39.帝都へ帰るわよ!
ノークス伯爵領滞在五日目。
途中トラブルはあったものの、本日、ビビアン達は帰路につく。
城の前で、ジョージに見送られ、ビビアン達は別れを告げた。
「男爵、それでは達者で。貴殿なら、この領地を立て直せると期待している」
「過分なお言葉、大変ありがたく存じます。陛下のご期待に添えるよう、ひたすらに力を尽くしたいと思います」
今後、ジョージは前伯爵と執事が行った不正の後始末をしつつ、領地を立て直すことになる。
苦難が多いだろうが、その表情はどこか晴れやかだ。
「世話になったわ。村の件、こちらでも希望者を募ってみるから、結果がわかれば連絡するわ」
「あのようなことがあったのに、この領地のために動いてくださるのですか……」
驚愕の表情を浮かべるジョージに笑ってみせる。
「あら。今後も、薬草のことでわからないことがあったら、聞くつもりなの。その時は、よろしく頼むわね」
「もちろんです。いつでも、お聞きください。皇妃殿下にも、領地のことで、大変ご迷惑をおかけしました」
捕縛された伯爵達は一足先に皇都へと送られている。
度重なる不祥事に、ノークス伯爵領は男爵領へと降爵され、ジョージが男爵家を継いだ。
継母や、その娘達は、離婚して生家に帰ることを希望していた。
ジョージとしても、流石に自分を冷遇していた彼女達を養う気はないようで、もし生家に受け入れを拒否されたら、修道院に行ってもらうことになるだろうと話していた。
上級回復薬に偽装して売ってしまった回復薬については、少しでも信頼回復に努めるため、販売記録を遡り弁償あるいは交換を行うそうだ。
男爵領に余裕はないが、必要なことだと話していた。
そんなジョージならば、男爵領を立て直すことができると思っている。
また、前ノークス男爵の隠し子であるクロビスの存在については、今の段階ではジョージにのみ伝えてある。
ジョージは、クロビスの意見を聞いて判断したいと言っていた。
どちらを選ぶにしても保釈金は払うので、異母弟としてでも、ただの雇われ魔術師としても、できたら男爵領に来てくれたら嬉しいという希望を聞いている。
不祥事を起こした男爵家とは関わりたくないのなら仕方がないが、男爵領的には、少しでも人手がほしい。
特に、上級回復薬の製造に携わっていた魔術師も捕縛されてしまった。
魔術師の資格を持つクロビスが希望するなら、男爵領で働くことも考えてほしいという話だった。
「色々あったけど、全ていい方向に行きそうね」
「ビビとの初の遠出が、仕事漬けで終わってしまったな」
ユリウスは少し残念そうだ。
「あら。また、旅行は旅行で行けばいいじゃない。今回は、私も仕事が目的だったもの」
「そうだな。必ず行こう」
そうして、ユリウスのエスコートで馬車に乗り込んだ。
皇都に帰宅した翌日。
執務室に向かうと、ビビアンの机には手紙が溜まっていた。
標準的な皇妃の公務を受けているわけではないので書類は少ない。
代わりに手紙が山のようにたまっている。
面会を望む高位貴族からの手紙や、孤児院関係で面会やビビアンの判断を求める手紙が来ており、全て侍女では判断できない内容だ。
(五日も空けたのだもの、仕方がないわよね。でも、私でこれなら、ユーリはどれくらい溜まっているかしら……)
ユリウスは、この状態を見越していたのだろう。
しばらくは忙しくなると言っていた。
二つ、三つ、書類の塔が建っているかもしれない。
そんなことを考えつつ手紙に目を通していると、宮廷魔術師のエリックから手紙が届いていた。
どうやら、ビビアンの薬草畑で進展があったようだ。
(遠出した甲斐があったわね……!)
早速魔力水を与えてくれたらしく、薬草は元気を取り戻したと書いてある。
くだいた魔石を土に混ぜ込む方法も試してくれたようで、そちらの方法でもうまくいっているらしい。
ただ葉が完全に枯れている部分が多いため、回復薬はまだ作れていないそうだ。
一度、株元まで苗を切り戻し、成長を待ってから作るため、時間がかかるということだった。
それでも、回復薬の元となる薬草は成長が早い。
1ヶ月もすれば結果は出るそうだ。
そのまま続けてもらうように手紙を書き、孤児院関係の手紙を読む。
孤児院長のノエミからも手紙が届いていた。
できたら、ビビアンと会って話したい用件があるそうだ。
(相談、かしら……?)
食料も衣服も、今後の運営資金も問題はないはずで、心当たりが思い浮かばない。
(今日は……厳しいかしら。明日、向かうと連絡してもらいましょう)
マクシムに手配を頼み、残りの手紙にも目を通していく。
(お茶会のお誘いも多いけど、そちらはもう少し回復薬事業が安定してから考えましょう……。今はまだ無理ね)
全ての誘いに丁寧に返事を書いていくのだった。




