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42.ユーリの秘密を聞き出すわよ!

 劇団の面談に付き添った一週間後。

 ビビアンの執務室には、宮廷魔術師のエリックがやってきていた。


「皇妃殿下、お久しぶりです」

「ええ。伯爵領ぶりね。先日は、報告書をありがとう。順調そうだったけど、もしかして、あれから薬草畑に何かあったの?」

「違います。今日は、これ作ったから見せにきました」


 そう言って、エリックが見せたのは魔石が埋め込まれた大型の散水機だった。


「これは?」

「埋め込んだ魔石から魔力を吸って、水に付与して撒く魔道具です。魔力水、沢山作るの大変だし、誰でもできるといいってビビアン様が言われてたから」

「もうできたの!? 早いわね。エリック、ありがとう」

「……大げさです」

「それでもよ。そうだ。これ、実際に動いているところが見てみたいわ」


 ビビアンの言葉に、すかさず侍女が裏庭はどうかと提案してくれる。

 エリックにも異存はないようで、外で性能を確かめることにした。


 裏庭の芝生に設置して、エリックが遠隔の部品で魔道具のスイッチを入れる。

 すると、魔力水が散布されはじめる。


「まぁ! すごい!」


 結構な範囲にキラキラと水が飛び、ビビアン達はそれを眺めた。

 動作は申し分ない。


「改善点、ありますか?」


 エリックは何か気になるようで、ビビアンに尋ねる。


「言うことはないわよ! ただ、そうね……。これ、毎回スイッチを押さないと、水の散布はできないのかしら」


 エリックは頷く。


「なら、これは提案だけど、タイマー機能をつけるのはどう?」

「タイマー、ですか?」

「ノークス領では一日二回水やりをするっていっていたから、最低二回、時間になれば勝手に水まきを初めてくれる設定にできたら、毎回誰かにスイッチを押してもらう必要はないでしょう?」

「……! やってみます!」


 気分を損ねないか心配だったが、エリックは表情をきらめかせて頷いている。


「それと、これ、専売法に登録は?」

「……? していません」

「なら、急いでしましょう。エリックの名前でいいかしら」

「えっ」


 驚いた顔をするエリックに、ビビアンは微笑む。


「なんで驚くの? エリックが作ってくれたのでしょう?」

「でも、考えたのは皇妃殿下です……。僕だけじゃ、思いつかなかったから」

「え、でも、私だけでも、作れないわよ」


 魔道具を作り出す知識はない。

 悩んでいると、珍しくエリックが言う。


「二人の名前で登録するのは、難しいですか?」

「確かできたはずよ。けど、本当にいいの?」

「半分こが、いいです」

「いえ、権利半分はもらいすぎだから、一割で良いわ」

「少なすぎます。タイマー機能も皇妃殿下のアイディアです」


 そんな問答を繰り返し、なんとかビビアンは三割のアイディア料をもらうことで落ち着いた。


「では、手続きはこちらで進めておくわね」


 エリックは頷くと、ふと躊躇うようにビビアンを見る。


「……少し、内緒の話したいです」


(何かしら……?)


 そのまま庭の東屋にお茶の準備をしてもらい、侍女には離れてもらうことにした。


「これで、ここでの会話、誰にも聞こえません」


 エリックはその上、盗聴防止の魔術を掛けて、安心した表情を浮かべる。


「わかったわ。それで、話というのは何かしら?」


 エリックから個人的な相談をされる程に親しくはないはずだ。

 予想すらつかず尋ねると、エリックが言う。


「陛下にかけられた魔術を、皇妃殿下はどうやって解いているのですか?」

「えっ!? 陛下って、ユーリのことよね?」


 なぜそんなことを聞くのかと、エリックは疑問を浮かべているが、説明がほしいのはビビアンの方だった。


「確認だけど、ユーリに、何か魔術がかかっているのね?」


 エリックは頷く。


「それで、それを私が解いている?」

「全部は、まだ、です。けど、かなりの部分が、解けてきてます」

「なるほど?」


 そう言ってみたものの、全然、意味がわからなかった。


「もう少し、詳しく聞いてもいいかしら」


 全く事態を把握していないビビアンに、エリックは不安そうだ。


「陛下から、聞いてない、ですか……?」

「ええ」

「なら、言っていいか、わからないです……」

「そうよね。なら、私が思いつきを話すから、それがあっているか間違っているか教えてちょうだい。詳細は、後でユーリに確認するわ。エリックが罰せられるようなことはないと約束する」


 うーんと考え込むエリックに、たたみかける。


「それに、私は皇妃よ。夫のことを知るのに、何か問題があるかしら? エリックは首を振るだけでもいいから、教えてほしいの。夫に魔術がかけられているなんて、心配で……」

「……それなら」


 ビビアンの必死な様子に、エリックも頷いてくれた。


「ユーリにかけられている魔術は、体調を損ねたり、命を削ったりするものかしら?」


 首を横に振る様子に、ほっとする。


「よかった。なら、精神に作用するもの?」


 頷いたエリックに、ビビアンは問う。


「精神系の魔術なら、宮廷魔術師や、聖女様には頼れなかったの?」


 どう答えようかと首を傾けるエリックに、思いついたことを追加で問う。


「もしかして、頼ったけど、効果がなかった……?」


 今度は迷いなく頷いたエリックに、ビビアンは驚く。


「なのに、そんな手強い魔術を私が解いている……?」


 そんなこと、果たして現実にできるのだろうか。

 しかも、ビビアン自身、ユリウスに魔術を使ったり、魔術を解くような行為をした覚えはない。


「……もしかして、魔術が解け始めたのは、結婚後かしら?」

「この間、ノークス領でお会いした時に、気がついたから……たぶん」


 頷いた後、エリックは自信なさげな小さな声で補足する。

 だが、婚約期間はほとんど会うことはなかったし、ユリウスも定期的に聖女アイリと会っていた。

 ビビアンがユリウスの魔術を解きかけているというのは、結婚後のことで間違いないだろう。


 ふと、結婚初夜に、ユリウスに「アイリを愛しているのではないか」と尋ねた時のことを思い出す。


(あの時のユーリは『必要があるから皇宮に通っていただけ』みたいなことを答えていたわね)


 つまり、あの時のユリウスは態度は冷たかったものの、嘘は言っていなかったのだ。


 少しだけ見直していると、遠くから喧噪が聞こえてきた。


(なにかしら……?)


 視線を向けると、ユリウスがすごいスピードでこちらへやってくる。

 あまりご機嫌はよろしくなさそうだ。


 ぱっとエリックが防音魔術を消し、立ち上がると頭を下げる。


「ビビ、エリックと二人で何をしていた」


 それこそ、初夜以降初めて聞く怒った声だったが、ビビアンは不思議とあまり怖いとは思わなかった。


「ちょうどよかったわ。ユーリ、あなたのことを聞いていたのよ」

「は?」

「ただ、エリックも、勝手にユーリのことを話すのはよくないって言うから、一方的に私の憶測を聞いてもらっていただけだけど。ただ、内容は機密に関わりそうだから、防音魔術を使ってもらっていたの」

「そうか……」


 ユリウスが、エリックを見る視線が緩む。


「もしかして、私がエリックと浮気していると思ったの?」

「…………移動中に二人の姿を見かけたから気になっただけだ。防音魔術も使っていただろう」

「あら、見られていたのね」


 ビビ達のいる東屋がある場所は、高い木もなく、視界は良好だ。

 浮気をするにしても、こんな場所で密会はしない。


「それで、納得してくれたのなら、私もユーリに聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ」

「ユーリにかけられている魔術のこと。私にも、教えてくれるかしら」

「…………その話か。話せることはあまりないが、それでいいなら」

「もちろんよ」


 侍女に追加でお茶を頼み、エリックにも同席するように告げる。

 巻き込まれたエリックは顔を青くしながらも、防音魔術を使ってくれたのだった。

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