最終話.ユーリと気持ちを通わせたわよ!
夜会の翌日。
本来はビビアンもユリウスも公務はお休みとなるが、昨日アイリが起こした問題もあり、ビビアンはユリウスの執務室へと訪れていた。
事情聴取を行った騎士がやってきており、ユリウスと共に報告を聞く。
「罪人は自供したのか」
「まだ全てではないようですが。ひとまず、目的は、陛下に魅了をかけ、皇妃殿下に成り代わろうとしていたとのことでした。それで、その理由についてですが……」
騎士が言いにくそうにビビアンを見る。
「私に気を遣わなくてもいいわよ」
ビビアンが言うと、騎士は緊張した面持ちで言う。
「では、ご気分を害するかもしれませんが、ご容赦ください。聖女は、陛下に、愛されたかったと繰り返し述べています。おそらくはそれが真実だろうというのが、聞き取りを行った騎士達の総意です」
「そんな理由で、禁術を使ったのか……」
呆れるユリウスに、騎士もなんとも言えない顔をしている。
禁術の使用は、帝国法の中でも重罪として裁かれる。
アイリは聖女という地位は奪われ、幽閉されてその力を帝国に役立て続けることになるだろう。
「神官長は?」
「今回の件、全く知らなかったと申しております」
「そうか。全面的に信じるわけではないが、調査は必要だろうな。……アイリが禁術である魅了魔術を知った経緯と共に、徹底的に調べてもらおう」
返事をして、騎士が立ち去る。
その姿を見送ると、ユリウスが言う。
「せっかくの天気だ。外を歩かないか? ビビの庭に行きたい」
「よろこんで招待するわ」
ユリウスのエスコートで、以前管理を任せてもらった庭へと向かう。
花を見て歩きながら、昨日のことについて話を聞こうと話題を振る。
「聖女による帝国皇帝魅了事件にならなくてよかったわね」
「そうなっていれば大変なことになっていただろうな。それにもし自らの手でビビを失うような行動を取っていたらと思うと、怖くてたまらない。そんなことを自分がやったとしたら……、そうさせた相手にきっちり復讐をした後、たとえどんな場所であろうと私はビビを追いかけただろう」
ユリウスが本気で言っているとわかって、ビビアンは複雑な気持ちだ。
嬉しいと感じる部分もある。
だが、その思いの強さが、若干引っかかる。
(これは、ユーリより先に、寿命以外では死ねないのでは……?)
そう簡単に死ぬつもりはないが、今の言葉は事故や暗殺などで不慮の死をビビアンが遂げれば、ユリウスはそうなった原因を追い詰め、最後は後を追うと言っているようなものだ。
そうならないよう、ビビアンも平穏無事に長生きしたい。
「そういえば、もうユーリに両親がかけていた魔術は完全に解けてしまったのよね?」
「その点だけは、あの元聖女も役に立ったかもしれないな」
「それは、もしかして、魔力暴走しかけていた、あれ?」
「ああ。魅了魔術は、ビビへの想いを無理矢理別人に向け、上書きするような魔術だった。怒りのあまり魔力暴走しかけたのがよかったのだろう。両親が残した魔術は私の怒りで感情が傾いたうえ、魔力暴走という決定打で、綺麗に消えてしまったらしい」
「よかった……」
「これで、いつでもビビに愛を囁くことができる」
「もう、真面目に心配したのよ?」
そう言いながらも、ユリウスからは微塵もこれまでの苦悩は感じられず、少々ほっとする。
魔術についてユリウスから直接話を聞いた時、彼は本当につらそうだった。
「そうだ。魅了魔術は? 防ぐ方法がないんでしょう? なんで、防ぐことができたの?」
「魔力暴走で打ち消せた。宮廷医と筆頭魔術師の診察を受けたから間違いない。あの元聖女と私では、私の方が圧倒的に魔力量が高い。それで、暴走した私の魔力を縛ることができず、吹き飛んだようだ」
「結果的に、アイリがユーリを怒らせてしまったから、助かったのね」
そう言うビビアンに、ユリウスは首を横に振る。
「それは違う。今まで、ビビが私の感情を解放させてくれてきたから、最後に抗うことができたんだ。だから、ビビのおかげだ。ありがとう。心から、感謝する」
そうして少しの間を置いた後、ビビアンに尋ねる。
「……ビビは、婚約する前のお茶会でのことを覚えているか?」
「ユーリに会ったことは覚えているけれど、何か特別なことがあったかしら?」
「そうだな。私にとっては。私は幼い頃から、魔力量が多く、魔力暴走の規模も桁違いだったらしい。それで、両親は別として、世話をする侍女や侍従には怖がられていたそうだ」
それは知らなかったとビビアンは、続きを聞く。
「そんな状態だったから早めに魔力相性が良い婚約者を選んだ方がいいと、両親が茶会を開いたんだが……。その茶会でも、私は恐れられるばかりだった。そんな中、ビビだけが私を怖がらなかった」
「鈍かったんじゃない? わかっていなかったとか」
「いや、そんなことはない。『怖くないのか?』と尋ねた私に、しっかりと自分の言葉で答えていた」
「……その時の私は、なんて答えたの?」
「全く覚えてないのか?」
「……そうね。でも、言いそうなことなら思いつくわ。たとえば『怖くない、だって、ユリウス殿下が、私をお姫様にしてくれるんでしょう?』とか?」
「ほとんど正解だ。流石、ビビだな」
「本人だもの! でも、『ほとんど』ということは、他にも何か言っていたの?」
「ああ。『魔力が高いってことは、強いってことでしょう? 強くて私を守ってくれる王子様なんて、憧れる』と。だから、魔術の腕前も磨いてきた」
過去の自分の言動に、頭痛がする。
「……よく腹を立てなかったわね」
「そんなことはない。あの時、キラキラした瞳を向けてくれたビビに、私は恋をしたんだ」
「え……?」
思いがけないことを言われて、足が止まった。
ユリウスも立ち止まり、ビビアンをじっと見つめる。
「ビビを、愛している。必要なら、この気持ちは生涯変わらないと何度でも誓おう。……どうか、ビビの気持ちを教えてほしい」
「……初夜に離婚と言ったのを取り消すわ。ユーリ、私も、あなたを愛してる」
そう言った瞬間だった。
きつく抱きしめられた方思うと柔らかな感触が唇に触れる。
驚いて、ただユリウスを見つめるビビアンに、ユリウスは言う。
「約束は守った」
そうして再び重なる感触に、ビビアンも静かに目を閉じるのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今作は自分なりに悪役転生もの、お仕事をする主人公を書こうと思って書き始めましたが
ビビを書くのがとても楽しくて、連載期間が長かったような一瞬のような、そんな気持ちです。
この物語に最後まで付き合ってくださって、ありがとうございました。
連載中のリアクションやブクマ、★評価、ありがとうございました。
大変活力をもらっていました。
もしよかったら、今後の活力にいたしますので、
★評価やブクマ、残していってくださると嬉しいです。
たくさんの物語の中からこの小説を見つけて読んでくださって、本当にありがとうございました。




