21.ユーリの力を借りるわよ!
後日、皇宮に打ち合わせに来たギブソン男爵に話したところ、子供達の石けん製造、販売の許可は容易に取れた。
「皇妃殿下がお持ちの権利ですから、どうぞ殿下のなさりたいようになさってください。ところで孤児院の子供達と演奏会をなさるのでしたら、当商会もご協力したいのですが」
「あら、いいの?」
「むしろ殿下の御用商会として何もしないとなれば、面目が立ちません。ですのでどうか、やらせてください。殿下のご計画を詳しく伺ってもよろしいですか?」
男爵はビビアン達がやろうとしていることを聞くと、バザーでの販売を行うと言ってくれる。
「負担が大きくないかしら?」
「代わりに、他の商会を誘ってもよろしいですか? 当日、バザーに孤児院だけではなく、他の商会も店を出した方が来ていただく方の満足に繋がります。商会側としても皇妃殿下の催しに参加できるとなると、大変名誉なことですので」
ギブソン男爵の考えがわかり、ビビアンは頷いた。
「今回のバザーに出店しても皇妃御用達の看板はあげられないわよ?」
「当然です」
ビビアンの言葉に、ギブソン男爵は微笑んでいる。
「ちなみに、誘おうと思っている商会はどこなの?」
ギブソン男爵が上げた商会に、前回石けん事業に関わることができなかったスミス子爵と、フォスター男爵の名前はない。
確かに、ギブソン男爵からしたら彼らは競った相手でもある。
他にもビビアンが知らない確執があるかもしれないし、声をかけなかったのかもしれない。
だが、それはビビアンには関係ないことだ。
(次に何かする時には声をかけると言ったしね)
「一緒にスミス子爵と、フォスター男爵のところの商会も誘ってくれるかしら。彼らには私からも手紙を書くわ。彼らの参加は強制しないけれど、もし参加するとなった時は頼むわね」
「殿下のお心のままに」
「参加する商会がわかったら、名簿をくれる?」
「かしこまりました」
「皆の協力で、演奏会が華やかな物になっていくわね」
バザーをするとしても孤児院の子達が作ったものを販売するだけのつもりだったが、規模が大きくなりそうだ。
(演奏会が霞まないよう、演出を考えようかしら)
幸い、ビビアンは魔術が使える。
(ピアノを演奏しながら四季や夜空の背景を魔術で表現できたら、素敵かもしれないわ……!)
考えるだけでわくわくしてくる。
ビビアンは、男爵との打ち合わせを終えると、ピアノの練習に向かった。
この世界には前世の桜と同じ春にだけ花を咲かせる木がある。
残念ながら薄紅色ではなくもっと濃いピンクだが、歌詞にもあるし、あの花がいいだろう。
(曲目は『春の風』だから、風に舞う花びらを表現したら綺麗かもしれないわ)
光魔術に、幻影を映し出す術式があったはずだ。
そちらを使ってみよう。
「あら? 思っているのとは違うわね……」
ビビアンの魔術では、花びらが一枚、宙に浮かぶように現れただけだ。
「これを動かすには術式のどこを変えたらよかったかしら……?」
幻影で現れた花びらを動かそうとしてみるが、どうやってもうまくいかない,
幻影の使い方は本来は自分の姿を写し取り、敵に誤認させる術だ。それを動かそうとするには、教科書通りに術式を覚えるだけではなく、柔軟に術式を改変させる能力が問われる。
以前、孤児院の魔法陣に魔力を注いだように簡単にできることではなかった。
「いいわ。あとで調べましょう。先にもっと出せないか試してみるわよ! えっと、幻影を一度に沢山出すには、術式のここを変えるのかしら……?」
独り言を言いながら、魔術式をいじっていると、突然声をかけられた。
「何をやっている」
「あら、ユーリ。いつの間に来ていたの?」
「声をかけたが、返事がなかった」
少し不機嫌そうな声に、無視したわけではなかったと謝罪する。
「それで、何をやっていた」
ユリウスの質問に、今やろうとしていたことを説明する。
すると、ユリウスはビビアンが止める間もなく、魔術を使ってみせた。
「なるほど。こういうことか」
「わぁっ――!」
ビビアンの周りに、本物と見まがうばかりの濃いピンク色の花吹雪が舞っていた。
思わず手を伸ばすと、花びらは手を通り抜けていく。
「すごい! ユーリ、こんなこともできるのね! 知らなかったわ! 魔術が得意なのね!」
「宮廷魔術師には敵わないが、そこそこは使えると思っている」
感動するビビアンは、はっとしてユリウスに迫る。
「幻影で、夏の海辺や、秋の夕方の空を映したり、雪を振らせたり、夜空に星を輝かせたりもできる?」
「当然だ」
一通りユリウスがやってみせると、ビビアンの心は決まっていた。
(これは、なんとしてもユリウスに協力をしてもらいましょう!)
ビビアンは改まって、ユリウスに向き直る。
「ユーリ。お願い。あなたの力を貸して!」
「……何をすればいい」
「私が孤児院の子達と演奏会を開こうとしているのは知っているでしょう? その演奏会で、今の魔術を演出に使いたいの。だから、今の魔術を使える魔術師を紹介して!」
「ダメだ」
「えっ」
当然、頷いてくれると思っていたのに、断られてしまい混乱する。
「どうして……?」
「どうしても何も、わざわざ他の魔術師を探さなくとも、私が協力すればいいだけの話だろう。何故、他の魔術師が必要になる」
「だって、ユーリはこの国の皇帝陛下じゃない。流石に協力してとは言えないわ」
「関係ない。ビビは、私の妻だろう。妻の慈善活動に、夫が協力するのは何もおかしいことではない」
「……でも、皇帝陛下にはこんなことをお願いして、いいのかしら?」
「むしろ、当日も私がビビの側に付き添うつもりだった。今から別の魔術師を探して練習させるよりもいいだろう。それで、練習しないのか?」
そう言ってユリウスはビビアンを見つめる。
(何を言っても、ユーリは譲らないつもりみたい。でも、立場が気になっただけで、魔術自体は文句ないのよね)
「そこまで言ってくれるのなら、ユーリにお願いするわ。慈善活動だから、謝礼は渡せないけれど」
「不要だ」
「そう。それと、次に孤児院に行った時に、一緒に練習もしてくれるかしら」
「ああ」
「きっと、子供達は驚くわね。大騒ぎになるはずよ」
想像するだけで楽しい気持ちになってくる。
「そうだわ。今度、孤児院で石けんを作るの。ユーリも混ざる?」
「興味はあるが、私が入っていいのか?」
「子供達も喜ぶと思うわ。孤児院で作るのは、この間作った物から少しアレンジを加えたものにしようと思っているの。楽しみにしていて!」
孤児院が石けんを出すことについて、ギブソン男爵の同意ももらっているが、商会で販売している物と同じ物では芸がない。
前回作った物や商品として作っている物とは少し変えようと思っていた。
「そうだわ。ユーリ、まだ時間はある? 今からピアノの伴奏をするから、さっきの魔術を一緒に展開してみてくれない? 子供達の歌はないけれど、どんな風になるか一通り試してみたいわ」
「そうだな。やっておこう」
一通り通してみると、やはり改善した方がいいところが見えてくる。
ユリウスはずっと魔術を使い通しで、負担が大きそうなところも気になるし、ずっと同じ演出だとお客様が飽きるだろう。
何より子供達の歌にも集中してほしい。
そうした調整を、ユリウスの侍従が探しに来るまで続けたのだった。




