五十九話 分かりやすい展開
本当にこの小説を読んでいる人はいるのか? というのが最近の悩みww
何にせよ最後まで書くつもりです。
淡いまどろみの中、誰かに腹部を蹴られて俺は一気に覚醒した。
いったい、誰だ!? こんな起こし方をするのは?
「さっさと起きろイツキ」
目の前にはヤンキー座りで疲れた様子の師匠が。俺は師匠の話を聴きながら深く斬った手首を自然になぞると少し赤くはなっていたが傷跡はさっぱりなかった。おそらく神聖術で師匠が治してくれたんだろうと、礼を言おうとするが師匠は面倒くさそうに軽く手を振って断る。
「とりあえず、お前が寝ている間にあったことを話すぞ。いいな?」
「お願いします」
「まずユレイアだが、クルーゼ相手に剣技で互角以上に戦ったがクルーゼに止めをさす前に逃げられてしまった。憎しみの力というのは正にあのことだな。
私もあそこまで闘志を、いや殺気を剥き出しにして戦うユレイアは見たことがなかった。
まぁ、でも仕方ないな。あんなことがあれば……」
そういいかけて師匠は言いよどむ。言いにくいことだろうか?
「……そういえば今まで聞けなかったんですけど何でユーリィはクルーゼをそんなに怨んでるんですか?」
リザルトさんや師匠は何か知っているっぽいんだが俺はユーリィに今まで聞いたことが無い。というか深い理由がありそうで直接聞けない。
「……それはユレイアがいつか話してくれるだろう。あとは確かナーガとか言ったな、あいつはしばらく大剣使いと戦った後和解したらしくてな。今だあの化け物が暴れまわっている帝国内部で化け物を操っている奴を捜している」
う~ん、俺が寝ている間にそんないろいろな事が。もし俺が物語の主人公だったらきっとあっという間に敵を倒してハッピーエンドだろうから、位置的にはサブキャラクターってところだな。
我ながら相応しすぎて涙が出てくる…
「今ユーリィはどこに?」
「ユレイアは魔力の使いすぎで二階の病人専用ベッドで休んでいる。今はマキアちゃんが見守っているし、ベッド自体が自然治癒力を高める魔導具の一種だから直ぐに良くなるだろう」
ユーリィもいろいろ思うところがあるだろうし、マキアが側にいるなら安心だ。それに今ユーリィと会っても話すことが無く気まずくなるだけだろうから、いろいろ気が利く女の子のマキアが何とかしてくれるだろう。
ナーガとクロトの間に何の話が有ったかは分からないがそれも会えば分かるだろうし、今は俺もあのイキモノを操っている奴? 十中八九皇帝のヴレイン・ラノーラだろう。
そんな一番大事なことを部下にやらせるはずは無い。違っていたらお終いだがそんなことは無いだろう……たぶん。
何にせよ、このままあいつを放っておいていい訳が無い。確かあいつは『神代の再現をしたい』って言ってたけどあまりいい予感はしないな。ユーリィにこの世界の神話を聞いたがどれもこれも巨大な神が自らの力を見せ付ける為に破壊活動をしたとかいうものばかりだ。まぁそのおかげでこの世界が生まれたって話だから別に全て悪いってわけでもないが、人々が生きているこの時代でそんなことが起これば被害は壊滅的だ。
……俺はどんどん気分が欝になっていく前にナーガ達に倣って皇帝を捜すことにした。
教会を勢いで出て行ったものの、何の策も無くこの広い首都内を探し回っても無駄なことに気づく。
「どうしよ……」
しばしポカーンと立ち尽くしていると、懐からブーンブーンという振動が。
探ってみるとそれは例の大商人の家に侵入した際につかったコードだった。そういえばすっかり忘れていたなと思いながらコードのボタンを押す。
『ガガ…ガガガッ、お…、聞こえ…、聞こえるかイツキ?』
コードは雑音が酷く壊れたかと思ったが途中から何とか繋がった。マキアも試作品だと言っていたからそんなに耐久性は無いらしい。
『こちらイツキ、聞こえるぞオーバー』
ナーガに返答する。
『どうやらあまり調子が良くないみたいだから、手短に話すぞ。あの頑丈なイキモノ、正確には生物兵器マンティスというらしいがな、そいつらは市街地を破壊した後ザルナ王国の方向へと進軍を開始した。おそらく教祖さ…いや、教祖はメイハ教の総本山である首都エリアノを攻撃させようとしているんだろう。そして教祖の性格から言って自らも首都殲滅に乗り出すに違いない』
「ちょっ、それってかなりヤバイんじゃ……!」
『正直言ってかなり不味いな。一般人の被害もかなり出るだろうし、ザルナ王国はマンティスを倒せる可能性があるCランク以上の冒険者が少ない』
確かにあれは手を負傷してはいてもAランクのユーリィですらまともな攻撃を喰らわせることは出来なかったからな。一般人がいくら武装したところで死人が増えるだけだ。
『よってあれを操っていると見られる教祖をここで止めなければいけない、分かるな!』
事の重大さにナーガの口調も強くなり俺も少し動揺しながら肯定する。
『今、俺達はこの首都に設置されている転移魔法陣の上にいる。ここにきて教祖と戦う覚悟があるなら来い、戦う覚悟が無ければ来るな』
言っていることはキツイがナーガの言葉の節々に俺への気遣いを感じる。ベアンテのいない俺はハッキリ言ってカスみたいな存在だが、この世界で生きると決めた以上やるべき時にやらなければもっと俺はダメな存在になってしまうだろう。フィランも一生俺を認めてくれない気がする。
決心は早かった
「場所を教えてくれ!」
ナーガは何がおもしろいのかクスッと笑って答える。
『今から上空へ雷を打ち上げる。その下が俺達のいる場所だ』
雷を打ち上げる? 雷は落ちるものじゃないのかという疑問が浮かんだが、この世界は何でもありだったなと思い返しひとまず疑問を押し込める。
「そういえば師匠に事情を少し聞いたんだけど、どうしても気になることがあるんだ。最後にちょっといいか?」
『手短にな』
「どうやってクロトと和解したんだ?」
『それは……ここに来る途中で分かるさ。さぁいまから雷を打ち上げるぞ、目をかっぽじって準備しておけ』
言葉を濁されてしまったがナーガの言うことが本当なら直ぐに分かるだろう。俺は叫びたくなるぐらい綺麗で高い青空を見上げ雷を見逃さないようフィランにも頼む。
いったい何処に目があるか分からないが……フィランならきっとなんとかしてくれる!
『こ、今回だけなんだからね!』
素晴らしきツンデレ!
んなことをやっていると、ちょうど右斜めの方向から雷が……上がった!?
雷につきもののゴロゴロという爆音を鳴らしてその雷の柱は自然現象とは全く逆に上がったのだ。
『雷魔法の一つだね。あそこまで大きいのを打ち上げれるとはなかなかやる~!』
もういろいろと驚きが頭の中で消化しきれなくなった俺は理解するのを諦めた。
さっそく雷が上がった方向へ急ぐが通りを曲がった所で悲惨な光景を見た。
通りの両側に立ち並んでいる家が無残に破壊されていたのだ。民家から病院まで見境なくマンティスの爪や砲撃によって壊され、火を上げている家もある。マンティスと戦ったであろう騎士の名残も散らばっていて相当グロテスクな光景だ。
子供が泣く声もどこからか聞こえてくる。
助けてあげたいがここで教祖かつ皇帝、ヴレイン・ラノーラを倒さなければもっと大きな被害が出るだろう。しかしクロトがナーガと和解し、教祖を裏切った理由がこれではっきりした。これは騎士の務めに大きく反する行いだ。
ヴレインを倒すモチベーションはこれでバッチリだ。フィランに急かされながら雷が打ち上げられた方向へ急ぐとまた大きな雷が打ち上げられた。今度は真上ではなく斜めに打ち上げられたが、もう場所は分かっているのだから必要は無いというのに……ナーガはせっかちなのか?
しばらくすると今度はその場所で爆発が起きた。まだ少し離れているというのに俺のいる場所まで衝撃が伝わり、近くの建物のガラスが破られ破片が飛び散る。
「これはおかしいぞ」
『どうやらもう戦闘をしているみたいだね。また肝心なとこで役立たずになりたくないなら急ぐんだよイツキ!!』
「わかってるよ!」
人の気配がない屋台を飛び越え、荷物で道が塞がれていれば槍でぶっ壊したりと考えうる最短経路を無理やり導き出す。後で金を請求されてもワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーーン!だ。
なんとか努力の甲斐もあって普段だったら十五分かかるところを七分ぐらいで着いた。
魔法合戦はもう終わったらしく今はクロトが大剣を軽々と振り回し、ナーガは目にもとまらないスピードで手甲による打撃をくりだしているが、その攻撃を簡単にナイフ二つで受けとめているヴレイン・ラノーラ。
「忘れたのかクロト。昔からお前が私から一本でもとれたことがあるか?」
「クッ、それでも教祖様! あなたのやっていることは間違いです!」
「理解して貰おうとは思ってない」
クロトはその美貌を悔しさで滲ませ大剣を振るうが全て軽くかわせられるか、教祖の細腕で受け止められる。ナーガがその隙を狙って多彩な蹴り技を繰り出すがこれも成果を上げられない様子だ。
「私が以外だったのは君だよ、ナーガ。下らん正義感を持つクロトならともかく君だけは裏切らないと思っていた。いや、そう躾けたというべきかな」
ナーガの蹴りを掌で受け止めながら不思議そうな目でナーガを見つめる教祖。
「確かに裏切るつもりなどなかった。その考えすらなかった。正直言うと今でもない」
ナーガの声を聞きながら自分の心臓の音が不気味なくらい大きな音を打っている。
「ほうそれでは何故かね?」
一番聞いて欲しくない質問をヴレインが投げかける。
もう止めてくれ! 親友がいなくなるのは嫌だ……嫌なんだ
「親友の頼みだからだ」
…………俺の周りにはツンデレが多くて困る
さすがにずっと見ているのも居たたまれないし、俺も参戦する。
ナーガが走ってくる俺を見て頬を少し赤らめたが気持ち悪いだけだ。男(男の娘)で頬を赤らめて許せるのはフィランだけだと思う
「バーガ、男がそんな顔しても気持ち悪いだけだぞ!」
「ええい黙れ! 後俺の名前を貶した感じにするな!」
焦るナーガを他所にヴレインはしばらく俺の顔を見て何か考えると、思い出したように掌を打つ。
「思い出した、君は精霊の抜け殻か。既に君には用は無いんだが……」
「俺はあるんだよ。ベアンテを何処へやった!?」
「ベアンテ……!? ああ精霊のことか。それなら今ここに」
ヴレインはおもむろに懐から翠色の宝玉を取り出す。エメラルドでもあそこまで綺麗な輝きを放たないだろうそれはドクッドクッと脈打っているように見える。
それはベアンテだと俺は確信した。
ヴレインの元へ一足飛びで駆け寄り槍でベアンテをもっている右手を貫くがそれは高い金属音を立て、片手のナイフで防がれた。それでも諦めず突き、払い、巻き上げ、打撃と繰り返すがまるで自分の攻撃がどこへ来るか読めているようにことごとく防がれる。
俺の劣勢を見てか、クロトとナーガもヴレインを囲むようにして己の一撃を仕掛けるがどれ一つとして当らない。ここまで歯が立たなかったのは師匠振りだが、3人を軽くあしらっているところから判断するとその実力は、信じたくないが師匠をも超えるかもしれない。
「なんでそんなに強いんだよ! あんた皇帝だろ、もっと引きこもりなさい!」
あまりの強さに投げやりになってしまうことは戦闘中死にも繋がりかねないが、歴戦のクロトとナーガも口には出さないが同じことを考えているようだった。
「私はザルナ教の教祖の生まれ変わりなのだよ。ザルナ神は武芸を好んでいてな、初代は武芸に秀でていて神との感応ができたのだ。その武芸を重んじる教法は今でも生きている」
「そして一番大事なことは、全てが完璧だからこその皇帝だということだ!」
俺達3人の渾身の一撃はその言葉と同時に二本のナイフでことごとく方向を逸らされ俺の槍はナーガの首元に、ナーガの手甲はクロトの頭に、クロトの大剣は俺の腹にあと数センチというとこで止まっていた。途中で気づいて勢いを緩めなければ俺達3人は死んでいただろう。全くなんていう強さだ。
「そしてたった今から私は最強になる。この精霊殊を使ってな」
ヴレインが何をするかは分からないが思い通りにさせてなるものか!
【地虚矛】でかかるが蹴りで吹き飛ばされ、ナーガとクロトも同様に飛ばされる。
ヴレインは以前<ジャナイ>が口癖だったローグと同じように、しかし精霊殊を砕くことは無く、それを飲み込もうと手を口へ持っていく。
最後の悪あがきにヴレイン目がけて槍を投げると、さすがに集中していたのか気づくのに遅れ槍が精霊殊にかすりキラキラと破片をこぼす。ヴレインは今までの冷静な表情を変え片手で投げた槍を手に取り俺目がけて凄まじいスピードで投げた。
まだ吹き飛ばされた衝撃で起き上がれない俺は防ぐことも出来なかったが【天沼矛】の自動防御の能力でなんとか軌道を変えた【地虚矛】は俺の足の腱を切り裂いて地面に突き刺さる。
『イツキ!? 大丈夫?』
『痛い痛い痛い痛いーー!!』
『……大丈夫そうだね。でも左足は動かさないほうがいいかもよ』
フィランめ! めちゃくそ痛いんだぞ。ああ今も出血が酷い。
俺の様子を満足げに見下ろすヴレインは気を取り直し再び精霊殊を飲み込もうと大口を開ける。今度こそ俺はどうにも出来ずにヴレインはそれを飲み込んだ。
ヴレインは飲み込んで数秒は平気な顔をしていたが、突然地面に倒れてゲーゲーと吐しゃ物で魔法陣が書かれた床を汚すとピクリとも動かなくなった。
まさかリアルに喉に詰まって死んだのだろうか?
確かにあの大きさの宝石を呑みこもうとすると高確率でなりそうだがこんな頭が切れそうな男がそんな単純なミスをするとは考えにくい。
「おい、ナーガちょっと死んでいるかどうか調べてこいよ」
クロトが沈黙に耐え切れずナーガに促す。クロトがもう少し聞くのが遅かったら俺が言うところだった。
「ええ~、断る! 触っている途中でビクッと動いたら嫌だろう?」
「我慢しないで行けナーガ! 男だろう!!」
「イツキまで言うか!? ……仕方無い、俺が終わったらお前らも行けよ?」
ナーガは腰を屈め恐る恐る倒れたヴレインに近づく。白眼を向いていて非常に不気味だ。
指先を伸ばして脈を取ろうとしているナーガをよそにクロトが俺の肩を意味ありげに二、三度叩く。親指を上げて了承して、クロトと俺でゆっくりナーガの後ろに近づき……
「「ワッ!!」」
「ひぃいえーー!! ……ってお前らか、 ビックリしただろうがーー!!」
しばらく場にそぐわない楽しげな空気が流れる。
クロトとは親しくなれそうだ。
「お、おいお前ら後ろ見てみろヤバいぞ!」
「おいおいそんなことでさっきの仕返しをしようとしても無駄だっての」
「正にイツキの言うとおりだ」
騙されないというのにナーガはしつこく後ろを見ろ見ろうるさいので、仕方なく騙されて後ろを見てみると……ヴレインがビクッビクッと微妙に体を動かしていた。
急いで止めを刺そうとクロトが大剣を振り下ろしたが不可視のバリヤーいや、魔法障壁がその攻撃を防いだ。ヴレインは魔法障壁の中でゆっくり立ち上がると鼓膜が破れるほどの咆哮を上げる。
そして背中の骨が折れるんじゃないかというほど背中を曲げ、黒い翼が皮膚を破って生えてきた。続いて目がパックリ割れ、赤黒い剣が片手におさまり、最後にベアンテの精霊殊が額に浮かび出たかと思ったがどうやらそれだけで終わりではなかったらしい。
不気味なヴレインの体がどんどん大きくなっていくのだ。魔法陣が描かれた床も不吉な音をたててひび割れて崩壊の一途を辿っていく。
ここにいては危険だと感じた俺達が避難する間もどんどん大きくなっていく。
ビル程の大きさになったヴレインを民家の屋上から見た俺はいったい誰があれを倒すのだろうと他人事に考えていた。隣のアホ達もポカーンとしている。
俺はマンガやTVで悪者が巨大化する様を何度も見ていたからビックリはするけど放心はしないが、そういう経験のないナーガ達は天地が引っくり返ったような衝撃だろう。
さてウルトラマンを呼ぶ準備でもしようかなww
最後のはジョークです!!