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樹当千  作者: 千葉
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五十八話 血液

なんだか文章が短くなっている?

感想をいただければ嬉しいです


人狼姿のケンはおそらく百kgを超すだろう巨体で突っ込んでくるので俺は一度右に飛ぶと見せかけ、逆方向へ飛んだ。

何せあの巨体で突っ込んでくるのだ。爪で攻撃してくるにせよ何にせよ、あのスピードでかなりの重さが加わっている。普通に攻撃を受けたら、槍は壊れないにしても受け止める体の方が持たない。


その試みは見事成功して、ケンの攻撃をかわした。ケンは鋭い爪で地面を掴んで減速すると再び向き直る。普通ならここで軽口をたたきたいところだが何分俺にそんな余裕は無い。


『良しっ、そこだ! やっっちゃえ!!』


フィランの可愛い応援に心癒されながら(我ながら結構余裕だな)、右の【天沼矛】でケンの毛皮で覆われた背中へ鋭い穂を突き刺す。だが少しは穂が突き刺さったもの、やはり硬い毛皮で奥まで突き刺さらない上に、すぐケンに片手で振り払われてしまった。


『やっぱり手ごわいな』

さすがにケンの手前声を出すわけにはいかず、心の中でフィランに話しかけた。


『いや、単純に君の力不足じゃない? あの女精霊がいた頃の君だったら余裕で貫いてたよ。さすがにあの人狼もちょっと油断しすぎたみたいだね』


フィランの言うとおりケンは表情を真剣なものにし、どういう原理かは分からないが爪を十センチほど伸ばすと野性の狼のように両手を地面についた。


「これが俺の本気だぜ! ちょっと速くなるからちゃんと着いて来いよ」


ケンはそう言うと共に残像を残して消えた。まさに消えたのだ。

たしか以前似たようなことがシクエちゃんとの稽古であったが正にその時と同じだ。


どこがちょっとだよ! 軽トラとコンコルドぐらい違うわっ!!


とりあえず前方と後方に槍を構えてガードするが本当に全てガード出来るとは思ってない。ただ致命傷を避け、次の攻撃に繋げるためにやっているのだ。俺が達人だったら気配とかで分かるとは思うが無いものねだりは見苦しいので止めにしよう。


そしてその時が来た。

『危ない!』


フィランの声で思わず一歩下がった俺の首から血が流れ出る。攻撃した瞬間ケンの姿が見えたので槍で目を突こうとしたがまた猛スピードで動き、目の前から消え去ってしまった。


しかし、このままじゃマジでヤバイ。さっきのはフィランが気づいてくれたのとただの運に過ぎない。次来たらもうお終いだ

人は死があまりにも近いとかえって冷静になるらしい。今の俺が正にそれだ。


現に足は震えているし、無性にお花を摘み(トイレ)に行きたくなっている。いやちょっと湿っているかもしれない?


俺はやっぱ世界一のヘタレだ!!


『まぁこの人生がたまたまついていなかっただけだよ』


『人生規模でダメだしされた!?』


『で、どうすんの?』


『無視された……。まぁ、一つだけ方法があるっちゃあるんだけど、たぶん俺も死ぬ可能性が高いな』


『じゃっ、それで♪』


『鬼だっ!』


『まぁまぁ、死ななかったらご褒美あげるから☆』


命をかけてくれるご褒美だったら俺はよっぽど良い物じゃないと認めんぞ。ユーリィのキスとマキアのキスぐらいじゃないと、とつまらん(重大)ことを考えている暇が勿体無い。さっさと終わらそう。


槍の穂で手首をばっさり切る。案外手首は血が出にくいのでばっさりやるのがコツだ。マジで死ぬほど痛いが、当然のごとく出てきた血液を溢さずに口内へと流し込む。

口の中に鉄の味が広がって気持ち悪いが我慢して口に溜め、充分溜まったところで俺は消毒の時にやる酒での消毒の要領で霧状にして一気にあたりに噴き出した。


「ついに血迷ったか!? なら俺があの世へ送って正気に戻してやるよ!!」


†  †  †  †


奴は完全に俺のスピードに着いてこれてねぇ。


終には血迷って自らの手首を斬り、流れ出た血を口内に含むと霧状にして噴き出し始めた。

何の遊びかはわからねぇが見苦しいことこの上ねぇし、霧状の血液があたりに漂うだけで何の効果もねぇ。


やはりこいつは植物を操ることが出来なければ何もできねぇクソ野朗だ。


霧も消えたところでとっとと止めを刺そうと俺はスピードを維持したまま奴の背後から襲いかかった。

ズブッ

やっぱ爪が肉に突き刺さる音は何時聞いてもたまんねぇな。俺はこの音が好きで人を殺していると実感する。


だがおかしいな。いつもは人を殺すと頭がスッキリするのに、今日は頭にまるで焼きごてを入れられたみたいに熱い。汗がとまんねぇし、あれ……これ汗…じゃねぇや

血……!? いった…い誰の……だ?


†  †  †  †


後ろでズシンと重い音をたたせてケンが倒れた。ケンの頭に突き刺さっている槍を抜くとため息をつく。

なんとか一発で殺れたみたいだな。


『どうやって倒したの?』


フィランがいかにも不思議そうに聞いてくる。


「血液を霧状にして撒いて高速で動くケンを赤色でマーキングしたんだよ。途中で霧が消えた時も赤色は目立つから、なんとか動きを線で追えたのさ。後は襲い掛かってきた所を槍で迎えればいいだけ。本当にそれだけだよ」


フィランから賞賛の拍手が送られたが俺は既に立っていられる状況じゃなかった。

さすがに血を失い過ぎて頭に靄がかかったようにボンヤリしてきた。

いまだ手首からは血がドクドクと流れ落ちているのを感じる。止血しなくちゃと片手で押さえたが出血で力が入らない。


『イ……どう………?』


途切れ途切れに聞こえるフィランの声をBGMにして俺は意識を失った。


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