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43.ユーリの魔術の解き方がわかったわ!

「それで、どこまで聞いた」

「ユーリが精神系魔術をかけられているというところまでよ。他は聞いていないわ」


 ユーリがエリックを見ると、彼は頭を下げた。


「陛下、申し訳ありませんでした」

「何についての謝罪だ?」

「皇妃殿下に、陛下の魔術のことを伝えてしまいました」

「そのようだな。エリックが無闇に秘密をしゃべるとは思えない。理由を聞こう」

「先日、ノークス領でお会いした時、陛下にかけられた魔術が解けかけてました。最近は、聖女様も来られてません。皇妃殿下が何かされたと思って……。尋ねてしまいました……」

「魔術が、解けかけている……?」

「ご自覚、なかったですか……?」


 びっくりした顔をする二人に、ビビアンは首を傾げる。


「結局、ユーリにかけられた魔術って、どういうものなの?」


 初めから話してほしいと言うと、ユリウスは頷いた。

 エリックにも改めて座るように言って、二人で話を聞く。


「魔術の制限でどこまで話せるかはわからないが、こうなったからには可能な範囲で話しておこう」


 そして、ユリウスはお茶を口にして、話し始めた。


「私には、感情をおさ――――」


 それ以上は、どうしても言葉にできないようで、ユリウスは苦しげに眉を寄せる。


「えっ、ユーリ? 大丈夫? 無理しないで」

「いや、無理はしていない……。以前は、そもそも魔術についての内容を一言さえ声にできなかった。魔術が解けかけているというのは、本当のようだな」


 ユリウスは驚きを浮かべている。

 その姿を見つつ、彼が言おうとしていた言葉を予測する。

 先程、彼には精神系の魔術がかけられているとエリックから聞いたばかりだから、想像はつく。


「もしかして、ユーリには感情を抑える魔術がかけられている?」


 エリックがすごいという目でビビアンを見る。

 だが、あそこまでヒントを与えられていたのだ。流石に分かる。

 ユリウスは頷く。


「そもそもの始まりは、私がビビと婚約できて舞い上がってしまったことにある」


 要約すると、婚約後ビビアンの望みをなんでも叶えようとするユリウスに、彼の両親が感情を抑える魔術をかけたのだそうだ。

 反動で、感情の起伏がなくなってしまったが、それも学園卒業を目処に両親に解いてもらう予定だった。

 だが、彼らは事故で儚くなってしまい、解き方のわからない魔術だけが残ったということらしい。


「それで、婚約した後、しばらくしてから態度が変わったのね」


 婚約直後のビビアンの望みをひたすら叶えてくれていたのに、突然態度が変わって戸惑ったものだ。


「あの時はすまない。嫌な思いをさせてしまっただろう」

「あら。私こそ。あの頃はわがままばかりだったから……。今思うと、とんでもないことばかりねだっていた気がするわ。よく婚約を解消しようと思わなかったわね」

「ビビのわがままは可愛いらしいものばかりだったからな」

「ユーリってば……」

「今も、もし願いがあるのなら、遠慮せず口にしてほしい。ただ、願うのは私にだけだ。ビビの願いを一番に聞いて、叶える特権は私だけのものだ。誰にも譲らない」


 真剣な顔で言われて、思わず頷く。

 ふと、必死で目を伏せているエリックが目に入り、咳払いをする。


「ごめんなさい。話を戻すわね。それで、私にはユーリの魔術を解いている自覚はなかったんだけど、ユーリの方には?」

「私もないが……いや、あるな」


 エリックが身を乗り出す。


「詳しく、教えてもらえますか。きっかけとか、ありましたか?」

「ああ。初夜でビビに……離縁を切り出されたのが切っ掛けだろう」

「えっ」

「あの時、魔力暴走を起こしかけた。あんな風に暴走を起こしかけたのは、両親に魔術をかけられてから初めてだ」

「確かに、部屋中が凍り付いていたわね」


 エリックが尋ねる。


「……少し前に、陛下が微笑みを浮かべていたと、侍女が騒いでました。何か思い当たる節はありますか?」


 少し考えた後、ユリウスは口にする。


「植物園にデートに行ったことだろうか」

「あの時は、魔力暴走は起きてないわよ?」

「だが、嬉しいことがあった」

「そ、そう?」


 ユリウスは詳細を口にしないが、そういえばあの時ビビアンから頬にキスを贈ったことを思い出し、頬を染める。


「たぶん、感情の、揺れが、原因?」

「どういうこと?」

「強く感情が動いたら、魔術が解ける」

「解けるのか!」

「……たぶん。繰り返し、感情が揺れて、魔術が解けていってるから。可能性は高い、です」

「そうか……。長年、誰にもどうにもできなかったというのに……。エリック、謎を解いてくれて感謝する」


 礼を言われるが、エリックは首を振る。


「全部、皇妃殿下のおかげ」

「ああ。そうだな。ビビ、ありがとう」

「いえ、私は、特に何も……」


 していないと言おうとしたところで、ユリウスがビビの手を取る。


「完全に魔術を解くため、ビビにはこれからも協力してもらいたいのだが、頼めるだろうか」

「それは構わないけど」

「よかった。なら、毎日、もう少し一緒に過ごす時間を増やそう。ノークス領から帰ってきて、ビビと顔を合わせる時間が減ったと感じていた」

「それは、私もよ」


 寂しく感じていたとは言わないが、ユリウスは嬉しそうな表情をしているから、伝わってしまっているだろう。


「エリックも、何か思いつくことがあったら、いつでも言ってほしい。試してみる」

「かしこまりました」


 そんな会話をするユリウスとエリックの様子を眺めながら、ふと前世の記憶の中にヒントがないかと思いつく。

 話の内容を思い出していると、ふと思いつくことがあった。


(もしかして、マンガの中のユリウスも、同じ状態だったのかしら……?)


 マンガの中のユリウスは、最後まで一貫してビビアンに冷たい態度のままだった。

 あれは魔術による作られた姿だったのかもしれない。

 ビビアンも、贅沢に耽るだけで、今のようにユリウスとの関わりを持っていなかったため、魔術が解けないままに時間が進んでいったのだろう。


(でも、だったら、どうしてマンガのユーリは離縁を言い渡したのかしら……?)


 初夜で離縁を切り出され、長年解けなかった魔術にヒビが入るほどに、ユリウスはビビアンとの離縁を嫌がっていたのに、その点が謎だ。

 でも、マンガと現実は違うと思うしかないだろう。


(もしかして、完全にユーリの魔術が解けたら、私が断罪される可能性もきっとゼロになるということ……?)


 ユリウスも、自分の感情を表に出せないのは窮屈に感じているだろう。

 ビビアンにできるのは、早くユリウスの魔術を解くことができるよう協力するだけだと、気持ちを切り替えるのだった。

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