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22.孤児院で石けんを作るわよ!

 ユリウスが演出を担当するにあたり、子供達の同意が得られるかという問題があった。

 ビビアンが皇妃だと既に知られているので、その夫のユリウスが皇帝だという認識は皆持っている。


「うーん、少しやり方を考える必要があるわね」


 ビビアンは計画を練ると、まずはユリウスに伝える。


「ビビがそのやり方で大丈夫と思うのなら、私は構わない」

「なら、それでいきましょう」


 そんな密談の後、いつものように孤児院へと向かった。

 到着後はすぐに音楽室に向かい、練習を始めるのだが、今日はその前に言うことがある。


「今日の練習を始める前に、皆さんに提案があるの」

「提案ですか?」

「なんだろう……?」


 顔を見合わせる子供達に微笑みながら、ビビアンは言う。


「歌に合わせて魔術で演出をすることを考えてみたのよ。今から皆の歌に合わせてやってみるから、感想を聞かせてほしいの。もし、いいと思う人が多いなら、本番でもその演出を使いたいと思っているわ」

「魔術の演出?」

「どんなのかな? 想像がつかないや」

「私も!」

「それは見てのお楽しみよ! さぁ、始めるわよ!」


 ビビアンが演奏を始めると、子供達も気持ちを切り替えたようだ。

 いつもと同じようにしっかり歌ってくれる。

 だがそれも、ユリウスが魔術を使うまでだった。


 ひらひらと濃い桃色の花びらが舞い始めると驚いたように一瞬歌が途切れ、その次のフレーズから歌はなんとか続いたものの、どうしても意識が魔術に取られてしまうようだ。

 なんとか一曲目を最後まで演奏すると、歓声が上がった。

 皆興奮して目を輝かせている。


「ビビアン様、今のとってもすごかった!」

「うん! とってもキレイだった!」

「魔術って、とってもすごいんだね!」

「では、本番でも魔術の演出を使ってもいいかしら?」

「もちろん!」


 声がそろった子供達に、ユリウスを見る。


「実は、今のはユーリが魔術を使ってくれたの。ユーリ、本番も頼めるかしら」

「もちろんだ」


 あっさりと頷いたユリウスに、子供達の方が混乱している。


「えぇっ、今の魔術、ビビアン様が使ったわけじゃないの?」

「ビビアン様の旦那様って、とってもえらい人でしょ……」

「この国で一番えらい人が、僕達のコンサートを手伝ってくれるの……?」


 子供達の声に、ビビアンは頷く。


「安心して。ユーリは、舞台の袖でお客様には姿が見えないように隠れて魔術を使うわ。皆も、今、ユーリが魔術を使ってるって気が付かなかったでしょう?」

「なら、大丈夫かな……?」

「ビビアン様は、今みたいな魔術は使えないんですか?」


 不安げに尋ねたフランに、ビビアンは頷く。


「難しいわね。ユーリの方がとっても上手なの。それに私はピアノを弾きながらになるし、皆がユーリに頼むのが嫌なら、残念だけど演出はなしの方向で行きましょう」


 ビビアンの言葉に、子供達は顔を見合わせる。


「魔術、絶対あった方がいいよね」

「うん」

「今の見ちゃうと、もう無理だよ……」

「てことは、俺達、皇帝陛下に魔術を使ってもらっいながら、歌うの……?」


 リックの声が、ぽつりと落ちる。

 静まりかえった子供達に、珍しくユリウスが口を開いた。


「私も、コンサートを成功させたいと思っている。よろしく頼む」


 ぽかんと口を開けていた子供達だったが、一番最初に我に返ったのはリックだった。


「……よろしく、お願いします!」

「コンサート、僕達も成功させたいです!」

「絶対、陛下の魔術があった方がいいです!」

「協力してください!」


 子供達も覚悟が決まったようだ。


「では、もう一度、今度は通しで練習しましょう。皆、気になると思うけれど、魔術ではなく、お客様を見て歌うのよ。真っ直ぐ前を向いて歌うことも意識してね」

「はい!」


 良いお返事をする子供達と共に、通しで練習をするのだった。



 練習が終わるといつもは自由時間としているが、今日は中庭で石けん作りを行う。

 材料や道具は、ビビアンが持ってきている。


「今から、コンサートの日に売る石けんを作るわよ」

「作っていいの?」

「ええ。待たせてごめんなさいね」

「大丈夫です! ビビアン様にはご事情があるってノエミ先生からも聞いています!」


 どうやら子供達へのフォローはノエミがしてくれていたようだ。

 後で、お礼を言っておこう。


 そんなことを考えている間に、集まってきた子供達と共にまずは道具を並べていく。

 時間がかかる灰は準備してきている。

 今回は貴族にも買ってもらうつもりだから海藻を燃やしたものだ。

 それと共に匂いの良いハーブを持ってきている。


「今回は、ハーブ石けんを作るの。道具を持ってきているから、これで細かくすりつぶしましょう」

「おままごとみたい!」

「楽しい!」


 男女共に楽しんでくれているようだ。

 子供達の作業をノエミに見守ってもらうよう頼み、ビビアンとユリウスはお湯を沸かして灰液を作る。

 台所でお湯を沸かそうと思っていたが、ユリウスが魔術でお湯にしてくれた。


「この位の温度でいいのか」

「ええ」

「さて、灰をお湯で漉していくわよ」

「私がしよう」

「気を付けてね」


 バケツの上に布をかぶせ、その上に灰を置く。

 お湯は、ユリウスがかけてくれた。


「この水はとても危険だから、素手で触らないようにね」


 近寄りすぎた子供達に注意しつつ、作業を進めていく。

 お湯が落ちきったら、布ごと灰を引き上げ完成だ。

 ハーブを準備していた子供達から声が上がる。


「ビビアン様、できました!」

「私も!」

「では、できたものを集めてっと」


 灰液を油と混ぜていき、最後にハーブを混ぜ込む。


「後は、型に流して待つだけよ」

「どのくらい待つんですか?」

「六週間といったところかしら」

「そんなにかかるんですか!?」


 ビビアンの言葉に、子供達が驚いている。


「時間はかかるわね。でも、コンサートには間に合うように作っているから安心してね」


 そういえば、場所を借りるための申請手続きはどこまで進んでいるだろうか。

 書類は提出しているが、戻ったら確認しておかなければ。

 そんなことを思いつつ、石けんを型に流し込んだのだった。

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