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48.夜会で聖女アイリと話すわよ!

 ビビアンが到着すると、アイリがユリウスに近づこうとしているところだった。

 ユリウスはそれを拒否していて、不快気に眉を寄せ護衛の騎士に間に入るようにハンドサインで指示を出している。


 ただ、騎士の制止をアイリは全て無視しているうようだ。


 アイリが聖女であるということと、まだ皇帝への致命的な不敬を犯していないことから、騎士も無理に拘束はできないらしく、なんとかユリウスに触れようとするのを阻むので精一杯の様子だった。


 お目付役で同行したと思われる神官長は、別の貴族と話し込んでおり、こちらに気づいてはいない。

 それらを見て取り、ビビアンはユリウスに腕を絡ませアイリを牽制する。


「ご機嫌よう、アイリ様。学園卒業以来かしら。ユーリだけじゃなくて、私にも話しかけてくださればよろしいのに」


 隣で、明らかにほっとした気配がする。


「……ビビ、すまない。だが、来てくれて助かった」

「いいわ。話が通じない人みたいね」


 小声で囁きあう二人に、アイリは顔を歪ませる。


「なんでそんなに親しげなのよ……! それに、何よ、そのドレス。愛されてるって、形だけでも整えようとしたのかしら……! でも、そうしていられるのも今日までよ!」


 小さな声が聞こえた後、アイリが一瞬口許を歪ませるのを見た。

 何か企んでいるようだと、警戒を強める。

 だが、アイリはすぐにその表情を消し、可愛らしい笑顔を作ると言う。


「皇妃殿下、お久しぶりですね!」

「ええ。それで二人で、何を話されていたの?」

「あのっ、私……陛下に、聖女の祝福をおかけしたくて! すぐにすみますから、皇妃殿下は陛下から少し離れていただけますか?」

「聖女の祝福……? 聖女様に伝わる魔術があるの?」


 そんなもの、原作に出てきただろうか。

 思わず考えるビビアンの横で、ユリウスは断りを口にする。


「先程も断ったが、気持ちだけで結構だ」

「いえっ、末永く陛下の治世が続くよう、祈りをこめましたから、どうぞ受け取ってください!」


 なんとしても、祝福をかけたいという様子のアイリに、ユリウスがはっきりと告げる。


「わざわざ祝福をいただかなくとも、私にはビビがいる。二人でよき国となるよう頑張るつもりだ。どうか、聖女殿も私達の気持ちを汲んで何もせず見守っていてほしい」

「ユーリったら……! でも、その通りね。聖女様の祝福は、それを必要とする民に授けたらいかがかしら。まだ話していない方も多いので、私達はこれで失礼するわ」


 アイリに背を向けた、その時だった。


「こんなに言ってるのになんで断るのよ! だったら、私にも考えがあるわ!」

「え……?」

「ビビ! 危ない!」


 気がついた時には、背後に魔術の光が迫っていた。

 咄嗟にユリウスがビビアンを庇う。

 アイリが放った魔術だと気がついたのは、アイリの高笑いが響いた後だった。


「あはははは! ユリウスが、自分から私の魔術を受けてくれるなんて!」

「ユーリ!?」


 ユリウスは障壁を展開しながら魔術を打ち消そうとしたようだが、完璧にはいかなかったらしい。


「だいじょう……、くっ――」


 ユリウスが胸を押さえる。


「あなたっ、ユーリに何をしたの!」

「あら、祝福を授けると言ったじゃない。皇妃殿下は、もうお忘れかしら」

「でも、それならなんでこんなに苦しそうなのよ!? ユーリ、どこか痛むの?」


 アイリの周りを騎士が囲み、拘束する。


「いたっ! 何するのよ! 未来の皇妃にそんなことをして、許されると思っているの! ユリウス! 彼らを止めて!」


 絶句するビビアンに、アイリは笑ってみせる。


「ふふ、そこで、見ているといいわ! 皇帝ユリウスが、私のモノになる瞬間をね!」

「――……なっ! なんですって!?」


 あまりにも自信満々なアイリの様子に騎士は動きを止める。


「ユーリ……?」

「ユリウス! 早くして!」

「……ビビ、大丈夫だ」


 ユリウスは苦しげな息を吐きつつも、ビビアンに微笑む。

 その瞬間だった。

 ユリウスの体から魔力が溢れ、爆発的な勢いで大広間に満ちる。


「なにこれ!?」

「ユーリ!」


 圧倒的な魔力の本流に、大広間にある全ての物が氷で覆われるが、ビビアンや他の人達は無事のようだ。


「なんてこと……」


 凍り付いた会場を見て、招待客や、接客を担当する侍女や従僕は、恐怖に顔を引きつらせたままユリウスを見ている。

 アイリの顔も恐怖に歪んでいた。

 それを見渡し、ユリウスは隣にいるビビアンに尋ねる。


「すまない。ビビまで怖がらせたか?」

「いいえ。だって、ユーリは私達が凍らないよう頑張ってくれたんじゃないの?」

「……っ! ビビは、いつも私にほしい言葉をくれるな」


 微笑んでいるはずなのに、どこか泣きそうに見える横顔に、ビビアンは言う。


「でも、この状況の説明はしてほしいわね……?」

「後で話す。今は、皇帝に対し魅了の魔術を向けた罪人を連れていってもらわねばならないからな」

「え……?」


 その言葉で、皆がアイリに注目する。


「魅了なんて! 私がやったのは、祝福よ!」

「私の言葉を否定するというのか! 近衛は何をしている。さっさと連れて行け!」


 ユリウスの指示に、騎士がキビキビと動き出す。

 アイリと、離れたところにいた神官長も共に連れて行かれるようだ。


「皆、騒がせてすまない。少々会場が寒すぎるな」


 ユリウスが手を一振りすると、会場の氷は光に変わり、キラキラと光りながら消えていく。


 ユリウスの指示で、全員に新しいグラスが配られた。

 ただ、先程のアイリの言動を見て、学園での噂を思い出した人達もいるようだ。

 あの頃のユリウスはビビアンと距離を置き、アイリと共に過ごす時間の方が圧倒的に多かった。


――実は、皇帝陛下は学園時代に聖女様と愛を誓われていたのでは。

――公爵家の後ろ盾がある、皇妃殿下を蔑ろにはできまい。

――さらに、石けんや回復薬は、皇妃殿下の功績が大きい。結婚早々、離婚はできますまい。


 そんな囁きが聞こえ、眉を寄せる。

 不快に思ったのはビビアンだけではなかったようだ。


「ビビアンは、私が乞うて迎えた妃。婚約する以前より、私の愛はビビアンにだけ捧げられている。私の麗しき薔薇、ビビアン」

「なっ、何かしら……!?」

「結婚式で誓った言葉、裏切るつもりはない。命尽きるその時まで、私の愛は変わらぬと生涯かけて証明しよう」


 ビビアンの手の甲に唇を寄せるユリウスに、ビビアンも誓う。


「私も、生涯を掛けて、ユーリに愛を捧げ続けるわ」


 先程、聞こえていた批判的な声は聞こえなくなり、拍手で包まれる。


 うっとりとビビアン達を羨ましそうに見つめる令嬢や、「やっぱり新婚ってお熱いわねぇ」と暖かい目をするご夫人達。若干、うらやましそうに隣に並ぶ夫とユリウスを見比べている人もいる。


 聞きたいことはたくさんあるが、ひとまず「実は皇帝陛下は聖女アイリを愛していた」なんて噂が今後出ることはないと思いたい。


 そして、再度の乾杯が行われ、会場は再び賑わいを取り戻したのだった。

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