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12.コンサートの提案をするわよ

 翌日、ビビアンは孤児院に向かった。

 マクシムは前回の襲撃から日が空いていないことを心配していたが、もともと孤児院を狙っていた三人組は捕まっている。

 孤児院のある場所が危険だというならば、いつまでも行けないではないか。

 それにここでビビアンが行かなくなれば、子供達は今度こそ見捨てられたと感じるかもしれない。

 そう言ってビビアンは押し切った。


 馬車乗り場に向かうと、前回よりも護衛の姿がかなり増えている。

 さらにはユリウスの姿まで見えて、ビビアンは思わず挨拶を忘れ声をかけていた。


「陛下……。こんなに頻繁に出かけて、大丈夫なのですか?」

「問題ない。それと、ユーリと呼べと言ったはずだ」

「そ、そうでした。ユーリ」


 ユリウスはいつものように無表情だが、どことなくむっとしているようだ。

 ビビアンが多くの護衛を巻き込んで出かけることが気に食わないのかもしれない。


 でもそれを言うなら、ユリウスもである。

 守られる立場ではなく、ビビアンを守るための護衛として出かける分、むしろビビアンより性質が悪いかもしれない。

 前回言い合いをして丸め込まれたのでもう聞かないが、本当に大丈夫なのかと思ってしまう。

 まぁ、マクシムの顔色を見ると大丈夫ではないのだろう。


 だがあの時守ってくれたユリウスが付いてきてくれるのは、ビビアンとしては安心材料でもある。

 別にマクシムや他の騎士の実力を疑っているわけではないが、それだけあの時のユリウスの魔術は圧倒的だった。


「今日もユーリが来てくださるのでしたら心強いです。本日はどうぞよろしくお願いします」


 ビビアンの言葉にユリウスは僅かに目を見開く。


(そういえば、ビビアンが「お願いします」なんてユーリに言うのは初めてだったかしら。ふふん、私はどんどんアップデートしていくのよ!)


 そう思いながら、ユリウスの差しだす手を借りて馬車に乗るのだった。



 問題なく孤児院に着くと、前回の反省を活かしたのか子供達に囲まれることはなかった。

 扉の外に出迎えに来たノエミに連れられてホールに向かい、そこで全員から挨拶を受ける。


「本日はようこそいらっしゃいました」


 可愛らしい声で一斉に挨拶をされて、ビビアンは頬が緩む。

 きっと、練習もしてくれたのだろう。


「挨拶をありがとう。皆もごきげんよう。困っていることはない?」

「ビビアン様のおかげで大丈夫です!」


 皆で一度顔を見合わせて、リックが答える。


「よかったわ。今日もクッキーを持って来ているの。手を洗った後、皆で食べてね」

「はい!」


 そうして、ビビアンは考えてきたことを尋ねる。


「この間、皆が聴かせてくれた歌を聴いてから考えていたことがあるのだけど、この孤児院の中で歌うだけじゃなくて、お客様を呼んでもっと広い場所で歌ってみない? 演奏会……コンサートって言うんだけど」

「広い場所?」

「お客様?」

「コンサート?」


 首を傾ける子供達に、ビビアンは頷く。


「私だけが聞くだけではもったいない程、素敵な歌声だったの。だから、もっと多くの人に聞いてもらえたらと思ったのよ」

「えぇっ」

「僕達が?」

「オレ、自信あるぞ!」

「……私にできるかなぁ?」

「私やってみたい!」


 自信なさげな声も聞こえるが、結構子供達は乗り気のようだ。


「ピアノは、ビビアン様がやってくれるの?」


 その言葉は意外だったが、断る理由はない。


「ええ。皆が私の演奏でよければ」

「もちろんだよ!」

「私も! ビビアン様がいい!」

「ビビアン様じゃなきゃヤだ!」


 子供達の声に、ビビアンは笑顔で頷いた。


「では、皆で頑張りましょうね!」


 子供達の元気の良いお返事に、絶対に成功させようと心に決めた。


「コンサートをするのなら、一つ、皆にお願いがあるのだけれど……」


 子供達が頷くのを待って、ビビアンは言う。


「礼儀作法の時間を作って、先生に学んでもらいたいの」

「えぇっ」

「礼儀作法?」

「それ、何の役に立つんだ……?」


 今までで一番反応が悪い。

 だが、正直に言って、こちらの方が将来、彼らの役に立つ可能性が高い。


「コンサートでは、お客様に挨拶をしたり、声を掛けられたりするかもしれないの。お客様は貴族も多いと思うわ。今のままで失礼のないように振る舞える?」


 絶望した表情をする子供達に、ビビアンは言う。


「礼儀作法を学んでいれば、将来、働く時にも役に立つはずよ」

「なんでですか?」


 尋ねたのは、子供達の中でも年長のリックだ。


「考えてみて。たとえばお店で雇ってもらうことになっても、丁寧な言葉使いができて身分が高い人も相手ができる人と、丁寧な言葉使いもできない、普通のお客様しか相手できない人とどちらが沢山お金がもらえるかしら」

「……身分が高い人の相手ができる人ですか?」


 リックの言葉に子供達が驚き、尊敬の眼差しでリックとビビアンを見る。


「そうよ。だから、マナーを学ぶと、今回だけじゃなくて、皆の将来の役にも立つの」

「僕、きちんと勉強する!」

「私も!」

「勉強して、たくさんお金をもらう!」


 騒ぎ立てる子供達に、ノエミが言う。


「皆、学ぶ機会をくださるビビアン様に感謝を伝えましょう」


「ビビアン様、ありがとうございます!」

「しっかり学びます!」


 今日はビビアンの伴奏で申し訳ないが、気合いの入った子供達と歌の練習をしに向かう。

 その後は絵本を読み聞かせ、文字の練習をした後、自由時間となった。

 ユリウスはビビアンの側から離れないが、外でマクシムが子供達に囲まれ、剣術の練習をさせている。

 ビビアンは女の子達にせがまれ、刺繍を教えることになった。

 前回ビビアンが持ち込んだ布類の中に、無地のハンカチもあるのでそちらに刺繍を施すようだ。


「刺繍でいいの? 他の遊びでもいいのよ?」


 ビビアンがそう言ったが、少女達は首を振る。


「できることを増やしておきたいんです」

「伯爵夫人は、あまり来られなかったから、私達、あまりやり方を知らなくて」


 そういうことならと、張り切ってビビアンは練習になりそうな題材を考える。

 まずは小さな花の刺繍をやってみせて出来を見る。

 すると、簡単なものは覚えているようだ。

 それならと、いくつかステッチを教えた。


(今度、刺繍用のハンカチや色糸を持って来たいわね。女の子達だけでは不平等だから……)


 男の子達には何がいいだろうか。

 刺繍に集中する少女達にそのまま続けるように言い、窓際に向かう。


(練習用に木刀があった方がいいの? ブルトン卿に後で聞いてみるしかないかしら)


 ビビアンの視線の先で、マクシムは少年に何か言われたのか、笑い声を立ている。

 余程面白かったのか、他の子も一緒に笑い出し、とても楽しそうだ。

 外の様子を見ていると、ふと強い視線を感じて隣を見上げる。

 ユリウスがじっとビビアンを見つめていた。


「何を見ている」


 咎めるように強い口調に、ビビアンはふと、尋ねるのはマクシムでなくてもいいのではないかと気が付いた。

 声を抑えてユリウスに尋ねる。


「次の時の差し入れを考えていたの。彼らにはどういうものが必要かしら」


 作業に集中している少女達に聞こえないように囁くと、ユリウスは僅かに目を見開く。


「差し入れか……。外の子達にだけか?」

「彼女達には、贈りたいと考えているものがあって」

「あぁ。だから外を……。なら、彼らには私が用意しよう」


 少しの沈黙の後、返ってきた答えに今度はビビアンが驚く方だった。


「ユーリが?」

「悪いか」

「いえ。嬉しいわ。次回一緒に持って来ましょう」


 こそこそと話をしていると、子供達の一人が顔をあげる。


「フラン、どうかした?」

「ビビアン様、旦那様の騎士様と仲がよろしいのですね!」

「えっ! そ、そうかしら……?」


 全くそういうつもりがなかったから、咄嗟に言葉が出てこない。

 彼女達には事情があってこの孤児院の世話になっている。

 それなのに、見せつけるような真似をしていたとしたら、あまりよくなかっただろうか。

 心配していると、フランが言う。


「なんだか憧れます」

「そ、そう?」

「はい! 夫婦って想像がつかなかったのですが、大人になっても仲良しっていいなって思いました!」

「なら、よかったわ」


 ほっとしていると、フランの隣にいるミアが声をあげた。


「お話中すみません。ここどうしたらいいかわからないのです。教えてください」

「もちろん」


 ミアの方に向かうと、差しだされたのは最後の糸を止める部分だった。


「ここは、こうすると綺麗にできるわ」


 ビビアンが別の布と糸で手本を見せると、コツが分かったようでフランが真似している。

 他の子もみていたようで、真似をしている。

 その様子を微笑ましく見ていると、フランが出来上がった物を掲げてみせた。


「できました! ビビアン様ありがとうございます!」

「おめでとう」


 すると、フラン以外の子もできたようで、出来上がったものを見せてくる。

 一人一人、糸の色の選び方や、刺繍の組み合わせ方が違って見応えがある。


「売り物みたいね」


 思わず呟いたビビアンに、少女達が食いついた。


「えっ、これ、売れますか!」

「えっ、ええ。欲しいと言う人はいると思うわ」

「なら、もっと作ります!」

「私も!」

「私もっ……!」


(コンサートの時に、バザーも一緒に開くかしら)


 少女達の様子を見つめながら、ビビアンはそんなことを考えるのだった。

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