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20.孤児院でも石けんを作りたいですって?

 帝国には専売法というものがある。

 これは、前世の知識で言う特許と似た考え方で、発明や新規事業については一定期間の独占を認められるという法律だ。


 この世界は魔術が発展している。

 だが、専売法ができるまでは、皆、新しい魔術の使い方、術式を発見しても、誰かに話すことなく個人で独占していた。

 それでは、国の発展には繋がらない。


 当時の皇帝はその状況を憂い、魔術の発展を促すため、専売法を発布し、新しい技術を発見した者の利益を守ることにしたのだ。

 技術を公表する代わりに、申請者にはその技術が利用された際に使用料が入る。

 また、魔術だけではなく、今回ビビアンが作り出したような新しい技術も、申請を行い認められれば専売法で守られる範囲になる。


 そして、石けんの作り方は作成が成功したその日のうちに登録し、新たな発明として認められていた。


(新規事業としての申請も行ったし、後は進めていくだけよ)


 ギブソン男爵には、材料の確保や、作業場の確保に動いてもらっている。

 ビビアンは働き手の募集に動いていた。

 もちろん、スラムに暮らす人達を優先的に雇ってもらうためだ。


(最初は、誰も集まらなかったらどうしようと思ったのだけれど)


 作業場への馬車での送り迎えと昼食付きという条件がよかったのか、孤児院のために動いていたからか、興味を持ってくれる人が多い。


 王都の郊外に工場が建ち、順調に稼働が始まっていた。



 並行して、孤児院の方で進めているコンサートの準備も順調だった。

 本番に向け、最近は通しで練習を行っている。


「皆、とても上手だったわ!」


 今日もビビアンの伴奏に合わせて、五曲通しで歌ってもらった。


「ありがとうございます!」


 サラの叔母であるデボラのマナー授業を受けているおかげか、子供達を手放しで褒めても、ビビアンに駆けよってくることはない。


(成長が、少し寂しいわね……)


 喜ぶべき変化だが、ついそんなことを思ってしまう。

 でも子供達のことを考えれば、口に出すことはできなかった。


「もう一回、通しで歌いますか?」

「いえ、今日はここまでで練習は終わりにしましょう」

「わかりました……」


 あまり長く練習しても子供達の喉を痛めてしまう。

 残念そうな顔をしながらも頷いた子供達が、今度はリックを見る。

 ビビアンに思い当たることはない。


(何かあるのかしら?)


 新しい問題が起きたのだろうかと、覚悟しながら待っていると、思い詰めたような顔でリックが言う。


「僕達、ビビアン様に聞きたいことがあるんです」

「なにかしら?」

「ビビアン様はコンサートが終わっても、ここに来てくださいますか?」

「……そんなこと? もちろんよ」


 経営が安定したとしても、最後まで面倒を見るつもりだ。

 コンサートが成功しようと、その気持ちに変わりはない。


「どうして、そんなことを聞くの?」


 尋ねると、リックが少し躊躇った後に言う。


「ビビアン様は皇妃様なのだと、デボラ様に教えていただきました。それに、今、町の大人達がしている石けんのお仕事もされていて、とても忙しいから、会えなくなっても我が儘を言ってはいけないと言われて……」

「そうだったの。私が黙っていたせいで不安にさせてしまったのね。ごめんなさい」


 いつかは自分の立場を言わなければいけないと思っていたが、黙っていたせいで不安にさせてしまったようだ。


「私が皇妃だと言わなかったのは、皆を驚かせたくなかったからなの。それに、宰相にこの孤児院の建て直しを提案されていたというのも本当のことだし、来たばかりでいきなり私が皇妃だと言っても、信じられなかったんじゃないかしら?」


 ビビアンの言葉に、子供達は困った顔をしながら頷いた。


「確かに……」

「そうかも」

「だから、安心して。私は責任を持って、これからもこの孤児院のことを見守っていくから」


 そう宣言すると、リックはほっとした表情を浮かべた。

 まだ幼いミアやトムは半べそだ。


「よかったぁぁ」

「ビビアン様、いなくならない……!」

「あ、こら、皇妃殿下って言うんだろ」


 トムを叱るリックに、ビビアンは言う。


「あら、いいわよ。この孤児院の中でだけは、今まで通り、ビビアンって呼んでほしいわ」


 嬉しげなトムに、ノエミは恐縮した様子だ。


(前イベール伯爵が亡くなってしまったこともあって、より不安に感じていたのかもしれないわね)


 もう少し早くに打ち明けておくべきだったかもしれないと考えていたところで、リックが言う。


「それで……。実は、ビビアン様に、お願いがあるんですが」

「何かしら?」

「僕達にも、石けんの作り方を教えてください!」


 目を瞬かせるビビアンに、リックは言う。


「コンサートで、女の子達だけ刺繍を売る準備をしているって聞きました。それで、僕達も何か売り物を作りたいんです!」

「そういうことね」


 以前、ビビアンが少女達に用意したのは、刺繍セット。

 ユリウスが持ってきたのは初心者用の剣と防具だ。

 確かに、少年達だけバザーに何も出さないというのは、彼らも心苦しいのかもしれない。

 そんなことを考えていると、フランが言う。


「石けんを作るのでしたら、私達にも教えてください!」

「リック達だけずるい!」


 喧嘩になりかけたところを、ノエミが割って入る。


「皆さん、ビビアン様の前ですよ」

「あっ」

「ごめんなさい」


 大人しくなる子供達を見ながら、ビビアンは考える。


(一度、ギブソン男爵に確認を取ってから、教えた方がいいかしら)


 石けんの権利はビビアンが持っているが、今はギブソン男爵と共に事業を始めたばかりだ。


(ダメだとは言われないでしょうけれど、一言断りは必要ね)


 事業の邪魔になることはするつもりがないと、伝えてから始めるべきだろう。


「石けんについては、一度考えてから返事をするわ。もしダメでも、何か別の物を考えるから、安心して」


 ビビアンの返事に、子供達は元気よく返事をするのだった。

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