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13.デートに誘われたのだけど!?

 孤児院からの帰り道。

 今日は皇宮に戻る前に帝都の菓子店に寄ってもらう。

 いつも孤児院行きでお世話になっている侍女達や、護衛達、料理場、文官達にお土産を買っていくのだ。


(お店でお買い物をするなんて久々だから、楽しみだわ!)


 ユリウスに嫁ぐ前、ビビアンは割とお忍びで出かていた。

 もちろん護衛付きだが、ビビアンのような高位貴族令嬢の町歩きが許されたのは、それだけ帝都の治安がいいからだろう。


(前皇帝陛下の御代から、民の暮らしの向上は力を入れておられたと聞いているわ。きっとそのおかげね)


 以前は自分の身の安全は保たれて当然くらいにしか考えていなかったが、ビビアンの視野も広がっていた。

 孤児院がある区画はまだ治安がよくないが、それもビビアンが皇妃でいる間に他の区画と同じく安全に暮らせる地区にしたい。

 そんなことを思いながら、ユリウスの手を借りて馬車を降りた。



 店の中は、バターの香ばしい匂いが漂っていた。

 宝石のように美しく並べられたクッキーや、焼き菓子に目を奪われる。


(どれも美味しそう……!)


 何種類か混ぜて、部署ごとに包んでもらえばいいだろう。

 突然の大量注文に、店の者は慌てている。

 流石に全部は今この場で準備できないとのことだったので、本日は侍女と護衛の分だけ持ち帰り、残りは日を決めて後日取りに来ることにした。

 孤児院に頻繁に通っているので、次回の帰りに寄れば良いだけだ。


 包むのを待つ間、奥のスペースに通され、サービスでお茶とお菓子が出される。

 毒味を待ち、口を付けると「おいしい」と声が漏れた。


「沢山頼んでいたな」


 ユリウスが言う。

 彼は何故かビビアンと同じ席に着いていた。


「ええ。最近色々な所にお世話になっているから、差し入れをしようと思ったの」


 ユリウスは頷くだけだ。

 その様子に不安になる。

 突然寄り道をすると言い出したのは、もしかしなくても護衛達には迷惑だっただろう。

 最近はしっかり仕事もやっていると気を抜いていたが、これは断罪理由の『わがまま放題』に含まれてしまうだろうか。


(いえ、こんなことで断罪フラグが立つわけないわ)


 物語の中のビビアンのわがままは、何というべきかもっと次元が低かった。

 毎日商人を呼び、毎日違う物を付けても一月では足りない位に宝飾品を買いあさり、ドレスも着ていく予定などないのに、気が向くままに作らせた。

 それに比べれば少し寄り道をするくらい、些細なことだろう。

 ビビアンがそんなことを考えていると、ユリウスが再び口を開く。


「そういえば、婚約者の頃も良く町歩きをしていたらしいな」

「……どうしてユーリが知ってるの?」


 目を丸くするビビアンに、ユリウスは憮然と言う。


「ビビのことを、気にかけていたからだ」

「えっ……、そう、だったのですか?」


 まさかそんなことを言われると思わなかった。

 婚約時代、最初はそうでもなかったが、学園に入学する少し前からユリウスは冷たくなった。

 学園に入学後から結婚するまでの結構な時間は、聖女アイリに心変わりしたのだと思っていた。

 初夜にアイリのことは否定されたが、どこか信じられない思いでいた。


(孤児院への護衛に付いてきているのも、初夜の件があったからだと思っていたけれど……)


 もしかして、同行を言い出したのはビビアンを心配してのことなのだろうか。


(いえ、それは考えすぎよ……。単に私の行動を見張るためかもしれないし……)


 ビビアンが邪魔ならば、初夜で離婚を切り出した際に頷けばよかった話だし、見張るだけならビビアンが危険な目にあっても気にしないはずだ。

 実際は過剰にビビアンの安全に気を払っている。

 危険な自分に襲われた際に守ってくれただけではなく、ただ飛びついてきただけの子供達からもビビアンを守ろうとしていた。

 考え込むビビアンに、ユリウスが続ける。


「今度、私とも出かけないか」

「……どこにでしょうか?」

「場所はどこでもいい。王都の町歩きでもいいし、植物園でも。ビビの行きたいころを教えてくれ」


 どちらも学生時代に聞いた、婚約者と行くデートの定番コースだ。


「……まさか、デート?」

「ああ」


 思わず零れた言葉を素直に肯定されるとは思わなかった。

 赤く染まっていく頬を誤魔化そうと、ビビアンはカップに口を付ける。


(何で急にこんなことを言い出したのかしら……)


 ユリウスはビビアンを見つめ、じっと答えを待っている。

 意図はわからないが、行きたい場所はビビアンに合わせてくれるというし、無理強いするつもりはないようだ。

 きっと断っても「そうか」と頷くだけだろう。


(……離婚はできないのだし、陛下と仲良くしておくのも悪くないはずよね)


 ビビアンとしても夫にデートに誘われ、正直、悪い気はしなかった。


「なら、植物園に行きたいわ」

「わかった」


 実は学生時代から行ってみたかった場所だった。

 しかし、婚約者同士のデートスポットだと耳にして、流石に行くのを遠慮していたのだ。


「実は行ったことがないの。だから楽しみだわ」

「落胆させないよう、力を尽くそう」


 ユリウスは真剣に頷いている。

 まるで心から望んでいるとでもいうようだ。


(その割には、笑顔の一つもないけれど……)


 ただ、じっと注がれる眼差しは熱を帯びているかのようで、この場で席を立つことはできないのに思わず逃げ場を探してしまいそうになる。


(こ、この位で心乱してはいけないわ)


 心を落ち着けていると、店長が準備ができたとやってきた。

 このままユリウスと話していると心の動揺が収まりそうになかったので、ほっとしながら気持ちを切り替える。


「お待たせいたしました。この度は沢山のご注文を、誠にありがとうございました」

「残りは今度、お願いね」

「かしこまりました。しっかりご準備しておきます」


 準備された菓子を侍女が受け取るのを見て、店を出たのだった。



 結果的に、菓子の差し入れは侍女達にとても喜ばれた。

 まさかビビアンが有名店の菓子を買ってくるなど思っていなかったようで、驚いてもいた。

 騎士にも渡しているので、普段振り回している彼らのイメージアップも少しは図れたと思いたい。


 翌日は、ビビアンはいつも通り仕事に取りかかった。

 思いがけずユリウスにデートに誘われたが、孤児院関係でやっておかないといけないことがある。


(子供達の礼儀作法の先生を探さなければね)


 誰がいいだろうか。

 もちろん指導技術があることは一番だが、孤児達の指導にも偏見がない人を選ばなくてはならない。

 誰がいいだろうと考えあぐね、控えている侍女達に声をかけた。


「ねぇ、あなた達。私がお世話をしている孤児院に指導に来てくれそうな礼儀作法の先生って誰かいらっしゃるかしら」


 侍女達はそれぞれ考え込んでいる。


「ホーキンス男爵夫人は、慈善家だと耳にしますね」

「確かに私も聞いたことがありますわ。昨年、領地の孤児院の子達を指導されて、バザーに出店されておりましたよね」


 侍女達の話を聞き、そういえばそんな話を聞いたかもしれないと思い出す。

 今まであまり慈善事業に興味を持っていなかったために、ビビアンはそういった話に疎かった。


「いい人そうだけど、ホーキンス男爵領は少々遠いわね……」


 ホーキンス男爵領は王都まで馬車で二日だ。

 他の領地より距離が近いが、頻繁に通ってもらうには負担が大きい。


「あの、身内でもよろしいですか?」

「サラ、心辺りがあるの?」


 侍女のサラが頷く。


「叔母が学園入学前の子を中心に家庭教師をしているのですが、今は手が空いていると聞いています」

「その、護衛はこちらで準備するけれど、治安がいい場所ではないし、その点は大丈夫そう?」


 尋ねると、サラもそこが気になっていたのか、頷いた。


「そちらは叔母や、叔母の家族の判断になると思います。一度確認の手紙を出してみて、お返事してよろしいでしょうか」

「なら私も一筆書くから、一緒に渡してくれるかしら。決して無理強いするつもりはないけれど、本人にやる気があるのが一番だから」

「もったいないお言葉です」


 一旦教師の件は返事待ちになるが、ひとまず目処がつきそうだ。

 ビビアンは侍女達にお茶を頼むのだった。

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