24.コンサートの予約者名簿を埋めるわよ!
自分の執務室に帰ると、ビビアンはアイディアを書き出すために紙を広げた。
「さて、名簿を集めることになったけれど、どうしようかしら」
もともと、会場の確保ができればチャリティコンサートのことを広めるつもりだった。
順番が前後しただけと思えば良い。
「予約者名簿を作るかしら」
この世界にも、観劇の際はチケットの予約販売が行われているから、変には思われないだろう。
(でも、もしかしたら名前を控える理由は聞かれるかもしれないわね……)
それに、この世界で今までチャリティを目的としたコンサートが開かれたことがないのなら、お客を呼ぶ目玉商品があってもいいはず。
(となると、やはりアレが使えるかしら)
ビビアンは、ギブソン男爵を呼ぶよう侍女に言付けた。
その日の午後、早速ギブソン男爵はやってきた。
「お呼びと伺い、参上いたしました」
「まさか当日中に来てくれると思わなかったわ。無理をさせたかしら」
「いえ、殿下のお呼びです、何を置いても駆けつけます」
「助かるわ」
ビビアンの言葉に、ギブソン男爵は相好を崩す。
すでに石けん事業は稼働している。
平民向けの販売が始まっていて、ビビアンにも売り上げの一部が振り込まれていた。
その金額はかなりのもので、ビビアンが孤児院に使った金額以上の収入となっていた。
そのお金を孤児院への予算とすれば無理にチャリティコンサートを開かなくてもよい状態ではあるが、どうせなら寄付によらない収入を打ち立てたい。
「いえ、当商会の方こそ殿下にはお世話になっておりますので。既に平民向けの石けんは販売を始めておりまして、大勢から大変素晴らしいという声が届いております。民の生活を考えてくださる皇妃殿下に、卑小の身ではございますが、改めて忠誠を誓う所存です」
「大げさね」
ギブソン男爵はその場に跪き、ドレスの裾に口づけをする勢いだ。
だが、そこまで持ち上げられて悪い気はしなかった。
ちなみに、貴族向けの石けんは、これから売り出す予定だ。
平民向けの石けん作りで得たノウハウを使ってより良いものに改良していることと、石けんの熟成期間もあるため、販売開始まで時間がかかっている。
「それに、今日の話はあまりいい知らせじゃないのよ」
「どうなさいましたか?」
ギブソン男爵が尋ねる。
「それが、会場に予定していた帝国民ホールの貸し出し申請を却下されたの。孤児院の者達自ら演奏するコンサートなんて前例がないから、人が集まらないだろうって」
「なんと!」
顔色を青くするギブソン男爵に、ビビアンは言う。
「安心して。名簿が集まれば、予約はできるそうよ。ただ、そのせいで、早めに観覧予定者の名簿を集める必要がでてきたの。確か、観劇でも券の事前販売はあったわよね。それを導入できないかしら」
「確かに、そのようなやり方をしていると聞いたことがありますね……。では、私は急ぎ、予約チケットを準備すればよろしいですか?」
まさにビビアンが頼もうとしていたことを言われ頷いた。
「頼むわ。それと、チケットの販売も。私は貴族への告知は私が引き受けるわ。販売の際に、名簿を控えておいてね。平民への告知と、販売も任せるわ」
「かしこまりました」
「……あと、これは提案なんだけど」
「伺いましょう」
「事前に予約すれば、予約の席数に応じて石けんを進呈するというようにしたらどうかしいら。もちろん、その分の石けんの代金は私が負担するわ」
「それは……」
ギブソン男爵は、驚いたように息を呑む。
「貴族向けには、まだ販売していないでしょう? だから、石けんがほしくて予約する人は多いと思うわ」
「はい」
「それに、既に石けんを使っている平民も、普段よりも良い品が手に入るようにすれば、石けん目当てで予約しようと思う人もいるはずよ」
男爵は、ビビアンの言葉を考えているようだ。
「確認ですが、貴族にも配られるということは、石けんは一番良い品を考えておられますか?」
「いいえ。改良する前の石けんでいいと思っているわ。私が最初に渡した、匂いを付けていない、単純に海藻で作ったものね。貴族に本格的に販売する品でなければ、男爵の商会にも影響は出ないはずよ。それに、使ったらなくなる物だから、少し配ったくらいでは商会への影響は少ないと考えているわ」
「そこまで考えてくださっているのですね」
男爵は納得したように深く頷いた。
「でしたら、そのように進めましょう」
「感謝するわ。石けんは当日、会場でチケットと交換にするのはどうかしら。そうすれば、当日誰も見に来ないなんてこともないでしょうし」
「本当に素晴らしいお考えだと思います。そして、石けんの代金についてですが、そちらは当商会からご負担させてください」
「あら、気を使わなくてもいいわよ」
「いえ、そういう訳には参りません。石けん事業で既に利益を出させていただいております。この位の負担、むしろ背負わせてください」
「あら。売り上げは、私の方にも振り込まれているから、気にしなくて良いのに」
「いえ、当日のバザーの仕切りも私がさせていただいています。これくらいは、主催側の人間として、お手伝いをさせていただければと」
「そういうことなら、お願いするわね」
名簿を見る限り、ギブソン男爵が声をかけた商会は全て参加の予定のようだ。
慈善バザーに興味はなくても、石けん事業で名を馳せるギブソン男爵と知り合いたいと思っている商会も多いらしい。
ビビアンが声をかけるように言った、スミス子爵、フォスター男爵の商会も参加する予定だ。
(思った以上に、大規模になってきたわね)
バザーはホール前の広場で行うつもりだが、そちらでもかなりの集客が見込めそうだ。
(満足いく催しにしたいわね)
ビビアンは、男爵と詳細を詰めていくのだった。




