠くを見ながら近づいてきた。

「邪魔だどけッ」

 レントは、突き出した掌から衝撃波を発し、近寄る者達を公園の向かい側の塀に叩き付けた。

 邪魔者が消えてから、レントはローブの男に問いかけた。

「おい、セラスはどこだ? もう生まれ変わっているだろ?」

 ローブの男は、必死に答えようとしたが、歯が全て無い上に、アバラ骨が砕け、肺を突き破っていた事から、まともに話せる状況では無かった。

「ひら、ない……お、れは、ひら……ない」

「そうか」

 次の瞬間、男の断末魔が鳴り響き、同時に普通では無い者達も意識を失った。


 目標を失い、立ち尽くすレント。

 そこへ、近づくスー。

「お前は、初代の記憶だな」

「あんたは?」

「ワシはアンドロイドのスーじゃ」

「アンドロイド?」

「お前の生まれ変わりを探し出し、導く。それがワシの使命じゃ」

「なるほど」

 レントは、そう言いながら、今現在のレンの肉体に目をやり、拳を握ったり開いたりしている。

「この男は中々の素質がある。さすが俺の生まれ変わりだ……だが、まだ足らないモノもある」

 そして、レントは、スーにある事を伝えた。

「なぁ、今回の戦いをある程度有利に進めたいのなら、最優先で破壊しておかなければならないモノがある」

「それは何じゃ?」………………。




 三ヶ月後――


 フォースライドのトレーニングルームで組手をするレンとスーの姿があった。

 スーのトリッキーな攻撃を全て見切り、反撃を決めてゆくレン。


 ――「何があったんだよ? 俺、死んだよな?」

 ――「覚醒したんじゃよ。スピリットを取り込んでな」


 レンのダッシュパンチを紙一重で避けたスー。

 カウンターパンチをレンに当てようとしたが、そのカウンターパンチを交わされ逆にカウンターパンチを放たれた。


 ――「これからも、奴等はお前を殺そうとするじゃろう。いつ襲われるかも分からぬ」

 ――「冗談じゃねぇ、これがアンタが言っていた俺の人生なのかよ!?」


 スーの両手から青白い光の放射が放たれる。

 それを掻い潜るように交わし、距離を縮めるレン。

 そのレンを仕留めよと、光の放射の角度を変えるが、それを軽々と飛び越える。


 ――「お前には無限の力が眠っておる。じゃが、引き出す為には鍛錬が必要じゃ。強くなりたいか?」

 ――「………………あぁ、強くなりたい!!」


 スーに零距離まで近づいたレンは、光を放射する腕を掴み、脇腹に蹴りの連打を打ち込んだ。

 最後の一撃で、スーは、トレーニングルームの壁に吹っ飛ばされ、光の放射は消え去った。

 そのまま、壁越しに崩れ落ちるスー。

「見事じゃ。この短期間で恐るべき成長。スピリットが見込んだだけの事はある。しかも、バトルスーツを既に必要としないレベル」

 タンクトップ姿のレンは、肩を廻しながら、スーに手を差し伸べた。

「やっぱりスーツを着ていると、力の負荷損失が生まれるし、何よりも微妙な空気の流れや地面から伝わる振動を感じにくいのさ。自分の力でスピリットのエネルギーを防御膜として体にコーティング出来れば、スーツなんて邪魔で仕方がない」

「さすがじゃな」

 そう言ってスーは、レンの手を取り立ち上がった。

「じゃが、スピリットとの完全融合を終えた今は、どんなに窮地に追い込まれようとも、もう傷も癒えんし助けてもくれんぞ。己の力次第じゃ」

「あぁ、分かってるって」



 フォースライドのラウンジと呼ばれるエリアでくつろぐ二人。

 バーカウンターの中で、カクテルをシェイクするマスターの前で酒を楽しむ人が数人。

 そのカウンターを囲むように沢山のクリスタル製のテーブルが並べらている。

 三百六十度が特殊ガラスに覆われ、広大な宇宙がラウンジを包み込む。床も透明な材質で、蒼い地球が足許から覗くことが出来る。

 そんな宝石を散りばめたような煌びやかな景色が大パノラマで見えると言う事で、時間帯によれば、満席にもなる。


 このフォースライドは、スーの話では、生活環境エリアも存在し、人間や宇宙人も居るそうだ。

 まだ、レンは人間しか見た事がない。


「なぁ、スー。俺の仲間ってのはまだ現れないのか?」

 レンは、コーラが入ったグラスに口を付けた。

「まだ、準備が出来ていないんじゃろ。彼等の魂がな。だからレーダーが反応しない」

「レーダー? あのドラゴンボールとかに出てくる『ドラゴンレーダー』みたいなヤツか?」

 これでもレンは真面目に質問したつもりだったが、スーには全く意味が解らなかった。

「ワシには、お前の言っているレーダーが分からんが、他の生まれ変わりに準備が出来ると、レーダーに生まれ変わりの現在地とスピリットへの道が現れるんじゃ。まぁ、今度見せてやろう。」


 暫くすると、レンは、神妙な面持ちで遠くの月を眺めながら口を開いた。

「俺は、スーに出会うまでの毎日が当たり前だと思っていた。この生活がいつまでも続き、学校を卒業し大学へ進学し、社会人になる。そして……」

「いつか結婚して家族を持つんじゃろう」

 スーは、レンの思いの果てにあろう言葉を続けた。

 頷くレン。

 レンの視線の先に見えていたモノ。それは『暖かい家庭』だった。

 荒れ狂う酒乱っぷりで暴力に怯える家庭で育って来たレンは、暖かく家族で笑って過ごせる事を夢見ていた。

 行く行くは自分がそんな家庭を作りたい。

 そう強く願い、勉学に励んでいたのだ。だが……。

「そんな未来が自分にも用意されていると信じていたんだ。でも……」

「でも?」

「運命ってヤツは、全く予想もしない未来へと突き進むもんだなって……。一体俺は、何処へ向かって行くんだろ?……。」

 そうして、レンは大きな溜息をついた。

「行き先など自分で見つける事じゃ」

 スーはキッパリと答えた。

 その言葉に、レンは目の焦点をスーに合わせた。

「乗った船を操縦するのは己自身じゃ。行き先など誰にも分からん。行き着く果ては『残酷なモノ』かも知れん。『素晴らしきモノ』かも知れん。じゃから、今は、しっかりと己を鍛え、自身の心を研磨するのじゃ。そうすれば、おのずと見えるはずじゃ。自分の役割、目指すべき所がな」

 スーの言葉のピースが、レンの心の穴に嵌った。

 未来なんて、誰にも分からない、だから皆、自分自身を鍛え不足の事態に備える。

 そうして、少しずつ目指すべき目標が見えてくるのだ。


 レン自身、今は、大荒れの海のど真ん中で激しく揺さぶられる船と同じだと思った。

 だが、その荒波を乗り越えれば、先が見えるかも知れない。どんな先かは分からないが、乗り越える価値はある。今沈む訳にはいかない。

 レンは、戦いの運命に飲み込まれてしまった自分の人生に、今になって不安と焦りと憤りしか見えていなかった。それを乗り越えられるだけの『理由』が欲しかったのだ。


「ありがとうスー。少し楽になったよ」

「そうか、良かったのぉ」

 レンは、スーに礼を言うとラウンジを後にした。


 その後姿じっと眺めるスー。

 その表情はどこか不安げにも見えた。

「心が弱すぎる……か」

 スーは、最初にレンが覚醒し、レントと話をしていた時の事を思い出していた。

 そして、レントは、レンに関して『心が弱すぎる』と言ったのだった。

「レンは、素晴らしいセンスの持ち主じゃ。スピリットとの同調性も前世の5人よりもずば抜けて高く、スーツを脱いだのも一番早かった。彼が『シオンのスピリット』を継ぐ者なら、ガジャルとの戦いに小さな光が見えたかも知れん。それ程の逸材じゃ。じゃが……」

 レントが言っていた


 ――最優先で破壊しておかなければならないモノ――


 それを破壊するには、レンの心が繊細で弱過ぎたのだ。

 それはスー自身も気付いてはいた。

「あいつは、冷酷になれるのじゃろうか?」

 スーは、テーブルの脇から見える宇宙に目をやり、深い息を吐いた。



 今日も、帰りは深夜を過ぎていた。

 平屋の家に帰ってきたレンは、台所のスリガラス越しに中の様子を伺った。真っ暗で何も見えない所を見ると、既に就寝しているのだろう。

 薄い木とガラス板で出来ている昔ながらの扉に鍵を挿したが、鍵は掛かっていなかった。

 不思議に思い、首を傾げたレン。

「あんだけ物騒だから鍵掛けとけって言ったじゃねぇか」

 そう言い、敷居を跨いだ。

 薄暗い玄関へと入ったレンだったが、何か何時いつもとは違う事に気付いた。

 嫌な胸騒ぎがした。不気味で邪悪な胸騒ぎだ。

 レンが歩く度に軋む木目の床以外、一切の音が聞こえない。

 静か過ぎる。

 考えたくもない予感が過ぎる。

 だが、それ以外に何が考えられるだろうか?

 居間の引き戸に、ゆっくりと手を掛けたレン。

 高鳴る胸の鼓動と、干上がる咥内。背筋を流れる冷たい感覚。

 そして、ゆっくりと引き戸を開いた…………。


 暫くして、平屋を飛び出したレンは、鬼の形相で何処かへ向かって走って行った。

 硬く握られた拳から顔を出す赤い紙。

 血に染まった紙切れには、近くの病院の廃墟へとレンを誘う、ゲラヴィスク教からの言葉が綴られていたのだ。

 そして、その血とは、レンの家族の血だった。

 言葉では表せない程の残酷な光景だった。

 母親、妹、そして父親。

 それぞれの四肢と頭が寸断され、ちぐはぐに連結されていたのだ。

 凄まじいスピードで駆け抜けるレンが通った跡には、アスファルトに雫が残っていた。

 頬から伝う雫が。


 財政難で廃墟と化してしまった巨大病院の錆びた門を飛び越えたレンは、正面玄関へとやって来た。

 まるで、レンを待っていたかの様に、自動ドアが長き眠りから覚め、金きり音を上げながら左右に開いた。

 巨大な受付ホールへと入ると、途端に館内に電流が流れる音が聞こえ、天井照明の幾つかが点灯した。

 巨大なホールを照らすには不十分すぎる程の照度だ。

 お馴染みの逃げるマーク、誘導灯が一際明るいグリーンの光を放つ。

 埃塗ほこりまみれの受付カウンターにスプリングが飛び出たベンチ。ひび割れた柱や壁には、遊びで侵入した者達によるラッカースプレーアートが描かれている。

 ベンチには、薬物ドラッグを使用した後の注射器が散乱していた。


「何処だッ!! 来てやったぜ糞野郎!!」

 レンの怒声がホールに反響し、木霊した。

 すると、レンの言葉に答えるかの様に、リノリウムの床を叩く、靴の音が鳴った。

 柱の影から現れたローブを纏いし者。

 十メートル程の距離を開け、二人が仁王立ちで向かい合う。

「貴様か? 俺の家族を殺したのはッ!?」

「そうだ」

 あっさりと答える男の太く低い声。

 悲しみを表す白い仮面。

「お前は、家族を殺されたと言ったが、俺こそ大事な弟を殺されたんだ」

「はぁ?」

 そして、男は鼻で笑った。

「覚えてはおらんだろう。弟は覚醒したお前に殺されたんだからなぁ。あの公園で」

 その言葉で、レンは誰の兄なのか気付いた。


「さっさと終わらせてやろう」

 男はそう言うと、フードを脱ぎ、仮面を外した。

 黒いジーンズに上半身を露にした男。

 細くても筋肉質で無駄のない体。

 ミステリアスな雰囲気を漂わせる、垂れた前髪から見せる憎しみの篭った赤い目。

 男は、闘う為に生まれてきた様な完璧な肉体を持っていた。


「初めに襲って来たのはお前の弟だろ。逆恨みも大概にしろ」

 体に力を込めたレンの体から白銀のオーラが吹き荒れた。

 パーカーのフードが首許でなびき、髪が逆立つ。

 レンのオーラに触発され、男も全身から黒紫のオーラを噴出した。

 ホール内の埃が渦を巻き、そして拡散して消え去る。


 互いが、腰を下ろし、攻撃に備え腕を構える。

 先に飛び出したのはレンだ。

 床を一蹴りで男へと距離を詰める。

 男は、迎え撃つ気で、脇を絞め、拳に闘気を纏わせた。

「正面からとは、何と間抜けなヤツだ」

 向かい来るレンを弾き飛ばす程の拳を突き出した瞬間、男の後頭部に強烈な右ストレートが突き刺さった。

 男の反射以上のスピードで瞬時に後ろに回りこんだレンの強烈な一撃に、玄関の自動扉のガラスを体で打ち抜いた。

 激しい破壊音と共にガラスが飛び散り、すぐさま起き上がった男の髪にもガラスの破片が入り込んでいた。

 額に一筋の赤いラインが垂れる。

 男は、それを腕で拭うと、不適な笑みを浮かべた。

「何が可笑しいんだ?」

「いや、別に」

 次の瞬間、同時に激突した二人の突き蹴りの攻防戦が繰り広げられた。

 レンの拳が男の頬を弾き、男の膝蹴りがレンの腹にめり込む。

 紫電を纏った男のアッパーを間一髪、身を引いたレン。鼻先をかすったアッパーから放たれた紫電がホールの天井を突き破り、崩れたコンクリートが雨のように降った。

 それすら関係無いと言わんばかりに、二人の連打の拳が拳を弾く。

 そこに降り注ぐコンクリートの破片は、拳に当り砕け散り、更には二人のオーラで掻き消された。


 男の拳を掻い潜り、レンの強烈な拳が胸を打ち抜いた。

 大きくバランスを崩した所へ、レンが放った金色こんじきのエネルギーが放射され、吹き飛ばされた男は、壁を何層も突き破り産婦人科エリアまで飛ばされた。

「ぐぉぉぉぉおおおおッ!!」

 男の怒声が響き渡る。

 穴の開いた壁を通り抜け、レンが距離を詰める。

 産婦人科への壁を通り抜けた時、壁の脇に身を潜めていた男の蹴りがレンの顎を押し上げ、天井を突き破った。

 四階まで押し上げられたレンは、拳に纏ったエネルギーを何発も地面に向けて発射した。

 下の階にいる男に当る事を願い。

 爆煙が舞い上がり、巻き込まれないようにバックステップするレン。 爆煙に紛れて、上昇してくるかも知れないと、レンは、立ち込める煙に向かって真っ直ぐに光の玉を投げつけた。

 更に吹き飛ぶ廊下。

「どうだ!!」

 そう言った瞬間、レンの足許の床を突き破り、男の手が足首を掴むと強引に引きずり込んだ。

「うわッ!!」

 驚き、砕け散るコンクリートの中、下の階へと 落とされたレン。

 状況が掴めず、慌てて、周りの景色を掴もうとしたが、死角から放たれた男の紫電がレンを包み込んだ。


 全身を貫く電撃と共に中庭を突きぬけ、反対側の病棟へと飛ばされたレンは、中庭を飛び越え追って来る男目掛け、近くにあったベンチを投げつけた。

 廊下のガラス窓を突き破り、飛び出すベンチを男は拳で弾き返した。

 レンの顔を脇を通り越え、後方の壁にベンチがめり込んだ。

 そこへ突進する男。

 レンは、瞬時に体勢を沈めると、頭の上を通り過ぎた男の腹にエネルギーを纏った拳を突き上げた。

 綺麗に『みぞおち』(腹部の急所)を貫かれた衝撃で、男は口から唾液を飛ばし、そのまま天井を突き破った。

 男が怯んでいる今しかチャンスは無いと思ったレンは、直ぐさま男を追った。

 九階の入院病棟まで飛ばされた男が立ち上がる間も無く、レンの猛攻撃が男の全身を乱れ撃ちにした。

 床で仰向けになり、意識が朦朧となる男。

 次の一撃を男の顔面に直撃させれば、間違いなく死ぬだろう。


 レンは、大きく掲げた拳に金色の光を集中させ始めた。




 後編へ続く


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