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樹当千  作者: 千葉
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六十二話 死か生か?

ベアンテのヤンデレ振りが発覚して二年。ようやくベアンテのマナは回復したらしいが当然のごとくオドをくれるような人間は訪れていない。


……正直暇だ。ベアンテとの話の話題は外の様子で始まり外の様子で終わる。

「今外はどんな感じ?」と聞くと『小鳥が二羽楽しそうにしています』や『今日は曇りですね』と返ってくるのが普通で、違いといえば小鳥の数だったり天気だったり雨だったり、その程度の違いしかない。

その分俺は妄想という名の脳内シュミレーションで日々訓練する毎日。

なかなか師匠がタ・オ・セ・ナ・イ


妄想の中の俺が一足飛びで着地する瞬間にミサゴを師匠目がけて突くと見せかけて槍投げするがそれを余裕でかわされる。続けて【天沼矛】と【地虚矛】の連撃。

槍が幾重にも見えるほど素早い攻撃でも師匠の黄金の槍は弾き、それ以上の速さで反撃さえした。そして不意打ちでミサゴを後ろから呼び寄せて攻撃したがそれすらも読まれ逆に利用される始末。ちなみに今日も連敗記録更新中♪


槍だけの勝負じゃ勝てないことが分かったので、ミサゴに乗って上空からマシンガンのように種を打ちまくっての絨毯爆撃でボロボロにしてやった。

その後も蔓で拘束した後たこ殴りしてやったり、師匠の体力がなくなるまで食人植物の群れを呼び寄せてやったりすること二時間。ようやくすっきりした!


『そこまでやるのは連敗記録が四桁になった時以来ですね』


『仕方無いだろう? することがないんだから』


『私だったらもっと激しく、陰湿にやるのにマスターは優しすぎます!』


『何故だろう? 褒められてるのに素直に喜べないぞ』


どんどん黒くなってくるベアンテ。数年後は精霊というよりか邪神になっていそうだ。

またそれが冗談ですみそうじゃなく本当に怖い。


『そういえば今日はいつもと少し外の様子が違うようでしたよ』


『本当か!?』


いつもと違っているならなんでもいい


『ここの近くまで冒険者が来たようですが魔物の襲撃に遭い残念ながら……』


『何だよもうっ、期待してたのに~!! ベアンテもどうにかしてここまで連れてこれなったのか?』


『すみません。私の介入が出来るのはせいぜい洞窟の中ぐらいなんです』


イライラしてついベアンテにあたってしまった俺に本当にすまなさそうにベアンテが言ったので、後悔の念がこみ上げてきて素直にあやまった。ベアンテも気にしていないですと答えたのでしばらく静寂な空気が流れた。





そして月日が流れる。

今が昼か夜かも分からない俺は精神体のままその無駄に長い時を生きた。

こうしている間も俺の体はマナによって汚染されているらしい。ベアンテの延命措置もマナ汚染を限りなくゆっくりにすることしか出来ないので症状は確実に進行しているのだ。

まぁだからといって特に痛みも走るわけでもないが、痛みがあったほうがマシだと思うぐらい代わり映えのしない時間があるだけ。唯一あるいいことと言えば最近ようやく師匠に真っ向勝負から勝てるようになったということかな。

十回に一回ぐらいだが……


そしてベアンテの言った延命措置の続く四年後まであと一日。

それまでも近くに冒険者は来たようだがこの洞窟まで辿りつく者はいなかったようだ。


『なんだかここまで来ると、もう無駄な期待は抱かないほうがいい気がしてきたな』


『大丈夫です。きっと来ますよ!……たぶん』


『なんだか今凄い死と正面から向き合う自信があるんだが…』


『ダメなほうに自信満々でどうするんです!』


『…………』


『…………』


『…………』


『…………』

『…………』


『…………!? き、きききききき来ましたよ~~~!!』


『そうか、ついに人生最後の時が来たか。今の俺なら大丈夫ださぁ来い!!』


『違います! この洞窟の直ぐ側まで3人組みの冒険者が来ています!!』


『なななんだと~~!? 俺の死を迎える覚悟を台無しにする気か!!』


『いつまでそんなことを言っているんですっ!! ああ!? この洞窟に入ろうかすごく迷っています。このままじゃマスターのお命が~~!!』


やばい、それはヤバイ! 仙人モードでいる場合じゃないぞ! 俺は命が惜しいんだ。

まだまだ死んでたまるか、八十まで生きて老衰で死ぬんだ!!


『なんでもいいからやってこっちに気を惹かせるんだベアンテ!』


『は、はい分かりました!』


すると初めて自分の体が前方に動いている感覚がある。


『マスターを閉じ込めている精霊殊の光であの冒険者達の気を惹く作戦です。更にマスターが閉じ込められているのを見て冒険者は魔法を使って助けようとするでしょう。その時オドを吸ってマナ汚染も浄化してしまおうという一石二鳥のアイディアです!!』


『素晴らしいアイディアだぞベアンテ! 影の帝王という称号を与えてやろう!』


『そんなことを言っている間に冒険者の方がこっちへ来ましたよ。あっ、今マスターを見てチームのリーダーらしき女の子が助けようとマナとオドの合成を始めました。オドの量も汚染に充分です! 精霊殊の方はオドを吸収した後、破壊されるようになっていますのでマスターはあの冒険者達に素晴らしい第一印象を与えてください。人付き合いは第一印象が肝心ですよ』


『おう、ようやく出れるんだなここから!!』


長い、長い時がたった。外は今どんな様子なんだろう?

ユーリィは? マキアは? ナーガは? クロトは? 師匠は? リザルトさんは? シクエちゃんは?

そして俺の愛槍であるフィランはいったい今頃どうしているのだろうか?

気になることだらけだがそれもこれから自分の足で、目で確かめればいい。


耳元でパリンとおそらく精霊殊が割れた音が聞こえた。



†  †  †  †  †



「だからってどうしてコロ大湿原に行こうって話になるんだ!?」


私に唾を飛ばす勢いで怒る小さい頃からの幼馴染のランスフィールド=フラン君。通称フラン君。


「でもルクゾの宴に入るにはそれくらいの実力がなくちゃ…きゃっ!?」


慌てて口を押さえ込んだけどどうやらフラン君にはばれちゃったみたいだ。


「お前ルクゾの宴に入りたかったのか? 無理無理止めとけ、お前みたいな弱虫じゃ門前払いだよ」


「私弱虫じゃないもん! それにお前じゃなくてアリアだもん!」


いつもフラン君は私のことをアリアじゃなくてお前とか言うのはやめて欲しい。昔はアリアちゃん、フラン君って呼び合っていた仲なのに!

それをお父さんに言った所、そういう年だから仕方ないんだよと微笑ましそうに笑っていたけど私には理解できない。


「それに私は本当にあのルクゾの宴に入りたいの! 確かに蛇やねずみが出た時は今でも少しビクッとしちゃうけど弱虫なんかじゃないよ。……少なくとも近所の女の子よりは」


「……どうしていきなり冒険者に、それもギルドチームランクAのルクゾの宴なんかに入りたいなんて言い出したんだ? 別にこのまま魔法使いの道を歩めばいいじゃないか?」


「それは……」


それを話すには数ヶ月前に遡らなければいけない。


「数ヶ月前にお父さんの行商でザルナ王国に行ったとき私は女神と会ったの」


「女神……!?」


フラン君の反応もごもっともだけど、私は一応話を最後まで続ける。そうしなければ誰だって理解できないもんね。


「お父さんが商売している間、私は邪魔だと言われザルナ王国の首都、確かエリアノっていったっけ? そこで暇をつぶそうと歩いていたの。そしてちょっと路地に入っていったらいつの間にか何処にいるのか分かんなくなっちゃって……」


「バカッ! お前みたいなちんちくりんが都市の路地に入ったら危ないだろっ!!」


フラン君は大声で怒鳴って私の頭をポカリと殴った。でもそうされても仕方無い


「うん、ごめんなさい。それでそのまま迷っちゃってたらなんだか大人の人に囲まれちゃって『お嬢さん、遊ばない?』とか誘うの。でも私はその人たちの目が怪しかったから勿論断ったの。そしたらその大人の人が無理やり私を押し倒して…」


「おいっアリア大丈夫なのか!? 乱暴なことはされたのか?」


「ちょっ!? フラン君!?」


フラン君がいきなり私のことを両手で持ち上げて体に怪我がないか確認してきた。私はこそばゆいのと、恥ずかしいのと嬉しいのでアワアワしちゃったけどしばらくたって落ち着いたフラン君に語りかける。


「私は大丈夫だよ。何もされてないから。それよりさっきフラン君が私のことアリアって呼んでくれたのが嬉しかった♪」


「そ、そうか////」


フラン君は我に帰ると少し赤面しながら私を地面におろした。チェッ、もう少ししてもらいたかったのに……


「でね。あきらめかけたその時声が聞こえたんだ」


「声……!?」


「そう、『お前たち、何をしているんだ?』って声。その人の方を見た時、驚いちゃった。

私が今まで綺麗だと思ってきた人の何十倍、いや何百倍も綺麗な金髪の人で、その人の方をみた大人の人たちも興味を移したみたいで『あんたが遊んでくれるのかい?』って言ったんだ。そしたら女の人はすごい怒って『クズが、これだから男は嫌いなんだ!』っていって剣を抜くと、こうズババーンとやっつけちゃったの!!」


フラン君は私の話しにどこかおかしいところがあったのかクスクス笑っている。なんだかバカにされている気分だ。


「それで?」


「それがすっごくかっこよくてね~。後でお父さんに聞いてみたところなんとルクゾの宴のギルドマスターらしいの」


「それで憧れたってわけか。でもコロ大湿原なんて危険な場所にわざわざ行くこともないだろう?」


「それが違うの。なんでもその女の人、ユレイアさんっていうんだけどね。その人はコロ大湿原に危険なシンの森を突破した人らしいんだ」


「……バケモンだな」


失礼なことを言うフラン君だ。でもきっとフラン君もユレイアさんを見たら惚れてしまうだろうから化け物だと思っててくれていいのかな? いやでもユレイアさんみたいな綺麗な人を化け物だなんて……

そんな風に悩む私を見て何を考えたのかフラン君は手の平に拳を打ちつけ決断した。


「なら俺も行くぞ!」


「ええっ!? ダメだよ、危険なんだよ」


「ならお前パーティはどうするんだ?」


「えと……それはまだ決めてないけど」


「ほら見ろ! お前みたいな弱っちいやつが生きて帰ってこれるとおもってんのか? 俺みたいに『黄金の槍』のカナゼ並みの実力がなきゃだめなんだよ!」


「でもフラン君は最近近所の槍道場で合格もらったばかりだよね?」


「そんなのは実戦しだいでどうとでも強くなるんだよ」


フラン君はどうしても着いて来ると意気込んでいるけど私のせいで傷つけるわけにもいかないし、それは勿論フラン君が着いてきてくれるほうが心強いけど……


「なに……話している?」


そういって後ろから声をかけられ振り向くとそこには私のよく知った人が。


「シーアさん!」


シーアさんはボブヘアーで上はタンクトップに下はミニスカート、少々露出が多いが立派な冒険者さんだ。普段あまり感情を表に出すことがないので冷たい人と思われがちだが話してみると優しくて可愛い人だということが分かる。そして私の魔法の先生でもある人だ。


一連の事情をシーアさんに話してフラン君に諦めさせてほしかったけど、


「それ……面白そう」


といってフラン君の同行も認めてしまった。なんでもコロ大湿原の奥地にある洞窟に興味があるらしくそこを調べるついでに私達を連れて行っていいということだ。

私は歓喜したけど途中で難題にぶつかってしまい意気消沈する。


「お父さんがたぶん許してくれないよう~」


娘の私から言ってもお父さんは厳しい人で夜遊びはもちろん、門限までに帰らなければ物置に閉じ込める。それが愛情によるものだと分かっているので何も言えないし……


夕食後、勇気をもってお父さんに頼んだところ当然のごとく断られた。でもあきらめずに説得を続けること一時間、シーアさんがいるから!と言った所で急にお父さんの表情がかわる。しばらくお父さんは悩むと、「仕方ないな、シーアさんから決して離れるなよ」と許してくれた。


私ははしゃぎまわったが同時にいったいシーアさんは何者だろう? と思った。


翌朝、準備をし終わった私はお父さんにいってきますと告げ、でかける。

お父さんは最後まで心配そうだったけどほっぺにキスをしたら悲しそうな表情で送り出してくれた。私も泣きそうだったけど出発の日に泣いていたらランス君にまた言われちゃうので泣いていない。


「よろしくねシーアさん♪」


「ああ……よろしく」


「俺に任せりゃ余裕だっての!!」


こうして私達は旅立った。



そしてコロの大湿原にたどり着いて初めて私は自分の考えの甘さに気が付いた。

実際魔物たちはかなり危険で、なんとか私の魔法とシーアくんの槍で倒そうとしても何一つ通じなかった。火に弱い植物系モンスターは私のファイヤーボールをくらってもビクともせず、フラン君の槍は魔物に当ることはなかった。


無茶ばかりする私達にシーアさんが初めて本気で怒ったのを覚えている。


さすがに懲りた私達はシーアさんの指示通りに動き、旅をすすめた。

シーアさんの動きはすごいもので、手にした短剣と魔法で襲いくる魔物を次々とやっつけてしまったし、途中で荷物を持つのがしんどくなった時はフラン君が奪い取るように持って行ってしまい、私は良いとこ無しだった。


それでもシーアさんは初心者はこんなものだよと優しく励ましてくれて、フラン君はぶっきらぼうな手で私の頭を撫でてくれとても嬉しかったのを思い出す。

そしてようやく目的の洞窟にたどり着いたときは私とランス君はヘトヘトだった。


「はふ~、ようやく着いたよ!」


「すこ~~しだけ長かったな」


洞窟は途中から大きな木が天井を突き破って生えていて、シーアさんも興味深そうに眺めていた。でも洞窟の中に魔物がいたら危ないので皆中に入れないでいると急に洞窟の中が緑色に光りだす。

それはとても淡く、神々しいもので私は誘われるように中に入っていく。

どうやらシーアさんもフラン君も気持ちは一緒らしく私に続くように入る。


「何でしょうかシーアさんあれ?」


私が指差す先にはちょうど人ぐらいの大きさのひし形の宝石が浮いている。


「どうやら中に人が……入っているようだ」


「えっ!? 大変助けなくちゃ!!」


近くで見ると確かに人のようなものが入っている。でも中がハッキリ見えない所為で生きているかどうかも定かではない。


とにかく私の使える最も強い治療魔法で治そうとその宝石に手を当て魔法を行使した瞬間、その宝石が砕け散った。キャッ!? と思わず声が出てしまい、そんな私を守るようにフラン君が立つ。


「何だ? こいつは本当に人なのか?」


フラン君からそんな声が漏れたのも頷ける。巨大な宝石から現れた人はゆっくり地面に降り立つと一歩ずつこちらへ向かってくる。それだけなら何の不思議もないけどその人が一歩足を踏み出す度にその足下からたくさんの植物が生えてきて、もう片一方の足を出すころにはその植物が枯れていき、再び踏み出したほうの足下からまた植物が生えてくるを繰り返した。そんな不思議な光景を見せられては人を疑うのも無理は無いと思う。

またその男の人の格好も変だった。魔法使いが着るような赤いローブに、額にはイバラでできた冠を被り、左腕はつる草の刺青がびっしり入っている様子は異様だ。そのくせ顔つき自体は少し整ってはいるもの至って普通。さすがにこのような経験はしたことがないのだろう、シーアさんも普段の無表情を捨て、ポカーンと放心状態でとても可愛い。



そしてその場の注目を集める彼が最初に放った言葉は、


「やっべ~、太陽超眩しいな。でも、嫌いじゃないぜ……お前のこと」


……やたらキザでロマンチックだった。



イツキが精霊殊から出た後の行動は、もののけ姫のシシ神がやったやつです! 

いつかやらせたいと思っていた!!

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