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17.石けんの出来を確認するわよ

 定期的に孤児院に行きつつ、ピアノの練習をしたり、演奏会の会場を探して、借りる手続きを進めていると、あっという間に時間が過ぎていく。


 子供達の方は、順調に上達している。

 礼儀作法の先生として、侍女のサラの叔母にも来てもらっていて、そちらも順調だ。


「そろそろ一ヶ月が経つわね。今日は、石けんの出来を確認に行こうかしら」


 ビビアンは、侍女達と共に執務室ではなく離宮へと向かった。

 今までにも一度、様子を見に行っていて、その時にうまく固まってくれているのは確認し、カットもしている。

 もう出来上がりでいいのではないかと思う程だったが、前世の知識で、出来上がった石けんは一ヶ月ほど熟成させた方がよさそうだったので、離宮に置いたままにしていた。


 木灰を使って作った石けんと、海藻を使った石けんをひとつづつ持って、手洗い場に向かう。


「皇妃殿下、何をなさるのですか?」

「石けんの使い比べよ。できたら、みんなにも手伝ってもらいたいのだけれど」

「私達もよろしいのですか?」


 侍女も護衛の騎士も、皆興味津々といった様子だ。

 とはいえ、騎士は警備があるため、彼らには切った石けんを後で渡すことにして、ここでは侍女達に試してもらう。


「木灰も洗い心地はいいけれど、海藻を使うと少ししっとりするわね……」


 ビビアンとしては、普通に手を洗ったりする分にはどの石けんでもいいと思うが、体や顔に使うのならば、海藻石けんを使いたいと思ってしまう。


「なっ、なんて素晴らしい物なのでしょう!」

「石けん、というものを初めて使いましたが、洗い心地が気持ちがいいです」

「それに、心なし、肌が潤っている気がしますわ!」

「こんな素晴らしい物が、あの灰と油から出来ているなんて……!」


 驚愕する侍女達に、ビビアンが言う。


「今度から、皇宮の手洗い場に常備させるから、外出から帰った時や、食事の前にこれで手を洗ってね」

「はい!」


 侍女の声が揃っている。


「あとは、お風呂で髪や体を洗うのにも使えるのよ。これで洗うと汚れもよく落ちるから、皆にも今日は一つずつ持って帰ってもらおうと思っているの。その代わり、明日、使い心地を教えてくれるかしら」

「なっ……! こちらを、くださるのですか!」

「私達も、こちらの石けんを毎日使える!」

「さすが皇妃殿下! 一生ついていきますわ!!!」


 一生は流石に言い過ぎではないだろうか。


「そ、そこまでのことかしら……?」

「こちらの洗い心地。一度でも使ってしまうと、なかった頃には戻れません! しかも、全身使えるなんて! 早く試してみたいです!」

「そ、そう? 気に入ってくれて嬉しいわ」


 興奮する侍女をなだめつつ、ビビアンは尋ねる。


「皆、どの石けんが好きとかある?」

「やはり、洗い上がりの肌の潤いを考えると、海藻石けんでしょうか」

「私も!」

「私も、海藻石けんがほしいです」


 皆、やはり海藻石けんがほしいようだ。


「では、皆には海藻石けんを配るわね」

「ありがとうございます!」


 騎士達も侍女の様子に期待した眼差しで見てくる。


「あなた達も、海藻石けんの方がいいかしら」

「家に、妻がいるので、できたら海藻石けんをいただけたらと思います……」

「確かに、そうよね」


 侍女達のあの食いつき振りを見ると、海藻石けんを渡した方がよさそうだ。

 ひとまず全員に持ち帰りようには海藻石けんを配り、皇宮内には他の素材から作った石けんを配置して様子をみようと思う。


「あの、皇妃殿下」

「なにかしら」

「陛下には差し上げられないのですか?」

「え……?」


 意外なことを言われて、首を傾ける。


「陛下も、ご興味があると思う? ご迷惑ではないかしら」

「絶対にご興味を持たれると思います! むしろ、とても喜ばれるかと」

「なら、あとでいくつか渡しておきましょう」


 侍女は、うんうんと頷いている。

 ユリウスに渡すのなら、彼の侍女の分も一緒に渡しておいた方がいいだろう。

 ユリウスと孤児院に持っていくようにと取り分けると、海藻石けんはなくなってしまった。

 木灰で作った石けんも、皇宮中に置くことを考えると、在庫は心許ない。


「皆に配ると、あっという間になくなってしまうわね。材料はまだあるし、これから作り足しておくかしら」

「お手伝いします!」

「私も!」


 皆、前回手伝った時よりも熱心に頷いている。


「言っておくけど、今回は海藻石けんは作れないからね?」

「わかっております!」

「はい! それに、普通の石けんも作っておかれた方がよろしいかと思います」


 今回は海藻は準備していないが、油はまだ残っているし、在庫を増やしておくのもいいだろう。


「私、道具を準備いたしますね!」

「私も手伝います!」


 てきぱきと動いてくれる侍女達に感謝しつつ、ビビアンもお湯を沸かす準備を進めるのだった。



 皇宮の中に設置した手洗い用の石けんは、すぐに評判になった。

 あまりの人気に家に持って帰ろうとする人も出るほどだ。

 そうした人はすぐに咎められ、盗まれるようなことにはなっていない。

 石けんを作って、各水場に配置したのが皇妃であるビビアンというのも一役買っているようだ。


(皇宮の治安に感謝ね……)


 必要とされるのは嬉しいが、圧倒的な供給不足は考えなくてはならない。

 ビビアンの元にも、販売はしないのかという声や、作り方を教えてほしいという声が届いている。

 特に、侍女を通じて海藻石けんの素晴らしさが大げさに喧伝されているようで、貴族のご夫人達から早く海藻石けんを作ってほしいと毎日のように手紙が届く。


 ビビアンの侍女は、当然ながら高位貴族出身者で固まっている。

 そういったことから、問い合わせも高位貴族からの物が多い。

 あれから一度、海藻石けんも作っているが、定期的に作っておいた方がいいだろう。


(ある程度の量ができるまでは、海藻石けんは配らない方が平和かしら……?)


 侍女の元には、高額な値付けでの引き合いも来ているという。


(世に出す方法も考えないとね……)


 忘れないように、以前まとめた石けん用のやることリストに書き加えておこう。

 そんな風に思っていたビビアンだったが、翌日、執務室の机の上に積み上がった手紙の山に、考えが甘かったと急ぎ石けん販売に向けての手配を考えるのだった。

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