わかってますよね?
彼は、母子家庭で育った。ぎりぎりの生活。劣等感。
ある夜夢に天使が現れた。
「人生には波がある。悪いことの次はいいこと、いいことの次は悪いこと、その繰り返し。今がどん底なら、あとは這い上がるだけ」
「俺にもチャンスはあるのか?」
「もちろん。ただし、よく覚えておいて。幸せと不幸は表裏一体。幸せの絶頂にいる時には気をつけなさい」
それから彼は、夜学と独学で大検に合格した。
その夜はお祝いを兼ねて外食することにした。
外食先で彼と同じくらいの年の青年がやけ酒を飲んでいた。
「何があったんです?よかったら話を聞きますよ」
「勤め先がブラック企業だったんだ。同僚が過労で倒れて一気に仕事の量が増えた」
「そんなところ辞めればいいのに」
「うちは祖父母と両親と俺の家族で、老々介護だし、生活費と税金を稼がなきゃならないんだ。好きな女性がいるけれど、苦労かけたくなくて、結婚できない」
「そんな……」
彼は絶句した。
政治が悪いんだ、と青年はつぶやいていびきをかき始めた。
政治……。彼は、政治家になって、この青年みたいな人たちを救いたいと思った。
「明日ここの選挙事務所に行って、政治家が困っているところを助けなさい」
また、夢に天使が出てきた。
半信半疑でとある選挙事務所にいくと、有名な政治家が心臓麻痺で倒れる場面に居合わせた。彼は救急車を呼び、その政治家は一命を取り留めた。彼は感謝され、自分が政治家になりたいと思っていることを話した。
「君の力になろう」
政治家は、側近を4人用意して、彼はすいすい出世した。
「おめでとうございます」
彼はいつしか大統領になった。
制度が見直され、国民が幸せな国が実現した。
いつかの青年も報われて彼のことを応援していた。
テレビの演説で、本気の涙を流した彼をみんなが好感をもった。
「俺は幸せだ」
これ以上の幸福があるだろうか?
そこへ、側近4人がやってきた。
「大統領の本当の仕事が待っています。こちらへ」
誘われて行った場所に、ボタンがあった。
「これは?」
「周辺国との会戦の合図に弾道弾ミサイルを発射するのです」
「い、嫌だ」
「わかってますよね?後戻りできませんよ」
側近たちの顔が夢の天使の顔に変わった。
「さあ、地獄へ堕ちなさい」
彼の震える指はボタンを押した。




