表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

26.コンサート本番よ!

 会場の予約を押さえた後は他の問題が起きることも無く、ビビアン達は慌ただしく準備期間を過ごした。


 当日の衣装や、劇場までの馬車の手配、リハーサルなど様々な準備を行う必要がある。

 流石に大劇場でのリハーサルは無理だが、ギブソン男爵の商会が運営する石けん工場の人達の前で歌わせてもらったりだとか本番を見据えての公演を重ねた。

 おかげで人前で歌うことについて、子供達も少しは慣れてくれたのではないかと思う。


 ちなみに、その際にはユリウスの魔術での演出は合わせていない。

 子供達の歌声だけでも評判は上々だ。

 そうした日々を過ごしていると、あっという間に本番の日を迎えることとなった。



 演奏会当日。

 午前中のスケジュールは予定通りに進んでいた。

 朝一で楽屋入りし、そのままリハーサルだ。

 途中でユリウスが合流し、演出などの最終調整を重ねる。

 そして、午後のこれからが本番だ。


(どうか公演が成功しますように……)


 昼休憩を取っている子供達を楽屋の端で見つめていると、いつの間にか隣にきていたユリウスがビビアンに声をかけてきた。


「緊張しているのか」

「練習通りにやればいいとわかっているのだけれどね。少し感傷的になっていたみたい」

「心配する必要はない。ビビはよくやっていた。もちろん子供達の歌声もすばらしい。だがピアノの伴奏も練習していたし、魔術と合わせるために編曲もしていただろう。この会場を借りるためにも色々手を尽くしていたとも聞いている」

「あら、全部私一人の力で出来たわけではないわ」

「……謙虚だな」

「そういうのじゃないわよ」


 目を細めるユリウスに、ビビアンは言う。


「魔術はユーリの協力のおかげだし、この会場を押さえるのも、公演会に興味を持ってくれた人がいたからよ」


 少し前であれば出てこなかった言葉だが、それは今の素直な気持ちだった。

 正直、ピアノの演奏と魔術の演出と、どちらもビビアンが担当していたら、今回練習してきたような複雑な演出はできなかっただろう。


「私も夫として、妻の慈善活動に協力できて嬉しい」


 照れたように頬を染めるビビアンに、ユリウスがそっと手を伸ばしたその時だった。


「みんな聞いてくれよ!」


 楽屋の入り口で、リックが大きな声を出して注目を集める。


「ギブソン商会の人から伝言だ! バザーで孤児院の販売品は全て売り切れたそうだ!」


 その声に、皆は歓声を上げた。

 どうやら商会から使いの人がやってきており、リックは伝言を預かっていたようだ。


 孤児院の子供達が作った石けんや刺繍を施した小物は委託料を払い、ギブソン男爵の商会に置かせてもらっていた。

 どちらも在庫はそれなりに用意していたはずだが、もう売り切れてしまったのか。


「まぁ! 売り切れ! ユーリと作った物も好評だったみたいね!」


 振り返ると、ユリウスは少し名残惜しげな表情をしている。

 少し気になりつつも、そのまま話しかける。


「皆で頑張って作った物が売れるとこんなに嬉しいのね!」


 最初に作った物は人に配るだけで終わったし、それ以降はギブソン商会が石けんの製造販売を担っている。

 どちらもビビアンは関わっているが、自分が製作に関わった物が売れるのは今回が初めてだった。 


「……よかったな」

「ええ。嬉しい」


 話している間に、本番の時間が近づいていた。


「そろそろ時間ね。ユーリのおかげで緊張はほぐれたわ。本番、頑張りましょう」


 そしてユリウスと共に、子供達の方に向かう。

 ノエミにも声をかけ、舞台に行く準備をするが、全員緊張で顔が強ばっていた。


「みんな、少し緊張しているかしら。でも大丈夫。今までの皆のがんばりは、私が知っているわ。技術は完璧よ。今日は自分たちが楽しむことを考えて。そして、お客様にもその楽しさを感じてもらいましょう!」

「はい!」


 良い知らせも聞いたことで、子供達も明るい様子だ。

 この調子なら大丈夫だろう。


「では、本番の舞台に向かうわよ!」


 そうして、皆で舞台へと向かった。



 配置に着くと、幕が上がる。

 客席に一礼し、ノエミの指揮に呼吸を合わせ演奏を始めた。

 最初はノエミも自信なさそうだったが、子供達が舞台で頑張るのだからと奮起してくれた。


 一曲目は「春の風」。

 ガラクシア帝国では知らない人がいない程に有名な童謡。

 前奏に合わせ、ゆっくりと流れるように花びらの幻影が舞い始める。


 演奏に集中しているビビアンの耳にもひそやかに客席に広がる驚きの声が聞こえた。


(ふふ、驚くのはまだ早いわ!)


 子供達の歌声が響き、曲の表現に合うように、花びらが動きを添える。

 最後には、ひときわ多くの花吹雪が舞い、一曲目の演奏が終了した。


「まさか、このような演出があるなんて感動したわ……!」

「さぞ高名な魔術師が協力をされたのでしょうな。皇妃殿下にそのような伝手があったとは……」

「子供達の歌声もなかなかのものね」

「故イベール伯爵が指導なさっていたようだぞ」


 万雷の拍手の後、そのような声が聞こえた。

 演奏中はおしゃべりを控えていたのだろう。

 皇宮の魔術師が協力しているのではないかとか、憶測が飛び交っている。

 しかし、ノエミが指揮棒を掲げると、すぐに客席に静寂が広まる。

 先程よりも真剣に、どんな歌と演出が繰り広げられるか期待している様子だ。


 客席からの期待を受け、ビビアン達は演奏を始めた。

 二曲目は『海のかもめ』。

 天井が空に変わり、入道雲と青い空を背景にかもめが飛ぶ。

 間奏の間に観客の間を縫うように飛ぶ幻影のかもめに歓声が上がった。


 三曲目の『たぬきの道草』では今度は足下が平原に変わり、たぬきが顔を出すといった具合だ。


 四曲目の『雪の子 風の子』は雪と風の精霊風の子供達が空中でダンスを踊る。


 最後の曲「銀色のお星様」まではあっという間だった。

 ユリウスも張り切ったのか、会場の天井が夜空に変わり、星が瞬く幻想的な空間に変わる。

 派手な演出ではないが、少しでも魔術の知識がある者はそのすごさがわかるのだろう。

 息を呑む声が聞こえた。


 子供達は歌に集中できているようで、客席の反応は気づいていないようだ。


(これで、終わりよ……)


 最後の一音を響かせると、ビビアン達は拍手に包まれた。

 立ち上がり、礼をする。

 そのまま幕が下りるまで拍手は絶えず、ビビアン達も頭を下げ続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ