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23.売られた喧嘩、高く買うわよ!

「申請の許可が下りないですって?」


 翌日。

 執務室にやってきたビビアンは、朝一で書類の確認を行い驚きの声をあげた。

 演奏会のため、帝国民ホールの利用申請をしていたのに、否認されたようだ。

 否認した部署は施設管理課となっている。


(理由がわからないわ……)


 ホールの収容人数は五百人ほど。

 利用料さえ払えば、帝国民であれば誰でも借りることができたはずだ。


(大劇場の方ならまだしも、帝国民ホールが借りられないなんてそんなことあるかしら)


 帝国大劇場は帝国民ホールの五倍の広さで、貴族向けのオペラや演劇の催しが行われることが多い。

 帝国民ホールは規模が小さく、それより小規模の催しで使われる。


(直接、聞きにいってみるしかないわね)


 ビビアンは、席を立つ。 


「少しでかけるわよ」


 ビビアンは護衛としてついているマクシムに声をかけ、皇宮の施設管理課へと向かった。



 ビビアンの執務室がある区画とは違い、施設管理課がある区画は人の往来が多い。

 道行く官吏のぎょっとしたような視線を受けながら、進んでいく。

 向けられる視線から、どうやら誰もビビアンがこんなところに現れるとは思っていなかったようだ。


(まだ仕事をしない皇妃だという認識は覆せていないようね)


 皇妃としての公務は宰相府とユリウスが担ったままだ。

 孤児院の支援についても手応えは感じているが、それが広く人に知られるようなものかといわれたらそうでもない。


(でも、今気にする必要はないわね。私はやるべきことをやっていくだけよ)


 孤児院のノエミと子供達は、ビビアンの助けを必要としているのだ。

 まずは、彼らのことを守らなければならない。

 改めてそんなことを考えていたところで、施設管理課というプレートがかけられた扉が見え、ビビアンは足を止めた。

 中に入り受付の担当者に名前と用件を告げると、置くから慌ただしく課長のハリス子爵がやってくる。


「どうも。皇妃殿下におかれましては、本日もご機嫌麗しく存じます。当課にご用件があるとか。伺いましょう」

「ハリス子爵。ご機嫌よう。こちらの否認の理由が聞きたいのだけれど」

「拝見いたします」


 ビビアンが差し出した書類を受け取り、待っている間に中の様子を窺っていると働いている人の中に宰相子息の姿が見えた。


(ゴダール侯爵子息は、ここの所属だったのね)


 書類を見てハリス子爵は冷や汗を出しながらビビアンに尋ねる。


「こちらの件でしたか……。その、この件に詳しい者を呼んでもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ」


 ビビアンが頷くと、ゴダール侯爵子息が呼ばれた。


「ゴダール君、この申請が否認された理由を覚えているかね」

「はい、もちろん。私の方から説明しても?」

「あ、ああ、頼むよ」


 ハリス子爵とゴダール侯爵子息は、そんなやり取りを小声でしている。


(ゴダール侯爵子息が判断したということかしら。それなら納得ね)


 施設の維持や貸し出しの管理をするだけなら、そこまで有能な者が長をする必要はないのかもしれないが、これはあんまりだ。


(ゴダール侯爵子息に丸投げしていたのかもしれないわね)


 そこはかとなく無能の香りがするハリス子爵は、安心したようにゴダール侯爵子息に場所を譲る。


「こちらの否認の理由ですが、前例がないからです」

「は? どういうこと?」


 自信満々にふざけた理由を口にするゴダール侯爵子息を、ビビアンは思わず睨み付ける。


「まず、チャリティを目的とした演奏会の前例がありません。しかも演奏者は、有名な音楽家を呼ぶでもなく、孤児院の者達が行うと。誰が見に来るのですか?」

「あら、上流階級に慈善家は多いわ。貴族のご婦人やご令嬢方、裕福な方々は参加くださるはずよ」

「それは皇妃殿下がそう思われているだけでは? 帝国民ホールの貸し切りは金貨二十枚。わざわざ誰も来ない演奏会を開き、金貨二十枚を無駄にするより、その金額を寄付した方が、よっぽど孤児院のためになると思います」

「なら、参加者が集まれば、申請許可が下りるということね」


 ビビアンが確認するように尋ねると、ゴダール侯爵子息は歯切れ悪く頷く。


「それは、まぁ……。反対する理由はありませんからね」

「ふぅん。わかったわ。ところで、もう一つ聞きたいのだけれど」

「なんでしょうか」

「施設管理課は、いつから申請理由で貸し出しの要否を判断するようになったのかしら。帝国法には、借り手に借金がある場合には施設の貸し出しを否認できると記載されていたけれど、申請理由での判断は記載がなかったはずよ」

「それは……」


 口ごもるゴダール侯爵子息に、ビビアンはため息を吐く。

 ビビアンがそのようなことまで把握しているとは思っていなかったようだ。


(なめられたものね。これでも、皇妃になるための教育はきちんと受けているのよ)


 以前は、受けた教育を活用するつもりがなかっただけだ。

 それは確かに褒められたことではないが、今はもうビビアンも怠けるつもりはない。


(これは、ユリウスに言って監査を行ってもらうべきね)


 ビビアンの申請だからそのようなことをしたのか、今まで他にもやらかしていたのかはわからない。


「でしたら、皇妃殿下。申請書類をもう一度出していただければ……」


 ハリス子爵が顔色を青くしながら言う。


「結構よ。皆様に誰も観覧者がいない慈善演奏会を開くだなんて思われているなんて、私も耐えられませんもの。再申請時には観覧者予約名簿を添えてお持ちしますわ」


 そう言い捨てて、ビビアンは施設管理課を後にした。

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