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占いの館で彼女を奪われ、異世界で王族の婚約者にされたので、僕は必ず取り戻す  作者: 播磨 颯太


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1.占いの館『ふわりとマム』

「神戸三宮サンキタ通り 20:30」


夜の街は、昼間とは違った顔を見せる。

ネオンが煌めき、通りを行き交う人々の表情はどこか華やいでいる。


「のぞみさん、今日は楽しかったね」


ゆうが隣を歩くのぞみに笑いかける。

のぞみもほろ酔いの頬を少し紅潮させながら、嬉しそうに微笑んだ。


「私も、ゆう君とお酒が飲めるようになって、なんか不思議な感じだけど……楽しかった」


二人は、大学時代から付き合い始めて3年。

ついにゆうもお酒が飲める年齢になり、今日は二人で初めての“お酒デート”だった。

これまでずっとのぞみだけが飲んでいて、ゆうはそれを隣で見守っていたが、今日は二人で同じグラスを傾けることができた。


「なんか、大人になった感じするね」

「そうだね。でも、のぞみさんが酔うとちょっと甘えんぼになるのは前から知ってたよ」


「えっ、そんなことないよ……!」


のぞみは恥ずかしそうに顔を背けたが、ゆうはくすっと笑った。


そんな他愛ない会話を交わしながら、駅へと向かって歩いていたその時。


ふと、二人の足が止まる。


目の前に、少し不思議な雰囲気を醸し出す小さな看板があった。


『占いの館 ふわりとマム』


「今までのふたりの道のり、これから歩む道、全てわかります」


「……へぇ、占いかぁ」


のぞみが興味深そうに看板を見つめる。


「ねぇ、行ってみない?」


「え、占い?」


ゆうは少し戸惑いながら、のぞみを見た。


「うん。ちょっと気にならない? 今までのこと、本当に当てられるのかなって」


「まぁ……」


「それに、これからのことも占ってくれるって書いてるし……。当たるなら未来も分かるかも」


のぞみは、真剣な目でゆうを見上げる。


「ゆう君は信じてないかもしれないけど、私はちょっと試してみたいな……」


「……んー、まぁ、のぞみさんがそう言うなら……」


ゆうは苦笑しながら肩をすくめた。

正直、占いにはあまり興味はなかったが、のぞみがこんなに興味を持っているなら、付き合ってあげたくなる。


「じゃあ、入ってみる?」


「うん!」


のぞみは嬉しそうに頷いた。


──こうして、二人は小さな扉を押し開け、占いの館『ふわりとマム』の中へ足を踏み入れた。


***


店内は思った以上に本格的だった。


薄暗い照明の中、ブラックライトが掲示物や占いの道具を妖しく浮かび上がらせている。

壁にはタロットカードのイラストや、不思議な図形が描かれた布が掛けられており、所々に小さな水晶玉が置かれていた。


「……なんか、すごい雰囲気だね」


「うん、本当に占いの館って感じ」


のぞみとゆうは、少しヒソヒソ声で話しながら、奥へ続く細い廊下を歩いていく。


すると、マントをまとった若い女性がすっと現れ、静かに微笑んだ。


「ようこそ、『ふわりとマム』へ」


まるで物語の中の登場人物のような佇まいに、のぞみは思わずゆうの袖を軽く引いた。


「ちょっと、本格的すぎるかも……」


「……今さら怖気づいたの?」


「ち、違うよ! でも、なんかワクワクするね」


のぞみは小さく笑いながら、ゆうと並んで占いの間へと進んでいった。


店内には、静かに幻想的な音楽が流れていた。


メロディは神秘的で、どこか異世界に迷い込んだような感覚を覚えさせる。


マントを纏った若い女性は、無言のまま二人を奥へと案内する。

その歩くたびに、ほのかに香水の香りが漂った。


ゆうとのぞみは、細い廊下を進んでいく。

壁には古びた額縁に収められた不思議な図柄の紙が飾られ、天井からは揺れるランプがぶら下がっている。


──そして、廊下の突き当たり。


そこには、受付と思しき場所があった。


だが、二人の目を引いたのは、カウンターの奥に佇む黒装束の人物だった。


まるで闇そのものを纏ったかのような衣装。


フードが深く被られ、性別すら分からない。


その存在感に、のぞみの手がゆうの手を強く握る。


──期待と、不安が入り混じる。


(すごい……まるで映画の世界みたい)

(でも、ちょっと怖いかも……)

(こんな本格的な雰囲気の占い師って、本当に当たるのかな……)


のぞみの心は、期待と緊張でざわめいていた。


すると、先ほどまで案内していたマントの女性が静かに口を開く。


「お連れしました、ふわり様」


──ふわり?


ゆうは、黒装束の人物がふわりという占い師なのだと悟った。


すると、ふわりが口を開く。


「ありがとう、マム」


落ち着いた女性の声。

年齢は、30代半ばくらいか。


(この人が……ふわり……)


ゆうは、ふわりをまじまじと見つめた。

黒装束に包まれながらも、衣装の隙間から覗く目元には、しっかりとメイクが施されていた。


(……この人、かなりの美人かも……)


マムと呼ばれた女性は、無言のまま静かに下がっていった。


──そして、黒装束のふわりが、のぞみとゆうの方を向く。


漆黒の布に包まれたまま、しっかりと二人を見つめるその視線には、どこか余裕と威厳があった。


ふわりは、穏やかな口調で語りかける。


「ようこそ、『ふわりとマム』へ」


まるで、客を安心させるような柔らかさと、占いの館の雰囲気を壊さない神秘性を兼ね備えた声。


「ここでは、あなたたちの歩んできた道、そしてこれから進む道──すべてを読み解くことができます」


のぞみは、その言葉に吸い込まれるように、思わず身を乗り出した。


「すべて……? 本当に、私たちの過去のことも、未来のことも分かるんですか?」


ふわりは、ゆっくりと頷く。


「ええ。あなたが信じるのなら、何もかも見通すことができるでしょう」


のぞみの瞳が輝いた。


「すごい……! じゃあ、私たちの未来も……」


一方、ゆうは少し疑わしげにふわりを見た。


「そんなこと、本当に分かるんですか?」


半信半疑の声。


のぞみほど純粋に信じることはできない。

占いなんて、ただの心理トリックか偶然の産物ではないのか──


ふわりは、そんなゆうの心の内を見透かしたかのように、静かに微笑む。


「……面白いわね」


ふわりは、のぞみを一瞥し、そしてゆうを見据える。


「彼女は、信じている。あなたは、まだ疑っている……そうでしょう?」


「──っ!」


「え……!」


二人は驚き、思わず顔を見合わせる。


ふわりは、まるでそれが当然であるかのように、落ち着いたままゆっくりと続けた。


「さあ──あなたたちの真実を、見てみましょうか?」


その瞬間、

のぞみの指先が、かすかに震えた。


──この震えが、二人の運命を変えることを、

二人はまだ知らない。

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